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第一部第七章 炎の英雄 1030時 キンメルは、目の前で起きている光景が信じられなかった。 戦艦が「「我が合衆国海軍の誇る三年計画戦艦が、たかが航空機の攻撃で次々と 炎上し、傾き、沈んで行く。それは、砲術のエリートとして常に出世コースの先頭 を歩いて来た彼にとって、絶対に起きる筈の無い「「いや、起きてはならないこと だった。 直掩機を軽々と蹴散らして迫って来た日本軍の攻撃機は、まず戦闘機を露払いに して突入して来た。機銃しか持たない戦闘機如き、何するほどのことも無い「「誰 もがそう信じ、零戦の突撃を全く意に介さなかった。主砲射撃の妨げになることを 恐れて、対空火器の使用を禁じた艦長もいたほどだった。 だが、F4Fを手もなく捻った恐るべきスマートな機影の戦闘機は、撃ち上げら れる対空砲火を、蝶のような機動でひらりひらりとかわすと、機銃掃射を行って対 空機銃座を潰しに掛かった。銃座は、視界を確保するために剥き出しであるから、 要員は堪ったものではない。多くの者が、悲鳴と共に7.7ミリ弾に全身を蜂の巣 にされ、20ミリ弾に粉砕されて、甲板上を血に染めた。 一つ、また一つと機銃や対空砲が沈黙して行く。今や米戦艦部隊は、自らの身を 守る手段すら失いつつあった。 そこへ、急降下爆撃機が突入して来た。一列になって、60度と言う化け物じみ た角度で飛び込んで来た彼らは、運んで来た爆弾の殆どを命中させて行った。1編 隊当たり10機以上が投弾しているにもかかわらず、目標とされた艦の周囲に立つ 水柱は、いずれも3本に満たない。 戦艦や巡洋艦の艦上に次々と爆炎が踊り、生き残っていた対空火器や、副砲など を叩き潰し、吹き飛ばし、甲板を月面さながらの痘痕面に変えて行く。艦橋に直撃 した爆弾は艦長以下の首脳部を抹殺し、檣楼頂部を直撃した一弾は、主砲射撃指揮 装置やレーダーのアンテナを吹き飛ばした。電路を切断されて使用不能になる主砲 塔も、1基や2基ではない。巡洋艦に至っては、爆撃だけで致命傷を負った艦もい る。重巡「ソルトレイクシティ」が、魚雷発射管に250キロ爆弾の直撃を受けて 誘爆を起こした。艦中央部から火柱が何本も立ち昇り、カタパルトやクレーン、水 上機がバラバラになって、空中に巻き上げられた。周辺の対空機銃や高角砲が、要 員もろとも炎に呑まれ、砲弾が暴発する。9800トンの排水量を持つ「ソルトレ イクシティ」の艦体は、中央部から真っ二つに折れ、艦首と艦尾が高々と持ち上が った。次の瞬間、前部弾薬庫が誘爆した。沈みつつある「ソルトレイクシティ」の 前半部は、内部からの爆発によって完全に四散した。特徴的な三脚檣が、炎の雲の 中で溶け崩れて行く。水蒸気と黒煙を激しく巻き上げて、「ソルトレイクシティ」 はこの世から姿を消した。 ここに至ってついに、キンメルも事態の重大さを悟ったが、その時には既に、魚 雷を胴体下に釣り下げた艦攻の群が、海面を這うような超低空飛行で迫っていた。 まず、「マサチューセッツ」が血祭りに挙げられた。右舷に集中して7本の魚雷 を叩き込まれた「マサチューセッツ」は、ものの十数分で呆気なく転覆し、艦首を 高々と突き上げて沈んで行った。 キンメルを含め、米軍将兵の誰もが息を呑み、信じられない思いで、黒煙と共に 沈んで行く、かつて「ビッグ・メイミー」と愛された戦艦の最期を見つめていた。 「これは嘘だ……嘘に違いない……」 キンメルの口は、辛うじてそれだけの言葉を紡ぎ出すのがやっとだった。今まで 自分の拠り所にしていた物が、呆気なく崩れ去ってしまったショックに、思考が凍 結してしまった。 今や、太平洋艦隊が壊滅を免れる手段は失われた。上空を守るべき戦闘機は、昨 日からの一連の戦闘で全て叩き落とされ、海底に沈んでいる。各艦が装備する対空 火器も、銃爆撃によって半数以上が使用不能に陥った。そして、腹の下に魚雷や爆 弾を抱えた日本機の編隊は、すっかり密度の薄くなった対空砲火を易々とかい潜り、 次々と米軍の艦艇を仕留めて行く。悪いことに、後退する日本艦隊を追いかけよう として、米艦隊の隊列は完全に乱れていた。ただでさえ対空防御力の弱い単縦陣を 採っている上にこの状態では、対空弾幕は全く用を為さない。 ペンシルバニア級戦艦の「アリゾナ」が、水平爆撃機が投下した800キロ徹甲 爆弾を、第二砲塔直後に受けた。一瞬後、艦橋の真下から猛烈な火柱が奔騰し、司 令塔と三脚式の前檣楼を呑み込んだ。続いて前部2基の主砲塔が、下からの爆発に 突き上げられて高々と宙を舞い、跡の開口部から真っ赤な炎の雲が湧き出した。弾 薬庫の誘爆によって前部の船体を滅茶苦茶に引き裂かれた「アリゾナ」は、黒煙に 包まれ、艦尾を上にして海底へと消えた。 続いて、第二任務部隊の「コンスティテューション」が犠牲になった。左右両舷 から、合計21機の雷撃機の挟み撃ちを食らった「コンスティテューション」は、 左舷に4本、右舷側は艦首から艦尾まで満遍なく、11本もの魚雷を叩き込まれた。 恐るべきは、神技の技量を誇る、日本空母航空隊の練度だった。これだけの魚雷を 一度に叩き込まれて、無事でいられる道理がない。「コンスティテューション」は、 あっと言う間に左舷に転覆して赤い下腹を晒すと、次の瞬間船底を破って吹き出し た火炎に包まれた。急な転覆で弾庫内の主砲弾が転がり、誘爆したのだ。 泡を食ったのが、後続の「ユナイテッド・ステーツ」だ。レキシントン級は、長 大な船体が災いして舵の効きが鈍い。艦長のハワード大佐が、後進全速・面舵一杯 を命じ、260メートルの巨体が回頭を始める頃には、転覆して炎を吹き上げる 「コンスティテューション」が間近に迫っていた。「ユナイテッド・ステーツ」は 艦首を回していたが、舵が取れていても、49000トンの戦艦が持つ慣性ベクト ルは、そう簡単に打ち消すことは出来ない。「ユナイテッド・ステーツ」の艦首が、 轟音と共に20ノットを超える速度で「コンスティテューション」の艦底に突き刺 さった。衝撃が全艦を揺るがし、乗組員の多くがバランスを崩して床に叩き付けら れる。ひしゃげた艦首から重油が流れ出して海面に黒い膜を作り、入れ代わりに海 水が猛然と艦内に雪崩込んで来た。幸いにも、ハワード艦長の対処指示が的確だっ たために、沈没に直結するような被害は免れたが、「ユナイテッド・ステーツ」の 速力は、損傷と浸水のために18ノットにまで低下し、傾斜によって主砲の照準が 出来なくなった。「コンスティテューション」があっと言う間に沈んだ上に、「ユ ナイテッド・ステーツ」の衝突がそのスピードに輪を掛けたことで、「コンスティ テューション」の生存者は皆無だったため、スクリューで海上の人間を切り刻むよ うな事態は避けられたが、これでは不幸中の幸いにすらならなかった。 「ノースカロライナ」が燃えている。現在世界で最も新しく、最も強く、最も強 運の艦とキンメルが期待をかけ、つい先程米戦艦初の命中弾を「陸奥」に見舞って その強運ぶりを証明して見せた艦が、10発以上の800キロ徹甲爆弾と、それに 倍する250キロ爆弾の直撃を全艦に浴び、左右両舷から10本近い魚雷を叩き込 まれ、大傾斜を生じて激しく炎を吹き上げている。尖塔状の艦橋は、基部の艦橋構 造物ごと跡形もなく倒壊し、艦長以下の艦首脳部を含む艦橋要員全てを、鉄と炎の 中に埋葬している。三連装4基の主砲塔は全て、天蓋をぶち抜かれ、砲身をあらぬ 角度へねじ曲げられ、バーベットを歪められて、炎の中に無残な姿を晒している。 既に機関も発電機も止まり、火災や浸水に対処したり、総員退艦命令を出す者もい ないまま、「ノースカロライナ」は炎と水と言う本来相反する性質を持つ筈の二者 に同時に侵され、自然の力の為すがままに沈みつつあった。 「ウェストバージニア」は艦尾に魚雷を受け、舵を壊された。操舵不能となった 「ウェストバージニア」は、大幅に速力を落として、よろめくように航行していた。 「アイオワ」は、左舷にばかり連続して雷撃を受けた。合計被雷本数は20本を 超える。「アイオワ」は、サンドバッグのように何度も右舷に向かって揺さぶられ た後、倒れ込むように左舷に転覆して、そのまま沈んで行った。後には、流出した 重油の膜と、甲板に近いところにいたために、被雷のショックで海上に投げ出され て助かった僅かな将兵の姿があるばかりだった。 さらに、テネシー級戦艦の「カリフォルニア」が、800キロ徹甲爆弾に弾薬庫 を直撃された。後部2基の三連装主砲塔が、内部からの爆圧に突き上げられて台座 から外れ、お手玉のように軽々と宙を舞う。続いて艦中央部からも爆風が吹き出し、 2本の煙突と篭マスト、対空機銃、高角砲、艦橋構造物やボイラー、隔壁の破片、 黒焦げになった肉片や内装の残骸といった雑多な物までを、一緒くたにして爆炎と 共に空高く舞い上げた。「カリフォルニア」は暫くの間、空母のような姿になった 残骸を黒煙の間から垣間見せていたが、やがて艦首からのめり込むように沈んで行 った。 「コロラド」は、艦橋に800キロ爆弾の直撃を2発連続で受けた。一瞬で叩き 潰された艦橋は、次の瞬間衝撃で崩れ落ちて来た前檣楼の残骸の下敷きになった。 中にいた人間の運命については、言うまでもない。 「レンジャー」は、前甲板と後甲板にそれぞれ10発以上の250キロ爆弾を投 下されて、激しい火災を起こしていた。4基の16インチ連装砲塔が、炎に包まれ て赤く熱せられている。消火班が駆けつけたが、零戦の機銃掃射に薙ぎ倒された。 砲塔内部の要員が生きたまま蒸し焼きになるのは、時間の問題だった。 「ワシントン」は、250キロ爆弾11発、魚雷8本を受けて、完全に転覆して いた。総員退艦命令は当の昔に発せられていたが、艦内にはまだ、逃げ遅れた将兵 が大勢取り残され、艦と運命を共にする瞬間を待っていた。 日本軍の攻撃機が去った時、海上には、満身創痍と化した米艦隊がのたうってい た。戦艦の数は3分の2に激減し、残る艦も無傷の物は一隻もない。巡洋艦以下の 艦も、「ソルトレイクシティ」「チェスター」「ヘレナ」「ラーレイ」「デトロイ ト」の5隻と、駆逐艦4隻が沈んでいた。 キンメルは、暗澹たる面持ちで、廃船の群のようになった艦隊を見つめていた。 「閣下……」 彼の心中を察してか、スミスが声を掛ける。 「まだ敗北したと決まったわけではありません。日本軍の戦艦部隊を追撃して撃滅 すれば、勝機はあります」 「いえ、追撃の必要はなくなったようです」 「サウスダコタ」のカー艦長が指差した先には、反転して引き返して来た日本戦 艦部隊が、全速力で突進して来る姿があった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Vol
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