連載 #4226の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
そのとき、彼は見た。闇色の煙が一瞬、人のような形になったかと思うと、 洞窟の外に凄まじい速度で駆け去って行ったのを。 「みんな、大丈夫か?」 洞窟内を照らしていた火の魔道の力が消えたために、真っ暗闇になった周囲 を手で探りつつ、クリバックが声を出した。 「何とか、ね」 コトリンがそう答え、火の魔道で洞窟内に再び光をもたらした。 「いてて。……今のが金の魔神か?」 頭を岩にぶつけたらしいスウェルドがむっくりと起き上がる。 [いや、正確にはそうではない] クリバック達の耳に、聞き慣れない声が響いてきた。何と、クリバックの手 にしていた魔剣が刃を震わせて声を発しているのだ。 「凄えや……。さすがは魔剣だ」 レブノスが感嘆の声を上げる。 「で、あれは何なんだ?」 クリバックは魔剣に問うた。 [あれは金の魔神の魂だ] 「では、やはり金の魔神が復活したということではないのか」 クレスタがにじり寄って聞く。 [今の金の魔神は魂だけの存在だ。その魂を宿す本体と一体化しなければ、本 当の意味の復活ではない] 「そうか、そういうことだったのか」 埃まみれになったエタンダールがゆっくりと立ち上がった。彼の周りに倒れ ている魔道士達に声をかけ、低い声で何事かを矢継ぎ早に命じた。 「儂としたことが、順序を誤るとはな。そうとも、先に金の魔神の本体の方を 復活させておかねばならなかったのだ。いくら記憶を失っていたとはいえ、何 のために大陸に渡ったのかまで忘れていたとは」 エタンダールが苦笑した。が、すぐに恐ろしげな顔つきに変わる。 「こうなれば、我々も向かおう。本体の封印の地へ」 「そうはさせるか! 貴様等まとめて、俺達が倒してやる」 クリバックが喚く。だが、エタンダールの視線はクリバックを無視するかの ようにコトリンに注がれていた。 「さあ、コトリンよ。我々と共に行こう。我等の悲願が、ついにかなうときが 来たのだ」 エタンダールが手を差しのべる。クリバック達四人の視線が、一斉にコトリ ンに注がれた。誰も彼女を止めることは出来ない。元々コトリンはグリミーカ の魔道士なのだ。全てはコトリンの意思次第。 だが、当のコトリンは困惑を隠せない。 「エタンダール様。私はこの人達と共に数日を過ごしました。魔道を使えない 人と会い、話したのは生まれて初めての経験でした。……彼等は、魔道が使え なくても立派に生きているではありませんか?」 「コトリン、一体何を−−」 予期せぬコトリンの言葉に、エタンダールが何か言いかける。しかしコトリ ィoH2ーsチサれを無視して続けた。 「魔道が何だというのです! 金の魔神を復活させ、また大陸の人々を苦しめ てまで、守らなければならないものなのですか!」 コトリンの声は最後は悲鳴に近くなった。彼女は、エタンダールの怒鳴り声 を覚悟していた。半人前の魔道士が何を言うか、と。 しかし、エタンダールが発した言葉は、予想に反して静かなものだった。 「そうか。コトリンはそう思ったのか。ならばよい」 エタンダールは琥珀色の瞳に、慈父のそれに近いものを浮かべて言った。 「未来のある者はそう考えて当然だ。……だが儂のように、今更他の何にもな れぬ者にとっては、魔道こそ全てだ。譲る訳にはいかんのだ」 エタンダールの言葉を受け、二人の魔道士が前に進み出た。いや、魔道士と 言うにはどちらも屈強な身体をしていた。 「ルクレールとエグゾセか……」 レブノスが呟く。 地の魔道士・ルクレールと、火の魔道士・エグゾセがそれぞれに攻撃魔道の 構えを取った。 その後ろでは、エタンダールが陽の魔道である、長距離空間転移の呪文を唱 え始めていた。 「エタンダール様……!」 コトリンが悲痛な声を出す。 「我々は封印の地へ向かう。そなた達の相手はその二人がしてくれよう」 「させるかっ!」 間合いを詰めようと走り込んだクリバックの前に、エグゾセが立ちふさがっ た。その間に、エタンダールと魔道士達は光に包まれ、その光が激しくきらめ いた瞬間、彼等の姿は消えていた。 「くそっ!」 エグゾセとクリバックが睨み合う。 「オメエの相手は、この俺だっ!」 レブノスがエグゾセに向かって怒鳴る。 「同じ火の属性の者同士、いつかは勝負を付けようと思っていたんだ」 「いいだろう。だが、ここでは狭すぎて存分に戦えまい。ルクレール!」 エグゾセがもう一人の魔道士・ルクレールに声をかける。 「おう!」 そう応じたルクレールは両手を広げ、腕を両横に突き出した。 すると、地鳴りが何重に重なって響き、洞窟の天井と壁面が空気に押し潰さ れるかのようにへこみ始めた。 「凄い……」 コトリンがポカンと口を開けて、ルクレールの魔道を眺めていた。 やがて、洞窟の狭苦しい空間は、戦闘を行うのに充分なほど広がっていた。 「たいしたもんだ。これなら派手に暴れても大丈夫だ」 レブノスは刀の柄を握り直した。口の中で呪文を唱えると、剣が燃えるよう に光を放ち始めた。 「ただの魔道士と、魔道騎士の違いを見せてやるぜ!」 (本当はまだ従騎士だが) レブノスはその言葉を飲み込み、地面を蹴ってエグゾセめがけて突進した。 エグゾセは地面を指差し、呪文を唱えてから指を振り上げた。すると、指差 されていた地面から火柱が噴き出し、レブノスは危うくその火柱に飲み込まれ そうになった。 「『炎の龍』か。あじな真似を……」 レブノスは今度はゆっくりと、回り込むようにしながら間合いを詰め始めた。 そのとき、同時進行でもう一つの戦いが始まっていた。クレスタとルクレー ルの戦いである。 「手出し無用!」 クレスタはそう言ってクリバック達を制した。彼は思った。宮廷魔道士のこ となら、自分の方がよく知っている。それに、君達だけにいいところを取られ てばかりじゃ、聖騎士団団長の名が泣くのでね。 「うぉおりゃ!」 クレスタが跳躍し、一気に間を詰めて細身の剣をルクレールめがけて突き出 した。しかし一瞬早く、ルクレールは地面を隆起させてクレスタの攻撃を防い だ。 「食らえ!」 ルクレールの右腕が風切り音を立てて唸って、クレスタの胴を狙って突き出 された。クレスタは後ろに飛び退いてかわした、と思った瞬間、鈍い衝撃を腹 に受けて足をもつれさせた。 「この場所では、空気さえも我の味方」 ルクレールが、魔道士の声と言うよりは、歴戦の将軍のそれに近い野太い声 で言った。しかし、クレスタは片膝を付きながらも、全く衰えていない戦意を むき出しにして怒鳴り返した。 「この聖騎士団団長・クレスタがそのような攻撃で倒せるものかっ」 エグゾセの両手に炎が宿った。そしてそれが次々と彼の手から、レブノスに 向かって発射された。 レブノスは、剣でそれを左右に払い続けつつ、少しずつ間合いを詰め、一撃 必殺の間合いを計っていた。 「死ねやあっ!」 エグゾセが、並の攻撃では通じないと悟り、より強烈な火球を作り出そうと 両手を胸の前で構えた。炎の輝きが一段と増す。 しかし、その瞬間こそ、レブノスの待っていた一瞬だった。 「死ぬのはお前だ!」 レブノスが燃え上がった剣の切っ先をエグゾセに向け、全身でエグゾセにぶ つかった。 「−−!」 中途半端に作られた火球が暴発した。レブノスはその衝撃で吹っ飛ばされた。 装備の一部に火が燃え移ってしまったので、地面を転げ回って火を消す。 しかし、エグゾセの方はその数十倍のひどい状態だった。全身火達磨と化し ていたのだ。エグゾセは遺言や捨てゼリフを残す間もなく、黒こげになって燃 え尽きた。 大小様々の石の塊が頭上から降ってきた。クレスタはそれを懸命にかわすが、 頭上に気を取られる余り、ルクレールの作り出した地割れに足を取られた。 「ちぃっ!」 クレスタが舌打ちする。彼の視界の端に、火柱となって燃えるエグゾセの姿 が捉えられた。 (レブノスはうまくやったようだな) クレスタは、心のどこかでレブノスの才能に嫉妬していることに気付いてい た。彼の胸の奥に、記憶の底に追いやっていた彼の少年時代の光景が甦る。 彼はタングルーム王国の第二皇子として、この世に生を受けた。人から見れ ば羨ましい家系の者であったが、彼はその出自を恨んでいた。第二皇子である 限り、王位を継ぐことはかなわない。ならば、と彼は剣術に熱中していった。 生まれで兄にかなわぬのなら、せめて剣の腕で勝とうと思ったのだ。そして自 分の腕に満足が行くようになったあるとき、彼は兄に勝負を挑んだ。 結果は無残なものだった。クレスタは全く歯が立たなかったのだ。屈辱にま みれて倒れ伏すクレスタに、今は王となっている兄は言ったものだ。そんな狭 い了見だから、第二皇子というだけで王位が継げぬのだ、と。 国を捨てたクレスタが、ランディール帝国の親衛隊とでも言うべき聖騎士団 団長の座につけたのは、その血筋の良さだけではなく、血のにじむような修行 を続けたからだ。そのせいか、彼の周囲には悲壮な空気が常にただよっていた。 だが、同じように進むべき道を踏み外した存在であるはずのレブノスが、ひ ょうひょうとしているのに軽蔑を感じつつ、どこかで気軽に生きたいと思って いたのだろう。そうでなければ、レブノスのことを羨ましく思ったりするはず がない。 (後見されていたのは、俺の方か) クレスタはとりとめのない思考を、そのように結論づけた。 「どおりゃあっ!」 クレスタは猛然と地面を蹴った。しかし、降り注ぐ石塊の一つが左の肩当て にあたり、鈍い音と共に砕け散った。 「このまま石にうずもれてしまえっ!」 ルクレールがクレスタの足元めがけて拳を突き出した。すると、地面がアリ ジゴク状にへこんだ。クレスタはたまらず穴の中にずり落ちる。一方、石塊の 落下は止まらず、クレスタを埋め尽くそうとする。 「クレスタっ! 今行くぞ」 スウェルドが宙に浮く。しかしクレスタは大声で怒鳴り、スウェルドを制し た。 「来るな、これは俺の戦いだ!」 そう言うや、クレスタは急斜面と化した地面を、どういう筋肉をしているの か、喚き声と共に一気に駆け上がった。 「あっ」 穴の中からいきなり飛び出して来たクレスタを見て、ルクレールは後ずさっ た。 「食らえ!」 クレスタが剣を投げつける。ルクレールは隆起させた土塊でそれを受け止め たが、次の瞬間、頭上から飛びかかってきたクレスタに押さえ込まれた。 「いずれ、地獄で会おう」 クレスタはそう言って、短剣でルクレールの喉をかき斬った。喉から鮮血が 噴き出す。ルクレールの死を確認したクレスタは、腹の底から息を吐いて引っ 繰り返った。 「おい、大丈夫か」 クリバックが大の字になって倒れ込んだクレスタの元に駆け寄る。ありきた りの台詞しか口に出来ない自分が悔しい。 「無様だな。騎士ともあろう者が、こんな卑怯な戦いしか出来ぬとは」 仰向けになったまま、クレスタが息を切らしながら言う。 「そんなことへえぜ。戦いっちゅうのは、こんなもんよ」 レブノスが言った。 「いや、レブノス。大したもんだな。あのエグゾセを仕留めるとは。……従騎 士の肩書きにも飽きただろう。そろそろ、叙任の推薦をしてやろう。叙任式は ホーカム皇子に執り行ってもらおうか」 クレスタがレブノスを見上げて言う。 「やった。これで本物の魔道騎士だ」 レブノスが破顔する。そんなレブノスを、クレスタは頼もしげに見上げた。 「はい、二人共。ちょっとじっとしてて。今、治癒の魔道をかけてあげるから」 コトリンが軽い調子で言う。 「ああ、頼む。しかし、急いでくれよ。エタンダールの後を追わねばならんか らな」 クレスタの言葉に、コトリンは無言でうなずいた。 3−15に続く
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