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第一部 栄光の大空 第一章 銀翼の胎動 1939年9月2日 広島県 呉軍港 照り付ける太陽の下、一陣の潮風が吹き抜けて行く。この時期特有の、残暑と蝉 の声が入り交じった、何とも気だるい雰囲気が漂う中、鋼鉄の巨艦の群が、突き抜 けるような群青色の海に、その身を横たえていた。 「しかし、こうして見ると、これはこれでなかなか壮観な物だな」 連合艦隊旗艦を務める戦艦「長門」の甲板上で、巨艦の群を眺めながら、嶋田繁 太郎海軍大臣が感慨深げに呟いた。 「こう言う眺めは戦艦の専売特許とばかり思っていたが……」 「空母でも、これだけ揃えば見違えるだろう」 隣で、山本五十六連合艦隊司令長官が顔をほころばせる。 先程午前中に、、山本のGF(連合艦隊)長官就任セレモニーが終わったばかり だった。軍港内には、まだ式典の余韻が残っている。この日のために呉に集結した 空母は、合わせて16隻。いずれも、日本が世界に誇りうる精鋭艦ばかりだった。 まず、天城級空母「天城」「赤城」「高雄」「愛宕」。全長260メートル、排 水量36500トン。常用と補用(分解収納)合わせて、91機の航空機を搭載出 来る。これだけの巨体を持ちながら、原型となった巡洋戦艦譲りの135000馬 力の高出力機関のおかげで、31.5ノットの快速を発揮できた。 この4隻はいずれも、八八艦隊計画で建造されていた巡洋戦艦で、完成すれば、 40000トンを超える排水量に、16インチ砲10門を搭載する大戦艦となって いた筈だったが、「加賀」の実験結果を受けた当時の加藤寛治軍令部総長の鶴の一 声で、空母への改装が決まった。日本における大型空母の草分けとも言える艦で、 現時点では世界最大の空母だった。 続いて、蒼龍級空母「蒼龍」「飛龍」。全長227メートル、排水量17300 トン、搭載機数73機。日本で初めて、計画段階から空母として設計された正規空 母で、小兵ながらバランスの取れた性能を持つ優良艦として、翔鶴級と共に第四航 空戦隊を形成していた。また、最大戦速35ノットは、10000トンを超える艦 としては、連合艦隊で最も速い。これは、重巡の物を拡大した、凌波性の極めて良 い船体の賜物だった。 翔鶴級空母「翔鶴」「瑞鶴」。全長257メートル、排水量25600トン。搭 載機数84機。蒼龍級を拡大改良した中型正規空母で、それまでの日本空母では殆 ど顧みられていなかった、防御力や被弾時の生存性も考慮されていた。速力も、最 大34ノットと申し分ない。 紀伊級空母「紀伊」「尾張」「駿河」「近江」。全長250メートル、排水量 28800トン、搭載機数90機。欺瞞工作を兼ねて戦艦の艦名を与えられると言 う、数奇な運命を経て誕生した艦だ。翔鶴級までの経験を活かし、装甲は殆ど無い が、極めて高い生存性を持たせた設計が為されている。ただ、建造費削減のために、 30000トンを切る排水量にこれだけの性能を盛り込んだため、速力は30ノッ トと、他の空母に比べてやや劣速だった。翔鶴級までの空母は、飛行甲板への排煙 の影響を減らすため、舷側から下に向かって突き出した特徴的な煙突を装備してい たが、本級からは、右舷前部の艦橋と一体化した、外側に25度傾斜した煙突を装 備している。 そして、最新鋭の大鳳級空母「大鳳」「海鳳」「綾鳳」「白鳳」。全長260メ ートル、排水量29300トン、搭載機数53機。初めて飛行甲板に装甲を張った 空母で、重心を下げるために格納庫を縮小したため、搭載機数は排水量の割に少な い。だが、75ミリと130ミリの特殊甲板を組み合わせた装甲は、500キロ爆 弾の急降下爆撃にも耐えられると言われている。160000馬力の強力な蒸気タ ービンは、最大戦速33ノットの発揮を可能にしていた。 この他にも、軽空母「龍驤」や、「隼鷹」「飛鷹」「龍鳳」「祥鳳」「瑞鳳」と 言った、客船や潜水母艦、タンカーなどからの改装によって空母化された艦がおり、 いずれも連合艦隊の重要な空母戦力となっていた。主要な16隻だけで、総搭載機 数は1247機に達し、その航空打撃力は、紛れも無く世界最強と呼べる物だった。 何せ、この16隻の航空戦力だけで、並みの国家が保有する空軍全体に匹敵する機 数を運用出来るのだ。当然、これだけの空母と艦載機を揃えるには、膨大な軍事予 算を海軍に回す必要があったが、陸軍と海軍陸戦隊との間の装備の共通化などによ って、陸海軍の装備を独自に開発する必要がなかったため、陸軍費は安く上がって いた。 「これだけあればな。これだけの空母があれば、世界中どこの海軍が相手だろうと、 負ける事はない」 「楽観は禁物だぞ。アメリカなど、その気になれば、この2倍や3倍の数の空母は あっと言う間に建造してしまうだろう」 陶酔したような声を漏らす嶋田を、山本が嗜める。 「俺は駐在武官としてあの国に滞在していたが、デトロイトの工場群とテキサスの 油田を見ただけで、あの国と事を構えるなど自殺行為だとはっきりわかる。 俺はGF長官の立場として、対米開戦には断固として反対し続けるつもりだ。貴 様も、海軍省をその方向でまとめてくれるな?」 「ああ。100パーセントの保証は出来んが、可能な限りの努力はすると約束しよ う。もっとも、軍令部があれでは、いつまで反対し続けられる事やらわからんがな ……」 「伏見宮殿下の一派か。彼らはドイツの勢いにばかり目が行って、対米開戦がどう いう事かまるでわかっていないからな。だが、それを押さえない限り、日本は間違 いなく破滅する。そりゃ、最初の1年程度は随分と暴れられるだろうさ。米軍の三 年計画戦艦部隊だって、これだけの艦載機が束になってかかれば、一蹴の元に撃沈 できるだろう。この点は、俺も保証する。だが、その後の事まで考えている者が、 今の海軍内にどれだけいると思う? 沈めても沈めても、連中はそれに倍する勢い で新造艦を竣工させて来るぞ」 当時軍令部は、日独間の軍事同盟締結を唱える伏見宮博恭総長が、健康上の理由 からその座を退き、永野修身大将が後を継いでいた。だが、彼の海軍内部に対する 影響力は、未だに大きなものがあり、軍令部の要職は、親独派・対米強硬派の者で 固められていた。 山本は気付く由もなかったが、実はこのとき既に嶋田は、伏見宮を中心とする、 親独反米を掲げる一派に取り込まれていたのだ。彼の言動は、故意に歪曲された形 で伏見宮に伝えられ、海軍全体の意志は、三顕職(海軍大臣、GF長官、軍令部総 長)の真の意見の一致を見ずして、開戦の方向で決定されてしまう事になる。 「だが、最悪の時に備えて、準備は進めておくべきだろうな。万一開戦と言う段に なって、海軍は戦いたくないから何もしていませんでした、では済まされんぞ」 嶋田は、自分が開戦派の組織とつながっていることなど、おくびにも出さなかっ た。 「それはそうだ。だが、我が海軍には、まだまだ航空線に精通した人材は少ない。 俺としては、年功序列に捉われること無く、適材適所で航空専門にやって来た実戦 向きの指揮官が欲しいところなんだが」 「いや、こう言う時だからこそ、内部の和を大切にすべきだろう。徒に組織を引っ 掻き回しては、混乱が深まるばかりだ」 「しかし……」 「まあ、序列が上の指揮官だって、航空戦の素人ばかりではないさ。出来る限り、 経験豊富な人材を揃えておこう」 そのとき、通信士官が駆け寄って来て、山本に電文を手渡した。それを一読した 山本は、顔色を変えた。 「どうした?」 嶋田が、怪訝そうな顔で訊ねる。 「ドイツ軍が……ポーランドに侵攻した」 山本は、震える声で答えた。 「まずいことになった……軍令部の開戦派が、またぞろ威勢良くなるぞ」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Vol
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