連載 #5105の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ジャーランは言いようのない不安にさいなまれながら、通路を歩いていた。 行き先のあてがあるわけではない。サオリ達に合流しなければ、ということは 分かっていたが、どこにいるのかわからないのだ。 数分前まで、ジャーランの意識は、ソウルズに対する純粋な憎悪だけに支配 されていた。「載佳嵐」という自分の名前すら思い出せないほど、強烈な負の 感情に導かれるまま銃を乱射し、無数のソウルズの肉体を血と肉片に変えてき た。ソウルズたちがほとんど反撃してこないことを、不思議に思う余裕もなく、 殺戮の衝動に身を任せたのだった。 その血の宴の時間は、永遠に果てることがないように思われた。ソウルズは 次から次へ行く手に出現し、ジャーランはトリガーを絞り続けた。通路は原始 の本能を刺激する液体で彩られ、無数の臓物や、ちぎれた手足や、原型を失っ た器官が飛散した。 唐突に全意識を支配していた憎悪が消滅したとき、ジャーランは呆然と立ち つくすだけだった。数秒前までのスタッカートの震動と、経験した者にしか理 解できない弾丸が肉体を破壊したときの手応え、流れる血液と体液の記憶が一 斉に甦った。自分の行為が信じられない。カーティスを撃った記憶が甦ったと きは、すんでのところで絶叫するところだった。 だがジャーランはたやすくパニックに陥るような人間ではなかった。一方で 自分の成した殺戮に怯えながら、一方でそれを客観的に分析するだけの冷静さ を残していた。これはジャーランが受けたOSプロデューサーとしての訓練の 賜物でもあったが、サオリ以上に自分勝手な性格も寄与していたのだろう。 素早く過去14年間の自分を振り返ってみる。確かにネオ・ソウルズに対し ての共感や同情など、1ビットも抱いてはいないが、かと言って、皆殺しにし てやりたいと思うほどでもない。神の名を唱えようが、十字を切ろうが、好き にすればいい。自分や家族や友人に迷惑をかけさえしなければ。 サニルが拉致された。このことと関係があるのだろうか?あたしは、それほ どサニルを愛していたのか?いや、それは違う。確かにサニルのことは好きだ し、互いの快楽モードはよく適合している。しかし、冷静に考えてみると、あ たしはサニル自身よりも、サニルが属している環境の方をより好んでいたこと も否定できない。市長の息子という立場だけあって、普通では手に入らないO Sやパッケージに触れる機会は誰よりも多い。それらをひっくるめて、サニル と付き合っていたようだ。従って、サニルが拉致されたからといって、急激に ソウルズに対する憎悪が、他の全てを圧倒するとは思えない。 すると考えられる原因は一つ。ナザレ4000にアクセスしているときに、 何らかの手段でマインド・コントロールを受けたのだろう。 素早くこれだけのことを考えたジャーランは、とにかくサオリやカーティス と合流しなければ、と結論づけた。そして、適当な方向に歩き始めた。 途中、ドアが開放されたままの部屋があったので入ってみた。ターミナルを 発見して駆け寄ると、データグローブに手を突っ込んで、OSを呼び出してみ る。サオリ達の居場所について手がかりが得られるかもしれない、と思ったか らだ。だが、OSは完全にアクセスを拒否していた。いつも腕に装着している 7toH(Seven Tool Of Hacker)は、いつの間にか失っている。戦闘のとき に外れたか、自分で外したかしたのだろう。 記憶したはずの<ベツレヘム>の構造図は、全く思い出せない。記憶したと 思いこんだだけなのか、ジャーランを戦闘に適した場所に導くと同時に消えた のかはわからない。それとも、とジャーランは不安要素を追加した。今、こう して歩いているのも、あるいは誰かの意志なのだろうか。 突然、通路全体にコーラスが響きわたった。 びくっと足を止めたジャーランの前後で、音もなく隔壁が降りた。 閉じこめられた。そしてモーツァルトのレクイエム/ニ短調/K626/キ リエ(哀れみの讃歌)。ジャーランは、心に浮かんだそんな考えに驚いた。は じめて耳にする音楽のはずなのに、なぜか曲名を正確に知っている。 「植え付けられた知識なの?」ジャーランは小声でつぶやいた。 コーラスと管弦楽器音の間を縫って、金属の擦過音が耳に届いた。そちらを 見ると壁の一部がスライドして、3体のソウルズが出現するところだった。 恐怖が忍び寄ってきた。それでもジャーランはスタッカートを持ち上げた。 カウンタは63を示している。これだけあれば、3体を倒すのに充分だ。 ソウルズたちが一斉に動いた。 ジャーランは反射的にトリガーを絞った。セレクタがフルオートになってい たため大量の弾丸が一気に吐き出され、隔壁や壁のプロセラミックスを削り取 った。だが、ソウルズたちは、思いも寄らない素早い動きで姿勢を低くして、 ジャーランの連射を避けた。偶然、数発が一体の脚を貫いたが、ソウルズはう めき声一つあげなかった。 心の中の冷静な部分が、目の前にいる3体が、これまで殺してきたソウルズ たちとは一線を画していることを指摘していた。ジャーランが素人であること を見抜き、狡猾に攻撃のチャンスを窺っている。しかし指はトリガーから離れ ることなく、瞬く間にマガジンに残ったカートリッジを全て射ち出してしまっ た。 銃声が途絶えコーラスが耳に戻ってきた。同時に恐怖が忍び寄る。ソウルズ たちがゆっくりと身体を起こしたのだ。 ジャーランは予備マガジンを求めて、ポケットを探った。一つも残っていな かった。ジャーランはよろよろと後ずさり、壁に背をつけた。 3体のソウルズは、無表情のままジャーランに近づき、3方向からゆっくり と接近してくる。不気味に光る赤い瞳には、義務的ともいえる異質な冷酷さが 宿っている。 一体が手をのばした。 ついにジャーランは耐えていた悲鳴をあげ、ごつごつと太い筋肉に覆われた 腕から逃れようと身をよじった。ソウルズの手はジャーランの首をそれ、カバ ーロールの衿をつかんだ。 熱/放射線遮断の合成繊維はあっさりと引きちぎられ、ジャーランは床に勢 いよく転がされた。カバーロールの背中部分はそっくりなくなり、白い肌がさ らされている。 這って逃げようとしたジャーランの右足を、別の手がつかむ。足首が強い力 でねじられブーツが脱げた。さらに横から足が飛び、脇腹を蹴られた。一瞬、 呼吸が止まり目の前が真っ白になる。 すかさず右手が掴まれた。悲鳴をあげながら身体をよじると、手はあっけな く離れていったが、同時にカバーロールの袖を肩から引きちぎっていった。 後ろから伸びた手が、長い髪の毛をまとめてつかみ、ジャーランの上半身を 床から持ち上げる。別の手が胸元にかかりシールテープを引きちぎり、半ばち ぎれかけたカバーロールの残りを一気にはぎとった。 さらに別の手が、左のブーツを取り去る。 両側から二つの手がスパッツを掴んだ。ジャーランのはかない抵抗を意にも 介さず、スパッツは二つに引き裂かれて取り去られた。 アンダーウェア姿で転がったジャーランは、必死で逃げ出そうと腰を浮かせ た。だが、一体のソウルズが先回りして突き飛ばす。ジャーランの身体は人形 のように通路に転がった。 ソウルズたちがゆっくりと迫る。頭上でレクイエムは繰り返し流れ続けてい た。 つづく
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