連載 #5076の修正
★タイトルと名前
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「殉教って何?」 「自らの教えのために、命を捧げることです。そんな言葉も失われてしまった のですか?」 「そうじゃないわよ。コロニーでは徹底してソウルズ思想、つまり宗教を排除 しているの」 「愚かなことを」ヴェロニカは嘆かわしそうに首を振った。「神への愛こそ、 最終的な平和につながる唯一の道だというのに」 「思想に共鳴しない者を殺すのが神への愛かよ」 「やめなさい」サオリはカーティスを睨みつけてから、ヴェロニカに言った。 「つまり、こういうこと?ナザレ計画は777人の人間が死んだときに発動す るわけ?このステーションで?」 「そうです。<ベツレヘム>は、そのために特化されたステーションなのです」 「じゃあ、どうして、あいつらは互いに殺し合わないわけ?」 「私たちは魂の同胞を傷つけることや、自ら命を絶つことを禁じられています。 その死はあくまでも、他人の手でもたらされたものでなければなりません」 「ここに使ってくれと言わんばかりに武器が置いてあったのは、そのためだっ たのか」カーティスが驚いたようにつぶやいた。「しかも対人兵器ばかりだ。 全てソウルズたちを殺すために用意されていたんだ」 「そのとおりです。外部の人間の手で死ななければならなかったのです」 「だんだんわかってきたわ。最初にあたしたちのシャトルが自爆したのも、ナ ザレ4000がシャトル搭載OSに干渉したのね?あたしたちを外に出すため に」 「ソウルズの人数が773だったのも、そのためか」カーティスも頷いた。「 おれたち4人をプラスすれば、777人になる」 「ちょっと待ってよ。もし、あたしたちが3人でここに来たらどうなってたわ け?または5人だったら?」 「迎撃システムが作動して、あなた方の船は射程に入った瞬間に破壊されてい たでしょう」 静寂が降りた。 「ほ、ほらね」サオリがひきつった笑顔を浮かべた。「あなたを連れてきたの は、こういう事態を予想してのことだったのよ、カーティス」 「ほう。こういう事態が予想できたとでも?」 「あたしは常にあらゆる事態を想定しているのよ」サオリはそう言った後、不 審そうに眉をひそめた。「でも、へんね。777人がここで殺されることがナ ザレ計画の目的だとしたら、最後の一人は誰が殺すの?」 「<ベツレヘム>のあらゆる場所に、神経活動阻害ガスを放出できるパイプラ インが設置されています。センサーが最後の一人を検知すると、ガスが噴出さ れるでしょう。ただし、それによって死ぬのは、あくまでも侵入者、つまりあ なたたちの誰かでなければなりませんが。ナザレ4000は、ソウルズを殺す ことはできないのですから」 ジャーランがため息とともに立ち上がった。 「すごいシステムだわ。今のOSと比べても、何ら遜色ない。設計思想もオブ ジェクト構造もユニークだし、推論ベースランゲージライブラリ群は芸術的な までに美しい構成でシンプルで無駄がないわ。プロデュースした人間に会って みたい」 「設計したのは、ジン・バーソロミューその人です」ヴェロニカが言った。 「そうじゃないかと思ってたわ。ジン・バーソロミュー八世が、天才的なエン ジニアだったというのは、本当らしいわね。ちょっと感動したわよ」ジャーラ ンはうっとりと言ったが、サオリとカーティスの冷たい視線に気付くと、あわ てて付け足した。「もちろん、OSの作り方に、システムプロデューサーとし て感動したということよ」 「サニルの場所はわかったの?」 「3カ所に絞ることはできたわ」 「じゃあ、まずサニルを助けに行くわよ」サオリが言った。「その後で、ヴェ ロニカの乗ってきたシャトルで脱出して、<ジブラルタル>または最寄りのコ ロニーに向かう」 「その後はどうするんですか?」ヴェロニカが訊いた。 「何とかこの<ベツレヘム>を破壊しなければならないわね。777人がここ で死ななければ、ナザレ計画は発動されないんでしょ?」 「そうです」 「なら、あたしたちが脱出して、遠距離から破壊すれば773人が死んだ時点 で計画そのものがなくなることになるわ」 「どうやって破壊するんです?」とカーティス。 「それはあたしの考えることじゃないわね。あたしの母か、ジャーランの叔父 さんが考えるでしょ」 「脱出したときに迎撃システムに捉えられる可能性は?」 「それは大丈夫です」ヴェロニカが答えた。「迎撃システムは出ていく船舶に は対応しませんから」 「問題は、この女をどこまで信用していいのかですね」カーティスが独り言の ようにつぶやいた。 「問題は、あなたがつまらない偏見を捨てることよ」サオリはぴしゃりと言い 返した。「あたしは何が我慢できないっていって、くそ頑固な差別主義者ほど 我慢できない人間はないわ」 「人類をほとんど絶滅させかけて、今、残りの二万人を殺戮しようとしている ソウルズに対して、多少の偏見は許されると思いますがね」 「うるさいわねえ。いいから、黙ってなさい」サオリはジャーランを見た。「 ルートは記憶したの?」 「任せて。案内できるわよ」 「ソウルズにぶつからないルートでしょうね?」 「大丈夫よ」 「よーし、行くわよ。カーティス、先頭に立ちなさい」 「言われなくてもそうしますよ」 カーティスがスタッカートを構え直したとき、ジャーランが制止した。 「待って。あたしにも火器をひとつ持たせて」 サオリとカーティスが、等しく驚きの表情を浮かべて振り返る。 「ダイ・ジャーラン」サオリはまじまじとジャーランを見つめた。「あんた、 本気で言ってるの?」 カーティスも目をしばたいていた。ジャーランは銃を振り回すようなタイプ ではない。OSインターフェイスに埋もれていてこそ、クールで有能なハンタ ーの働きを期待できるが、0.8G以上の重力のある場所で身体を動かすとき は太り気味の少女に過ぎない。彼女がソウルズを射殺するシーンなど、どんな に想像力をたくましくしてみても浮かんでこなかった。何よりも、おぼつかな い手つきで銃をいじっているジャーランを、自分の目の届かない背後に置くこ とを考えただけでぞっとする。 「ジャーラン、戦うのはおれがやる。君が銃を持つ必要はない」 「そうよ、ジャーラン」カーティスと同じ危惧を感じたらしいサオリも同意し た。「カーティスはこれで給料をもらっているんだから、それだけの働きはし てもらわないと。むだ飯を食わせることはないのよ」 「サニルはあたしのステディなの。確実に助け出したいの。そのためには、銃 の数は一つよりも二つの方がいいわ。背後を守る銃が一つでもあれば、ミスタ ー・ブランダッシュだって、苦労が一つ減るでしょう」 むしろ増えるかもしれない、と口にしかけて、カーティスは考え直した。ジ ャーランは根拠のない自信を口にするような人間ではない。射手にとって、多 くの場面で必要となるのは、訓練や火器の操作方法ではなく、セルフコントロ ールである。ジャーランは間違いなくそれを備えている。 「わかった。じゃあ、これを」 カーティスがジャーランに渡したのは、自分のハンドガンだった。マガジン には10発ほどが挿弾されている。ジャーランはそれを受け取ると、しっかり と握りしめた。 「普段は銃口は下に向けておくんだ。むやみに発砲しないこと。いいね?」 「わかったわ、ミスター・ブランダッシュ」 カーティスは他に欲しがる者がいないかと、残りの二人の顔を見た。サオリ は無言で軽く首を振り、ヴェロニカは何の素振りも見せなかった。カーティス としても、この二人には火器を持たせるつもりはない。特に後者には。 「行きましょう」 4人は武器庫を出た。 つづく
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