連載 #5104の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ヴェロニカも完全に操作方法を熟知しているわけではなく、試行錯誤を繰り 返して正しい方法を探るしかない。そのためサオリが我慢できなくなるぎりぎ りまで時間を費やした。 「終わりました」 ヴェロニカがデータグローブから手を抜いた途端、システム音声が話し始め た。 「NCS−08の、論理/思考セグメントが、外部インターフェイスより切断 されました。最終確認のため、認証動作を行ってください」 ヴェロニカは確認を取るようにサオリの顔を見ると、セキュリティプレート に手を押し当てた。 「作業がコミットされました。以後通常のロールバックは無効となります。機 能回復はRプロシジャーF−820から846の実行、およびR2サブプロシ ジャーF017から021が必要です」 「最初のひとつか」サオリはもどかしそうにつぶやいた。 「手順は理解しました。残りは単純作業です」 「そう願いたいわ」 3人はその場を離れると、次のシールドボックスを探しはじめた。 ハブ部は重要設備が設置されているが、その多くは別の場所からコントロー ルするので、通常人間が歩き回ることはない。メンテナンサーが通れるだけの 狭いキャットウォークだけというセクタも少なくはない。そのため、探索は困 難を極めた。 それでも、3人は20分ほどの間に4つのNCSを切断することができた。 予想したよりも順調だとはいえ、サオリはぶつぶつ言うのをやめなかった。 「なんか余計なことやってるような気がするのよねえ。何が嫌いっていって、 急がば回れって言葉ぐらい嫌いなものはないのに」 「子供みたいに文句を言うのはやめたらどうですか?」カーティスが呆れたよ うに言った。 「ふん」 サオリは鼻を鳴らすと、次のシールドアを調べた。かなり幅の広い人間用の ドアである。 「ヴェロニカ、開けて」 ヴェロニカは頷いてセキュリティプレートに手をあてた。 ドアがスライドした。室内を一目見たヴェロニカは小さく悲鳴をあげた。 広いが薄暗い部屋だった。サオリ達の予想を裏切って、そこには4人の男女 がいた。白衣を着た3人が立ってサオリ達を見つめている。若い男、中年女性、 老人と年齢層は広い。 四人目は、拘束具付きのアームチェアに座っていた。意識を失っているらし く、ぴくりとも動かない。BDA(Brain Direct Access) ヘルメットらしきも ので頭部の半分が覆われている。 「サニル!」 「サニル君!」 サオリとカーティスが声を揃えて叫んだ。 その声に呼応するように照明が灯り、それまで見えなかった部屋の四隅に、 二体ずつのソウルズの姿を浮かび上がらせた。サオリ達が<ベツレヘム>に着 いたとき、最初に襲撃してきたソウルズ達が着ていた黒いローブをまとってい る。 さらにこの8体のソウルズは、これまでのソウルズとある一点で異なってい た。全員が火器を持っていたのである。うち二つの銃口がサニルに狙いを定め ていた。残りはサオリ達に向けられている。 照明が灯った瞬間、カーティスは反射的にスタッカートを持ち上げたが、す ぐに断念した。ここにいるソウルズたちは、これまでのように殺されるのを待 っているだけの存在ではなかった。火器を構える姿は油断のない優秀な兵士そ のものだった。 室内は<ジブラルタル>からの訪問者達には、全く馴染みのない調度になっ ていた。天井が高く、壁の高い場所に窓が開いている。窓にはまっているのは 様々な色彩の小片が集められたガラスである。正面の壁にはホーリー・ソウル ズのシンボル、十字架と魚の巨大なレリーフが見えた。子供の頃は地球にいた カーティスは、かすかな記憶に残っている教会という建物の内部に類似してい ることに気付いた。 左の壁には、様々なコントロールユニット群と、10以上のディスプレイが 設置されていて、サニルが座らされているアームチェアやBDAヘルメットに 何十本ものケーブルがのびている。白衣の若い男は、サオリ達よりもそちらの 方が気になるらしく、複数のディスプレイに表示される数値に視線を向けてい た。 高い天井には、半透明の球体が多数埋め込まれていた。一つひとつは拳ほど の大きさで、内部にはグリーンの液体か気体が満たされているようだった。そ れらの内容物は生物の脈動のように、光を弱めたり強めたりしている。 最初に口を開いたのは白衣を着た老人だった。薄くなった頭髪は全て白く、 顔には無数のしわが刻まれている。腰も曲がりかけていた。この老人が寿命の 後半、それもゴールに近い地点にいるのは明らかだった。1Gの重力下では、 おそらく立っていることもできないにちがいない。しかし、両目だけはぎらぎ らと異常な光をたたえていた。 「ようこそ、諸君」しわがれた声だった。「そこの君、悪いが銃を捨ててくれ んかね。ご覧のとおり、8つの銃口が君たちを狙っている。そちらに一つぐら い銃があったところで何も状況は変わらないよ」 言葉にされないだけで、サニルの命の脅迫を含んでいることは明白だった。 カーティスはやむを得ずスタッカートを床にそっと置いた。 「弟に何をしてるのよ!」ようやくサオリが驚きを怒りに昇華させて叫んだ。 「返してよ、このくそじじい!」 「礼儀を知らぬ娘だ」老人は不快そうにサオリを睨んだ。「不信心者めが」 「大きなお世話よ。サニルを放しなさい!」 「そうはいかん。この子供は、我々の計画に必要欠くべからざる存在なのだ。 お前達はそうではないがな。数合わせにすぎん」 ヴェロニカが進み出た。その顔には、サオリやカーティスと同じ困惑の表情 しか浮かんでいない。 「これはどういうことですか?あなた達は一体誰なのです?」 老人はヴェロニカを見ると、うやうやしく頭を下げた。だが再び上げた顔に 浮かんでいたのは、隠そうともしていないらしい嘲笑だった。 「これはこれは、ヴェロニカ・バーソロミュー様。神の祝福があらんことを」 「私を知っているのですね?」 「もちろんです。あなたも計画の重要な要素ですからな」 「あなたはどなたです?」 「私のことは、メルキオルと呼んで下さい。こちらがバルタザール、そっちの 若い方がカスパル。むろん本名ではありませんがね」 「ここで何をしているのですか?」 「むろんナザレ計画を進めているのですよ、ヴェロニカ様」 「ナザレ計画は止めなければなりません」ヴェロニカは強い口調で言った。「 <ヨハネ22>におけるナザレ計画は失敗し、地球上のあらゆる人間は天に召 されました。あの悲劇を繰り返してはなりません」 メルキオルと名乗った老人は、不気味な音声を連続的に発した。サオリは、 老人が咳き込んでいるのかと意地の悪い満足感を得たが、実は笑っているのだ と気付いて落胆した。 「あなたはこの計画の全てを知らされていたわけではないのですよ。ジン・バ ーソロミュー様の遠大な計画を。あなたの役割を」 そのときカスパルと呼ばれた若い男が言った。 「オブジェクト2のコンバート完了。予定通りだ。指数89.956で安定。 パーソナル・ロイヤリティは完全に掌握している」 「写せ」 カスパルがコンソールのスイッチを弾くと、ディスプレイの一つがライヴ映 像に切り替わった。<ベツレヘム>のどこかの通路を、一人の少女が歩いてい る。ぽっちゃりした身体に長い黒髪。手にはスタッカートを抱えていた。 「ジャーラン!」サオリは息を呑んだ。 ソウルズを殺戮していた無感情な表情は消え、やや不安そうな顔でジャーラ ンは歩いていた。サオリが見守るうちに、ジャーランは近くのドアから、どこ かの部屋に入っていく。映像の視点もそれを追った。 ジャーランは室内でターミナルを発見すると、急いで駆け寄ってデータグロ ーブに手を突っ込んだ。だが、すぐに失望に顔を曇らせてターミナルを離れる。 そして、また通路に戻って歩き始める。 「あの娘の役割は終わりだ」メルキオルはカスパルに言った。「神を恐れぬ不 届き者に罰を与えてやれ」 「何をする気なの?」不安に駆られたサオリは訊いた。 カスパルは答えず、コンソールを操作した。 すぐに音楽が響きはじめた。 つづく
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