連載 #5109の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
音楽が止んでいることに気付いたのは、メルキオルの声が耳に入ってからだ った。 『見事だな、小娘』メルキオルはわざとらしい拍手の音を立てていた。『おか げで良い魂が取れた』 サオリは立ち上がると視線を下に向けた。原型を留めぬまでに粉砕されたソ ウルズの頭部と、肘まで血で染まった自分の腕が握った槍。 1時間前までのサオリだったら、悲鳴をあげて槍を放り出したかもしれない。 今のサオリは違った。 「うるさいわね、くそじじい」手を振って血をはらう。「さっさと次を入れな さいよ」 『お前の魂にタイトルをつけるなら怒りというところだな。それとも憎悪か』 「だれのせいだと思ってるのよ。歳をとるとそんなこともわからなくなるの? 脳味噌腐ってるんじゃないの?」 『私を怒らせようとしても無駄だぞ』すでに怒っているような声でメルキオル が答えた。 「怒らせようなんて思ってないわ。侮辱してるだけよ」 咳こむような音に続いて、何かが壊れるような音が聞こえた。 『こっちのガキの命が、我々の手に握られていることを忘れるな』 「サニルに指一本触れてごらん。あんたを10時間かけて拷問した後、宇宙に 放り出してやるからね。それとも生きたまま焼却炉に放り込んでやる。あたし はやるといったらやるわよ」 『彼女を……甘く見ない方がいい』そう言ったのはカーティスだった。『あれ は脅しなんかじゃない。保証する』 『黙れ、ばかものども!』メルキオルは怒鳴った。 『おい!』カスパルの声が割り込んだ。『何かが接近中だ』 『なんですって?』バルタザールが不審の声をあげる。 『間違いない。相当高速だ』 サオリは息を呑んで次の言葉を待った。が、隣の部屋とのリンクは、断ち切 られたようだった。 「くそじじい!何とか言いなさいよ!」 サオリの声は空しく響くだけだった。 「どういうことなのだ」メルキオルはカスパルを問い詰めた。「これほど早く 到達できるはずがない」 「私にもわからない」カスパルは矢継ぎ早にコマンドを与えながら答えた。「 おそらく我々が知らない高速航行テクノロジーを使ったんだろう。何しろ、3 0年だからな。我々が眠っている間にどんなテクノロジーが開発されていても 不思議ではない」 「要撃システムはどうなの?」バルタザールが訊いた。 「稼働している。ただ、これほど高速だとミサイルで迎撃するのは難しいかも しれんな。照準システムは問題ないんだが、ミサイルの推進能力が追いつかな い」 「レーザーは?」 「もちろん可能だ。だが、そちらに全てのエネルギーを回すわけにはいかん。 これまでは<ベツレヘム>のほとんどが休眠状態にあったが、今は全ての施設 がフル稼働しているからな。おまけに計画関係のサブシステムだけは、絶対に 必要量のエネルギーを確保しなければならない」 「やむを得ない。各コロニーに発している干渉パルスを中断するのだ。とにか く、今、計画に邪魔が入るのは好ましくない。コロニーの方はすでに種がまか れている」 「わかった。パルスレーザー発振を停止する」 「迎撃急げ」 <ベツレヘム>に接近中の8機の宇宙機は、大きさも形状も様々だった。高 加速に対する犠牲として、プログラミングされた針路を変更する手段は用意さ れていない。もちろん、人間の身体は50Gという初期加速度に耐えられるよ うにできていないので、無人である。 1番機だけは、他の7機よりも時間的距離にして7分ほど早く発進していた。 この機は斥候の役目を帯びていた。<ベツレヘム>の至近距離をフライバイし て情報を後続機、および<ジブラルタル>に送るのである。 2番機から8番機には、どれも強力な指向性熱噴流発生爆薬が搭載されてい た。分厚いコロニーの外壁に穴を開けることもできる。たとえ機体が迎撃され ても、その直前に起爆させれば、維持される慣性によって高熱の噴流は目標に 到達できる。 1番機が相対距離400キロメートルを切ったとき、<ベツレヘム>の外壁 の一部が開き、X線レーザーが発射された。本来レーザーは可視光線ではない が、射撃管制システムによる誤差修正作業が容易になるように、可視光線が同 時に発射されている。 レーザーは正確に機体を貫いた。だが致命傷ではない。一番機の管制OSは 必死であらゆるデータを後方へバースト転送している。同時にわずかに搭載さ れている推進剤を全開し、機体をさらに加速させた。敵の迎撃システムは、再 計算を余儀なくされるだろう。針路そのものは変化していないので、再計算は それほど時間がかからない。第2射の発射まで1秒弱だろう。それでも、その わずかな時間の間に得られる敵の戦術データは、後続機にとって非常に貴重な ものになる。 第2射が発射された。だが、機体が完全に破壊される前に、1番機は斥候と しての役目を全うしていた。 「目標撃破」カスパルは勝ち誇った声をあげた。「目標からの攻撃は認められ ない。各部システム問題なしだ」 「ただの偵察のようね」 「脅かしおって」メルキオルは歯をむきだした。「よし、続けるぞ……」 「待て!」カスパルの声が再び緊張した。「後続機だ。まずい、機数は5…… い、いや7だ」 「神よ。迎撃システムは?」 「計算中だ。だが、どう考えても2、3機はとりこぼすぞ」 「とにかくやるのだ」 「わかっているよ」 ラインの向こうは完全に沈黙している。どうやら、<ジブラルタル>がシャ トルか何かを送ってきたのだろう。サオリはそう見極めると、室内を見回した。 メルキオルは、この部屋をモニタしているようだった。ということは、アイ センサーがどこかにあるのだろう。おそらく高い位置だ。サオリはそれを探し はじめた。 リーフ4の効力もそろそろ薄れだしている。このドラッグは平常時に投与す ると、倦怠感に満ちた多幸症を誘発し、多少の肉体的苦痛を中和してくれる。 だが、その効力は30分と続かない。効力が切れれば、激痛が戻ってくるだろ う。 カーティスはゆっくりと首をめぐらせた。黒衣を着たソウルズたちは、微動 だにせずに銃口を向けている。だが、メルキオルたちは、<ジブラルタル>か らの宇宙機に対処するのに気を取られていて、カーティスに注意を払っている ヒマはないらしい。ヴェロニカも彼らに気を取られている。 だらりと垂らした手が、ブーツに触れている。カーティスはソウルズたちか ら死角になっていることを確認してから、ブーツの踵をスライドさせた。そこ には、スクラッチタイプのハンドガンが収まっている。手の中に隠してしまえ るほどの大きさで、ノッチを一つ外すだけで発射可能状態に展開されるもので ある。 挿弾数はチャンバーを含めて9発。無駄遣いはできない。いつ、誰に発砲す るか。ソウルズたちを一発で打ち倒せれば理想的なのだが。そうでなければ、 サニルを撃つことも覚悟しておかなければならない。カーティスは辛抱強く時 を待った。 つづく
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