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第一部第六章 鉄の殺戮 1030時 米太平洋艦隊 帰投して来た攻撃隊の姿を見て、豪胆で鳴らすハルゼーも、さすがに絶句した。 出撃時は240機いた攻撃隊が、僅か1割足らずの22機にまで激減していたから だ。生き残った22機も、無傷の物は殆どいない。「ヨークタウン」に帰投した F4Fが、着艦した途端に主脚が折れ、甲板上を横滑りして艦橋後部に激突した。 「エンタープライズ」に着艦して来る機も、これでまだ飛んでいるのが奇跡に思え るくらいに痛めつけられている。 「やはり、航空戦では数が物を言うんですね……今更言っても詮無き事ですが」 ジェームズ・ベイツ参謀長の呟きに、ハルゼーは「まったくだ……」と、怒りを 押し殺したような声で答えるだけだった。ただ、艦橋の窓から惨澹たる状況の甲板 を見つめるその目が、はっきりと日本航空部隊に対する復讐を誓っていた。 「航空部隊の被害状況のレポートが入りました。F4Fは、出撃72機中57機が 未帰還。生還した15機の内、6機が損傷のため再使用不能です。ドーントレスは、 78機中71機が未帰還となりました。こちらは、生還した全機が修理すれば使え る状態にあります。最後にデバステーターですが……」 ブラッカー航空参謀が、言い辛そうに報告書を読み上げた。 「出撃90機全機が未帰還。一機も戻っておりません」 「そうか……再使用可能な機体は、何機残ってる?」 「攻撃隊の修理が完了したとして……F4Fが、直掩に残っていた物を含めて93 機、ドーントレスとデバステーターは、予備に残していた機体と偵察隊の物を含め て、それぞれ46機、25機です」 「再出撃させますか?」 ベイツが訊ねる。まさかとは思ったが、この提督ならやりかねない。 しかし、さすがのハルゼーも、これには首を横に振った。 「いや。残った機体は、いざと言う時のために取っておこう。但し、F4Fは帰っ て来た奴も含めて全部上げるんだ。ジャップどもの攻撃隊が来るだろうからな。全 機阻止出来るとは思えんが、少しでも数を減らしておかねばならん」 だが、ハルゼーの心配は杞憂に終わった。少なくとも、この時点では。 12月23日 0830時 「1時方向、水平線上に敵艦隊!」 連合艦隊旗艦「長門」の見張り員が叫んだ。 艦橋に居合わせた士官達が、双眼鏡を構えて一斉に水平線を見つめる。やがて、 小さな黒点がぽつぽつと現れ、やがてそれは、黒煙をたなびかせる重厚な艦影と姿 を変えた。 「おぅ、来たな」 「長門」の艦橋で、山本が悠揚とした声を上げた。 「予定通りの作戦で行く。よろしく頼むぞ」 古賀は肯くと、大きな声で命令した。 「距離40000で面舵一杯。敵の頭を押さえる!」 やがて、「長門」の檣楼にするすると二枚の旗が上がった。「突撃。我に続け」 の信号旗と、もう一枚は、日露戦争当時の日本海海戦以来の係旒となる、「皇国の 興廃繋りてこの一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」を表すZ旗だ。 そして、「長門」の艦体が大きく左舷に傾ぎ、250メートルの巨体が右舷に向 かって回頭を始めた。 日本艦隊が変針するのを見て、キンメルはにやりと笑った。 「数の不利を承知で、敢えて同航戦を挑んで来るとはいい度胸だ。艦長、こちらも 取り舵に変針。堅実に戦って、堅実に勝つとしよう」 平行に航行しながらの殴り合いとなる同航戦では、攻防の性能に勝る方が勝利を 収める。艦隊決戦の常識だった。 術中に相手がはまったと確信したのは、山本も同じだった。 「33000で砲撃開始。但し、適当に撃ち合ったら後退しろ!」 日本側は、先頭から「長門」「陸奥」「扶桑」「山城」「伊勢」「日向」「比叡」 「霧島」の順で並び、その後から重巡部隊が続き、両側を18隻づつの駆逐艦が固 めている。米艦隊は、旗艦「サウスダコタ」を先頭に、サウスダコタ級、メリーラ ンド級、旧式戦艦部隊の順に並ぶ第一任務部隊、その後から、レキシントン級6隻 の第二任務部隊が続く。指揮官は、ウィリアム・パイ中将。巡洋艦を中心に構成さ れた第三任務部隊は、殿軍を務めていた。指揮官は、レイモンド・スプルーアンス 少将だ。 両軍の艦隊は、単縦陣を描いて並進しつつ、徐々にお互いの距離を詰めて行った。 0920時 「距離33000!」 「撃ち方始め!」 古賀が号令した。その直後、連合艦隊の戦艦8隻が、一斉に主砲を斉射した。 20発の16インチ砲弾と、64発の14インチ砲弾が、大気を切り裂きながら、 30キロ以上彼方の米艦隊目掛けて突進する。 殆ど同時に、キンメルも砲撃開始の号令を放っていた。22隻合計152門の 16インチ砲と、68門の14インチ砲が、オレンジの発射炎と共に、長大な砲身 から飛び出す。 双方の至近の海面に無数の水柱が立ち昇り、次いで各艦の甲板上に怒涛となって 流れ落ちた。 「サウスダコタ級の先頭艦から順に集中攻撃だ。他の艦は後回しにしろ!」 古賀の指揮の下、「長門」「陸奥」が放った斉射は、「サウスダコタ」の両舷に 20本の水柱を上げた。 「夾叉しました!」 「長門」の砲術長が、嬉々とした声を上げる。一瞬遅れて、「陸奥」の砲弾も、 「サウスダコタ」を夾叉していた。 同時刻 決戦海域南方約60海里 一航艦・二航艦合わせて16隻の空母の甲板上は、爆弾や魚雷を抱いた艦載機で 溢れ返っていた。五航戦の「隼鷹」「飛鷹」は、艦隊防空用に零戦しか積んでいな いが、それでも甲板上では、攻撃隊に随伴する零戦隊が、今や遅しと発艦の合図を 待ち構えていた。 やがて、発艦宜しの信号旗が振られ、待機していた攻撃隊が、次々に飛び立って 行く。零戦252機、九七艦攻166機、九九艦爆166機。合計564機と言う、 攻撃隊としては空前の規模だ。世界初の大規模飽和航空攻撃。その真価が問われる のは、時間の問題だった。 0930時 「馬鹿な……」 キンメルの表情に、焦りの色が見え始めた。合衆国側の戦艦で、夾叉弾を得た物 はまだ一隻もない。にもかかわらず、日本側の戦艦は、次々と命中弾を送り込んで 来るのだ。 「確かに、我が軍の戦艦の主砲弾着のばらつきは、良好とは言えん。だが、同じ条 件でこの差は何なのだ……」 日本軍が装備していた兵器の中で、地味ながらも大きな威力を発揮した装備の一 つに、九八式発砲遅延装置がある。主砲各砲門に流れる発砲合図の電流の流れを調 整して発砲のタイミングを微妙にずらし、斉射時でも空中で砲弾同士が干渉し合っ て弾道が歪むのを防ぐ装置だ。このため、日本軍の艦艇は戦艦から駆逐艦に至るま で、主砲弾の散布界が極めて狭かった。これは、それだけ命中率が良好なことを示 す。特に、この装置を持たない合衆国戦艦との命中率差は3倍にも達すると言われ ていた。その効果が、目に見えて現れていた。 「サウスダコタ」は、「長門」「陸奥」の集中砲火を受け、高初速の16インチ 砲弾を20発近く叩き込まれて、激しく炎上していた。4基の主砲塔は、未だにそ の全てが健在だったが、前檣楼と一体化した煙突は後半部を削り取られ、艦尾の水 上機カタパルトとクレーンは根こそぎ吹き飛ばされ、後部射撃指揮所も命中弾を受 けて叩き潰されていた。 右舷側の舷側には、既に10発近い砲弾が命中し、貫通弾こそなかったものの、 平坦な箇所を探すのが困難なほど激しい歪みが装甲全体に生じ、あちこちに亀裂が 入っている。ケースメイト式に装備された右舷側10門の6インチ単装砲と、4基 の3インチ連装高角砲は、いずれも跡形も無くなっていた。 「インディアナ」は、第二戦隊4隻の猛攻を受け、艦上構造物のうち比較的脆弱 な航空設備や補助火器などを全滅させられ、第三砲塔が電路を切断されて旋回不能 に陥っていた。装甲を貫通する威力こそ無いものの、4隻合計48門の14インチ 砲弾の嵐は、「インディアナ」の戦闘力をじわじわと奪って行く。 「マサチューセッツ」は、第三戦隊の攻撃を受けていた。こちらは殆ど致命傷と 言える損害は生じなかったが、次々と着弾する砲弾の雨は、将兵の心胆を寒からし めるに十分なものだった。 だが、キンメルの心配は杞憂に終わりそうだった。 「第14斉射、目標を夾叉しました!」 「サウスダコタ」の見張り員が叫ぶ。 「馬鹿者、遅い!」 叱責を飛ばしながらも、キンメルの表情は、次第に希望の色を取り戻しつつあっ た。そうだ、数において3倍の優勢を誇る我が軍が、たかだか戦艦8隻の艦隊に敗 北を喫する道理が無いのだ。例え命中率の差があろうとも、数によってカバーする ことは十分可能だ。恐れることはない。 彼の判断は、正しかった。戦場に存在するのが、戦艦のみである限りは。 「命中です!」 「ノースカロライナ」の砲弾が「陸奥」をクリーンヒットし、第三砲塔を叩き潰 して、火災を発生させた。太平洋艦隊の逆襲が、始まろうとしていた。 「敵艦隊、後退して行きます!」 見張り員の報告に、キンメルは首を傾げた。 「山本は怖じ気づいたのか……?」 「恐らく、主力艦の損耗を控える作戦なのでしょう。連中の戦艦は、おおむね我々 のものより高速です。後退しながら戦って、航空部隊の攻撃圏内に我々を引き込む 作戦かと」 「ふむ、苦肉の策と言う奴だな。では、お言葉に甘えて追撃させてもらうとしよう。 我々の戦艦が、航空機ごときの敵ではないことを証明してやろうではないか」 「4時方向に敵機! こ、これは……」 「サウスダコタ」の見張り員が、狼狽した声を上げた。 「どうしたと言うのだ!?」 スミス参謀長が、怪訝そうな様子で問い質す。 「だ、大編隊です! およそ400……いや、500機はいます!」 「ハルゼーの直掩機はどうした!」 「既に迎撃に……ああっ、だめです! 全く防げません!」 攻撃隊の露払いを務める150機の零戦が、上空直掩に上がっていた93機の F4Fを、赤子の手を捻るように易々と叩き落とす。艦爆と艦攻の群は、何ら妨害 を受けること無く悠々と迫って来た。 0950時 「おうおう、やっとるやっとる」 「蒼龍」艦攻隊長の村田重治少佐は、眼下で繰り広げられている一大艦隊決戦を 見て呟いた。双方とも沈没艦は出ていないようだったが、多くの艦が艦上構造物に、 爆炎に撫でられた跡をはっきりと残していた。 (ここで敵艦に雷撃を見舞えば、戦況を一気に傾けられる) 一瞬で目標を見極め、彼は後席に座る偵察員と機銃手に向かって叫んだ。 「長池、森島、サウスダコタ級の4番艦を食うぞ!」 「了解!」 背後の伝声管から、二人の威勢のいい声が返って来る。村田機は、ぐっと高度を 下げると、列機を引き連れ、激しく対空砲火を撃ち上げつつある戦艦部隊目掛けて 降下して行った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Vol
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