連載 #5052の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
サオリの頭に最初に浮かんだのは、<ジブラルタル>から自分たちを連れ戻 しに来たシャトルかもしれない、という考えだった。希望の表情を浮かべたと ころを見ると、カーティスも似たようなことを思い浮かべたらしい。だが、二 人が口を開く前に、ジャーランが素っ気なく否定した。 「いいえ。<ジブラルタル>の船舶じゃない。他のコロニーからでもない。駆 動系が古い型の融合ドライブセットだから。放射パターンも粗雑すぎるし、D ST境界面に残す航跡ノイズときたら、シナプスが弾けそう。たぶん、この< ベツレヘム>と同じ年代に建造されたシャトルね」 「ソウルズか?」 「わからないわ。気になるならプラットフォームに迎えにいったら?」 「気にならないといえばウソになるけど」サオリは困惑を浮かべながら、首を 振った。「それよりサニルの居場所を見つけだす方が先よ。まだ場所がわから ないの?」 「それらしい場所はいくつかピックアップしたけど特定はできていないの」 「それらしい場所って、どこよ?」 ジャーランはディスプレイのサイズを拡大すると、二人の方に向けた。3D 表示されたステーションの構造図が表示されている。 「<ベツレヘム>は、全部で1855のセクションに分類できるわ。その中か ら、明らかに人間が入れないような小さなセクションや、装置保守区画や、動 力セクション、廃棄物処理設備系統を除くと、312セクションに絞ることが できるの」 構造図の大部分が暗くなった。残ったセクションはグリーンで表示されてい る。 「さらに私たちが通ってきた場所を消すと、267セクションになる」 構造図がさらに変化した。 「この中のどこであっても不思議じゃないわね」 「しらみつぶしにあたるしかないですね」カーティスがディスプレイを睨みな がらつぶやいた。「今いる場所は?」 構造図の一部がピンク色に変わった。 「なるほど。このグリーンの部分は?」 「さっきみたいなパーソナルエリアのようね」 「ソウルズの巣ってわけね」サオリが口を挟んだ。 「そこは避けましょう。好んで危険に身をさらすことはありませんから」 「そうね」 そのとき、ジャーランが顔をしかめて小さく呻いた。 「どうしたの?」 「例のシャトルがプラットフォームに降りたの。一瞬、システム警報が飛び交 ったから」 「誰か乗ってるの?」 「わからない。プラットフォームの映像を、セキュリティを迂回してここまで 持ってくることはできないの。どうもシステムが古いと勝手が違って困るわ」 「とにかくサニル君を探さなければ。ジャーラン、敵とできるだけ接触しない で、効率的に候補地を回れるようなルートを決めてくれ。お嬢さんは、見張り を頼みます。武器の用意ができたら、私が探しに行ってきます」 「一人で?」 「そうです」 「あたしたちを置いてくの?」 「ここは入り口が一つしかないから、あのドアを閉じれば安全です。やつらは 火器を使わないようですから、破る方法はないし」 「ひとつ忘れてるわ」ジャーランが言った。 「何が?」 「ここのOSは、あたしたちの敵かもしれないということ。ドアのコントロー ル権を奪われたら終わりよ」 「……」 「それに」サオリも文句を言った。「あいつらがこれまで銃を使わなかったか らって、これからも使わないなんて保証はないでしょ」 カーティスは躊躇った。一人の方が、たとえ敵と遭遇しても身を守りやすい し、逃げるのも容易であることは確かである。だが、このステーション全体が 敵にまわる可能性もないとはいえない以上、<ベツレヘム>内に安全な場所な ど存在しないことも事実だ。 「そうですね……」 開きかけたカーティスの口がきゅっと閉ざされた。手がスタッカートを掴む と、セイフティを弾いた。銃口はドアに向けられている。 「どうしたの?」 「誰かこっちに近づいてきます。足音が」 サオリとジャーランは耳を澄ました。 確かに通路を小走りに進んでくる足音が聞こえる。 「ソウルズ?」サオリが震える声で訊いた。 「いえ。やつらは裸足ですが、これはブーツの音です。それに音楽が鳴ってい ません」 「それもそうね。じゃあ、さっきのシャトルの?」 「おそらくそうでしょう」カーティスはジャーランを見た。「ドアを閉じられ ないのか?」 「すぐには無理よ」言いながらジャーランはデータグローブで操作を始めてい た。「照明コントロールなら捕まえたけど。消す?」 「いや、いい」10分前に照明を消していれば、暗闇に目を慣らすこともでき ただろうが、今からでは間に合わない。ならば、得られる情報は最大限得た方 が有利である。 足音が次第に大きくなってくる。 カーティスはサオリに向かって、頭を低くしているように手で合図した。 次の瞬間、人影がドアに現れた。細身の身体に、ヘルメットを外した軽量の マイクロボアスーツを身に着けている。両手には何も持っていない。 間髪を入れず、カーティスが襲いかかった。相手が一歩中に踏み込んだ途端 に、背後からタックルし、床に押し倒す。完全に虚を突かれたらしい相手は、 カーティスに両手を背中にねじり上げられてから、ようやく声を出した。 「な、だ、誰!」 女性の声だった。サオリは少し意外に思ったが、カーティスは威嚇的な態度 を引っ込めようとはしなかった。手早く武装の有無を調べる。 「黙れ。動くな」別人のように冷酷な声で告げる。「三挺の銃がお前に狙いを つけている。抵抗する素振りを見せれば、即座に射殺する。いいな。わかった ら頷け」 床に押しつけられた褐色の髪が小さく揺れた。 「名前は?」 「ヴェロニカ」女性は呻くように答えた。「あなたたちはどなたです?」 礼儀正しく上品な口調だった。敵意や害意は見い出せない。動揺し、恐れて はいるようだったが、恐慌状態にはほど遠いようだ。どうやら、ある程度、こ んなシチュエーションを予測していたみたいだわね、とサオリは考えた。 「質問しているのはこちらです。ミス・ヴェロニカ」カーティスの口調もやや 改まった。「どうやってここに来たのですか?」 「カーティス」サオリは呼びかけた。「敵じゃないみたいよ。そうやって無理 強いするのはよくないわよ」 「外見だけで判断するのはよくありませんよ」そう言ったものの、カーティス も多少考え直したように手を離した。「いいでしょう。立って下さい」 ヴェロニカと名乗った女性は、ゆっくりと立ち上がると、丁寧な言葉で訊い た。 「スーツを脱いでもよろしいでしょうか?」 カーティスは頷いた。もっとも、スタッカートのセイフティは解除されたま まだし、銃口もヴェロニカからそらされてはいない。 ヴェロニカは手首のリリース装置を操作して、スーツを脱ぎ始めた。誤解を 招かないためか、動作はゆっくりしている。 サオリたちはその間、無遠慮な視線でヴェロニカを観察していた。年齢は2 0代後半だろうか。身長はサオリよりも頭半分ほど高い。全体的にすらりと細 い印象があったが、それは身長のせいで、スーツの下の身体は見事に成熟した 女性の曲線を有していた。サオリは秘かに羨望に駆られた。 つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「連載」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE