連載 #5027の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「カーティス!」 「ジャーラン!」 「わああ!」 「みんな伏せろ!」 悲鳴と叫び声が、突然の闇の中で交差した。互いに身体がぶつかりあったが、 自分の手さえ見えない暗闇である。相手が誰なのか全くわからない。 カーティスは再びハンドガンを抜いていた。むろん、恐慌に駆られて闇雲に 発砲するような愚は犯さない。そんな男であれば、人を見ることに長けたグレ イヴィル市長に雇われることはなかっただろう。 ハンドガンを持つ左腕に、誰かの身体が勢い良くぶつかった。叫び声からす るとジャーランのようだ。カーティスは少女の肩を掴むと、力任せに床に引き 倒した。そして天井に銃口を向けると、一回だけトリガーを絞った。 マズルフラッシュが、周囲を一瞬だけ浮かび上がらせた。瞳に焼き付いた光 景に、カーティスは逆上した。闇から生まれたような黒い塊が、うつぶせに倒 れたサオリの髪をつかんで引きずっていこうとしていたのだ。 「お嬢さん!」 再び闇が周囲を支配した。カーティスは跳躍すると、相手が見えないまま、 渾身の力をこめた後ろ蹴りを放った。確かな手応えがあり、げっぷのような唸 り声とともに、相手が吹っ飛ぶのがわかった。 「ミスター・ブランダッシュ!助けて!」 サニルの声が響いた。カーティスの背後だ。振り向きざま、もう一発天井を 撃った。一瞬の光の中に浮かび上がったのは、二つの黒い影に両腕をつかまれ て引きずられていくサニルの姿だった。 カーティスはそちらに飛びかかろうとしたが、腕に何かがしがみついた。身 体は小さいが驚くほど重い。 「サニル!」 サオリの叫び声が響いた。弟がいないことに気付いたらしい。 「お嬢さん、動かないで!」 カーティスは叫びながら、腕にしがみついている正体不明の敵を振り払おう とした。だが、敵はまるで溶接したような強力な力で、利き腕を封じていた。 「ミスター!」 サニルの声が小さくなった。ドアの向こうに連れ出されたのだろう。 「くそ!」 もはや一刻の猶予もない。カーティスは、ハンドガンを右手に放り込むよう に持ち変えると、敵の身体に押しつけて素早く2回トリガーを絞った。さすが の敵も、弾き飛ばされたように腕から離れた。 「サニル!」 「サニル!」 サオリとカーティスの叫びが重なった。カーティスは開いたドアとおぼしき 方向へ走ろうとしたが、同じことを考えたらしい誰かと激しくぶつかる羽目に なった。二人はもつれあって倒れた。 「何してんのよ、ドジ!」サオリのわめき声だった。 サオリが身体を起こそうとした途端、誰かが勢いよくつきとばした。サオリ は悲鳴をあげてカーティスの上に重なった。その背中を、影が踏みつけて駆け 抜けていった。 「ちくしょう!」サオリは怒り心頭に発して怒鳴った。「ふ、踏んだわね、こ のやろう!」 カーティスは、サオリの身体をやや乱暴に押しのけると敵の姿を求めた。だ が、ようやく闇に慣れかけた視線が捉えたのは、ドアの向こうに消えていく小 さな影の最後の残像だった。 「サニル!」サオリが叫んだ。「ジャーラン!」 その声に呼応するように、プラットフォームの照明が戻った。 しばらくは誰も身動きしようとしなかった。カーティスは再度の攻撃を警戒 して、トリガーに指をかけたまま鋭い視線で周囲を見回していた。サオリは怒 りと困惑で、どんな行動を取ればいいのかわからないようだった。ジャーラン は床にうつぶせに横たわったまま、ぴくりともしない。 サニルの姿はどこにもなかった。 カーティスは立ち上がると、慎重な足取りで開いたままのドアに駆け寄った。 ポケットからファイバーミラーを出すと、細い糸のようなファイバーをドアの 外に出して左右の様子を探る。誰もいないのがわかると、素早く通路に躍り出 て左右に銃口を向けた。 「誰もいません」 「サニルは?」サオリが駆け寄ってきた。「サニルはどこなの!」 「お嬢さん……」 「サニルはどこなの!どこにいるのよ!」 「すみません。連れ去られたようです」 「いやあ!」サオリは絶叫した。「サニル!」 闇雲に通路に飛び出そうとするサオリを、カーティスはかろうじて抱きとめ た。 「離して!サニルを助けに行くのよ!」 「落ち着いて下さい、お嬢さん!」 「落ち着けですって!どうして落ち着いていられるのよ。サニルが誘拐された のよ。あんた、それでもボディーガードなの!?」 サオリはヒステリーの一歩手前まで激昂した。軽く頬でも叩いた方がいいの だろうか、とカーティスは迷ったが、驚いたことにサオリは急激に自制心を取 り戻した。 「ごめん。わかったわ。落ち着いたわよ。早くサニルを探しに行くのよ」 「少し待って下さい」悟られないように安堵のため息をもらしたカーティスは サオリの背後の床を指した。「まず、ジャーランの様子を見て、それから、あ れを調べてみましょう」 サオリは振り返った。ジャーランは意識を失って倒れている。そして、離れ た場所に黒い塊が転がっていた。 凶暴な衝動に駆られたサオリはその塊に駆け寄ると、あらんかぎりの力で蹴 りつけた。それはごろりと転がった。サオリはなおも蹴り続けた。 「このやろう!死んじまえ!」 「もう死んでますよ」カーティスが肩をつかんだ。「ジャーランの様子を見て くれませんか。こっちは私が調べます」 サオリは反抗的に顔をしかめた。だが、多少は気が済んだのか、珍しく何も 言わずにジャーランの方へ歩いていった。カーティスはため息をつくと、黒い 塊に注意を向けた。 黒いローブのような衣服で身体をくるんだ人間だった。身長はおそらく1メ ートル強でしかないだろう。サオリが蹴飛ばしたために、ローブはめくれ、そ の下の身体が露になっている。その他の衣服は身につけていない。靴すら履い ていなかった。 一目見ただけでは、男か女なのかさえわからなかった。頭髪は一本もない。 いや、頭髪のみならず、眉毛やその他の体毛も全く生えていない。その原因が 先天的なものか後天的なものなのかは判断がつきかねた。顔の造りは中性的で 特徴がない。だが、半分開いたまぶたの奥の瞳は、鮮やかな血の色をしていた。 腕は短かいが、あちこちが奇妙に膨らんでいる。発達した筋肉らしいが、そ の配置は普通の人間のそれとは異なっていた。おそらく、あの怪力はこの筋肉 によって生み出されるのだろう。 肩から胸にかけて、発達した筋肉が走っていたが、同様に普通とは違ったつ き方をしている。さらに奇妙なことに、胸には乳首がなかった。 カーティスは爪先で死体を転がした。ローブに隠されていた下半身が目に入 ると、驚きのために息を呑んだ。下半身も完全に無毛で、両脚の間には男性女 性どちらの生殖器も存在していなかった。 「これは一体……」カーティスは無意識のうちにつぶやいていた。両手がじっ とりと湿っている。 つづく
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