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第一部第三章 破局の入口 1941年11月26日 呉 GF旗艦「長門」 「結局、避戦の試みは徒労に終わったか……」 疲れた顔で、山本が呟いた。その手には、今朝配られた、ハル・ノート「「合衆 国政府の突きつけた、対日最後通牒「「の写しが握られている。 「まさか、アメリカの方が戦争を望んでいるとは……」 井上成美航空本部長も、苦い顔で呟く。海軍避戦派の2枚看板として、今日まで 奮闘して来た二人だった。粘り強く妥協を重ね、交渉を続ければ、打開の糸口は見 える「「そう信じて、努力していた。 だが、当の合衆国から最後通牒を突きつけられては、もはや戦争回避の望みは断 たれたも同然だ。かくなる上は、来るべき日米戦を少しでも有利に進め、講和の糸 口を探って行くしかあるまい。二人は、悲壮な決意を固めていた。 同日 南シナ海 海南島 三亜軍港に、一群の軍艦がゆっくりと入港して来た。重巡5隻を露払いに、4隻 の空母が続き、その後ろには、小柄ながら精悍な俊敏さを感じさせるシルエットの 駆逐艦が何隻も控えている。 南方作戦を担当する第二艦隊に新たに増援された、マレー方面南遣部隊だった。 第五戦隊から分遣された重巡「鳥海」を旗艦に、第七戦隊の重巡「最上」「三隈」 「熊野」「鈴谷」、軽空母「龍驤」「祥鳳」「瑞鳳」「龍鳳」、そして駆逐艦6隻 から成る艦隊だ。 本来南方作戦には、近藤信竹司令長官の座乗する戦艦「金剛」以下、同型艦「榛 名」、軽巡「川内」「神通」、駆逐艦10隻から成る第二艦隊で充分な筈だったの だが、数日前にシンガポール軍港に入港した、2隻の戦艦の存在が、その見通しを 木っ端微塵に打ち砕いてくれた。 大英帝国海軍が誇る最新鋭戦艦、「プリンス・オブ・ウェールズ」と、巡洋戦艦 「レパルス」である。「ウェールズ」は、主砲口径こそ14インチ(35.6セン チ)と、「金剛」「榛名」と同じだが、門数は2門多い10門。さらに、初速・発 射速度・射程距離においては、これを凌駕する。装甲も厚く、ウィンストン・チャ ーチル首相をして、「不沈戦艦」と言わしめるほどの高性能艦だった。 「レパルス」は、第一次世界大戦終結直後に建造された巡洋戦艦だ。艦齢こそ古 いが、ジュットランド沖海戦の戦訓「「巡洋戦艦の防御力の低さは、致命的な弱点 となりうる「「を踏まえた改装が施されており、バランスの取れた高速戦艦に生ま れ変わっていた。連装3基6門の15インチ(38.1センチ)主砲は、「ウェー ルズ」のものよりも大きく、スマートな艦形と相まって、パワーとスピードを兼ね 備えた格闘技の選手を思わせる。 この2隻に対して、第二艦隊の「金剛」「榛名」のみでは、まるで歯が立たない とは言わないまでも、劣勢は明らか。万一この2隻が重大な損傷を受けようものな ら、南方作戦が大幅な遅延を来すことは必至だ。かと言って、主力正規空母や他の 戦艦は、米太平洋艦隊に備える以上出すことは出来ない。辛うじて、重巡5隻・軽 空母4隻を捻り出してマレーに向かわせたが、戦力の点では心許なかった。 1923年の実験で、航空機が戦艦を沈め得ることは証明されているが、かと言 って対空火器を撃ち上げながら、高速で回避運動を行う戦艦に、無事に投弾を行え ると言う保証もない。特にイギリス戦艦は、対空火力の優秀さで知られており、全 機が投弾前に撃墜されたとしても、決して不思議とは思えなかった。それに「ウェ ールズ」は、実験で沈んだ「加賀」よりも20年近く新しい戦艦だ。当然、打たれ 強さも「加賀」よりも上で、損傷を受けながらも艦隊や船団に突入して、主砲を撃 ちまくって来る可能性もある。 「やはり、水上砲雷戦も覚悟せにゃならんだろうな……」 旗艦「鳥海」の艦橋で、小沢治三郎中将がぼやいた。 1941年12月1日 結局、期日とされたこの日までに対米交渉はまとまらず、この日の御前会議で開 戦が決定した。東条英機首相兼陸相を始め、内閣全閣僚・陸軍参謀本部総長・海軍 軍令部総長が、全員一致によって対米開戦決議を奏上し、裁可された。 天皇は、まだ思うところがあったようだが、周囲に味方はいなかった。 1941年12月8日未明 中部太平洋 マーシャル諸島 クェゼリン環礁に設けられた飛行場には、巨大な双発航空機がずらりと並んでい た。今年制式化されたばかりの新鋭機、一式陸上攻撃機だ。全長20メートル、全 幅25メートルの巨体を、2基の三菱「火星」1560馬力エンジンが、時速430 kmで引っ張る。胴体内の爆弾倉には、800キロ爆弾または航空魚雷を1発搭載 出来た。何より特筆すべきは、5600キロに及ぶ航続距離だ。これは、脅威と言 って良い。合衆国陸軍の4発機、B17ですら、4400キロが限界なのだから、 信じ難い数字だ。 1番機が、滑るように走り始めた。やがて、機体が浮き上がり、2番機、3番機 「「と、それに続く。60機の陸攻は、まだ闇が残る空へと消えて行った。 同日早朝 中部太平洋 ウェーキ島 定時哨戒に出ようと滑走中のカタリナ飛行艇を、攻撃隊護衛の零戦が撃破して、 それは始まった。続いて来襲した94機の一式陸攻が、滑走路や施設に、60キロ、 250キロ、500キロといった各種の爆弾を次々と投下する。守備隊の兵士は、 始めぽかんとした顔で空を見上げているだけだった。正気に返り、慌てて対空砲の 銃座に飛び付く者や、滑走路に並べてあった戦闘機に向かって駆け出す者もいたが、 彼らには、容赦なく機銃や小型爆弾が見舞われた。 愛機のコクピットに飛び込んだものの、滑走前に20ミリ機銃を食らい、シート や計器板ごとバラバラに引き裂かれるパイロットがいる。 零戦からの銃撃を免れ、辛うじて生き残っていた対空機銃に取り付き、陸攻1機 を撃墜したものの、歓声を挙げる間もなく、別の機から投下された60キロ爆弾の 直撃を受け、銃座もろとも塵と果てる守備隊員がいる。 何をしたらよいのか分からずに右往左往するうちに、250キロ爆弾が至近で炸 裂し、爆風と弾片の嵐でぼろ切れのような姿に変わり果てる整備兵がいる。 滑走路にも、攻撃の手は向けられた。500キロ、800キロといった大型爆弾 が、的確に位置を選んで投下され、コンクリート製の滑走路に大穴を開けて行く。 燃料タンクが爆撃を受け、濛々と黒煙と火炎を吹き上げる。地上に引き出されてい た、F4F戦闘機、B24爆撃機といった航空機は、銃撃を受けて炎上し、至近弾 の爆風を受けてひっくり返り、二度と飛び立てないような姿に変わっていた。 もはや、破壊するものは残っていないと思われるほど、ウェーキ基地は酷い有り 様になっていたが、次々と投下される爆弾の雨は、なおも降り続いていた。 12月7日午後3時(現地時間) ワシントン ホワイトハウス 合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトは、至って上機嫌だった。 「作戦成功ですな、大統領」 コーデル・ハル国務長官が、会心の笑みを浮かべて言う。 「ああ、しかも予想以上の収穫のおまけ付きだ。宣戦布告前に攻撃を開始してくれ るとはな。まさかここまでうまく行くとは思わなかったぞ」 日本側の手筈では、この2時間前に宣戦布告を通知し、その直後にウェーキ・グ アム・フィリピンに空襲を行うことになっていたのだが、担当者が布告文のタイプ 打ちに手間取り、宣戦布告が予定よりも1時間遅れると言う結果となった。 この1時間のタイムラグによって、日本は「宣戦布告前に攻撃を開始した」とい う汚名を永久に被り続けることになったのだ。 「それで、野村大使達はどうしたのかね?」 「丁重にお引き取り願いましたよ。こちらとしては願ったり叶ったりですからね。 まさか、予想外の贈り物をもたらしてくれた相手を邪険に扱う訳にも行きますまい」 「まったくだ。これで、議会の対日・対独宥和派も黙るというものだろう。国民の 戦意高揚も、やりやすくなったぞ」 昼下がりの大統領執務室に、二人の笑い声が響き渡った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Vol
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