連載 #4937の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
タケどんの結婚 タケどんは、タイ旅行で知り合った埼玉の看護婦ヒトミちゃんとめでたく十 月に結婚することとなった。職場での反応は大変なもので、折りにふれては、 「それでは結婚を控えた竹内先生に一言。」という具合にタケどんに挨拶を求 め、タケどんはタケどんで、そのつど耳まで赤く染め、人生の喜びを面白くも 何ともないコメントに載せて表現する次第。 ムラさんの予言は早くも当たり始めて、タケどんは夕方になると用務員室の 電話を私用で一時間近く使うようになり、身に付けるものも誰の好みかパステ ル系のものが多くなった。 五月の末にぼくはタケどんから「ソープランドにつきあってほしい。」と誘 われた。理由を訊くと、結婚までにその方面のテクを恥をかかない程度に身に つけておきたいとのこと。「結婚準備に金が忙しいだろう。」と言うと、その ための金は『ソープ預金』と銘打って準備してあるとのこと。エイズが騒がれ 始めていて、あまり気が進まなかったが、ここまで相談されたら後へは退けず、 東京の悪場所へ何度か通った。下調べは良くされていて、店の選定等は彼に任 せておけば良かった。淡泊なぼくはいつも先に上がり、タケどんの熱心なお勉 強の終わるのを待つというパターンが多かった。ちなみにタケどんの初体験は この正月に職場の仲間と北海道旅行をした際に、札幌のソープで二十八歳にて いたし、感動した彼は、翌日同じ店に行き、同じ女を指名したとの逸話がある。 一月に筆を下ろし、三月にフィアンセを見つけ、五月にセクシャルテクニック を学んで、十月に結婚するというテンポの早さに周りの者はなかなかついてい けなかった。 十月第三週の日曜日にC市の玉姫殿でタケどんの結婚式が行われた。ぼくは つきあいが短いので披露宴は遠慮して二次会に参加したが、式の前まで騒いだ わりにはけっこうケチのついたものとなった。 まず、体育科のキンニクマンヨシダが「道に迷った。」とか言って、とうと う顔を出さなかった。そしてスズやんとシラカタ女史が絶好の機会と二次会を けとばし、不倫の逢瀬を楽しんだ。ぼくたちにとってはタケどんの結婚を祝福 するよりも、三十一歳の男と三十七歳の女の所帯持ち同士の恋愛の行く末を予 測しあう方がオモシロク、二次会の席はその話題で一気に盛り上がってしまっ た。このことがその後のタケどんとシラカタ女史の角逐の原因の一つとなった。 とにもかくにもタケどんは十月の行楽最適期に一週間の休暇を取ってヨーロ ッパへのハネムーンに旅だった。中学三年の学級担任として、二学期のど真ん 中に一週間休むことが生徒の親にどれだけひんしゅくを買うかどうかは、全く 考えずに‥‥。 一週間の後、額田中学は文化祭のただなかにあり、その日は『兄弟学級合唱 発表会』と称して一年生から三年生までの生徒が一クラスずつ一緒になって合 唱を発表する日であった。 A組の兄弟学級は、テッちゃんのギター、スズやんのドラム、臨時採用のミ キちゃんのキーボードを伴奏によしだたくろうの『落陽』を歌った。七十年代 のフォークソングを何故生徒が選曲するかというと、テッちゃんやスズやんが 時々授業中にギター抱えて「我が青春の歌」を聴かせていたため、『落陽』が 八十年代の中学生にウケてしまっていた。 ぼくのクラスが所属するC組兄弟学級は『冬が来る前に』をぼくの指揮で 歌った。新しい教師の音楽性を値踏みすめために、三年生がぼくに指揮を依頼 してきたのだ。額田中では、「教師の能力に応じて生徒が尊敬の態度を示す。」 という正しい市場原理が働いているため、職員は教師全体の権威を保つために 生徒を締め付けるなどというバカなことはしないですむが、自分の立場を保つ ために生徒に自らの能力を常に見せつけておく必要がある。 演出上の理由で、タケどんのクラスが所属するD組兄弟学級は最後の発表 であった。一年から三年までのD組の生徒がステージの緞帳前に並び(合唱 台というものが階段状にしつらえてある)、フロアーでは一八五センチの長身 若手教師のマッちゃんがギターを弾き始める。そのギター伴奏に合わせて長渕 剛の『乾杯』を生徒らが歌う。ワンコーラスが終わると、それまでステージを 覆っていた緞帳が引かれる。な、なんとそこにはハネムーンから帰ってきたば かりのタケどんとヒトミちゃんが腕を組んで立っていた。生徒がツーコーラス 以下を歌い始めると、二人は並んで歌っている生徒の真ん中をゆっくりとフロ アーに降りてくる。ま、まるでスターではないか。会場全体が盛り上がり、拍 手と歓声に包まれて歌が終わると、生徒代表が二人に花束を手渡す。タケどん がゆでだこのように上気して、「妻のヒトミです。」と会場全体に紹介し、八 十五年度額田中学校文化祭は公私混同の大ノリの中で閉幕となった。 ..
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