連載 #4222の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ふーん」 少年はしばらくクリバックと剣を見比べていたが、唐突に、槍の威力を確か めるために戦ってほしい、と言い出した。 「へえ、いい度胸してるぜ。いいだろう、表に出ろ!」 クリバックと少年は外に出た。二人の尋常でない気配を察した人々が、二人 を遠巻きに囲み始めた。 「俺の名はクリバック。そっちの名前を聞かせてもらおうか」 クリバックが腰の闇曜石の剣を抜きながら聞いた。 「スウェルド=ミラン=タムラーディン。竜騎士だ。どうでもいいけど、後ろ の剣は使わないのかい?」 少年−−スウェルドが槍をしごきながら聞き返してきた。 「こんな得体の知れん剣が使えるか」 「あっ、そう」 「ごちゃごちゃ言ってないで、来い!」 クリバックはそう叫ぶや、間合いを詰めるべくスウェルドに突進した。懐に 飛び込んでしまえば、槍など恐れるに足りない。 「でやあっ!」 クリバックは本気で斬りかかった。が、次の瞬間、スウェルドの姿が視界か ら消えた。 「なにっ」 「こっちだ!」 空から声が降ってきた。クリバックは天を見上げ、口をポカンと開けた。ス ウェルドが地面から五レードほどの空中に静止していたのだ。見物人から驚嘆 の声が漏れる。 「奇妙な技を使うなあ」 「これが俺のウリでね。行くぞ!」 スウェルドが逆落としに降下してきた。クリバックは後方に飛び退いてその 一撃をかわした。しかし、スウェルドは槍を地面に突き立てると、それを軸と して身体全体を振り回してクリバックに蹴りを入れた。クリバックはそれをも ろに食らい、弾き飛ばされた。 見物人から悲鳴が上がり、巻き込まれることを恐れた者が逃げまどう。 「畜生め!」 クリバックは素早く起き上がると、剣を低く構えて再び突進した。剣が一閃 する。今度はスウェルドは飛ばずに、それを槍の刃の部分で受け止めた。 それからしばらくの間、二人の押し合いが続いたが、スウェルドがいきなり 力を抜いたことで勝負は終わった。 「どうした?」納得がいかないクリバックが聞く。客観的に見て、スウェルド の方が優位にことを進めていたのだ。何しろ、不利になれば空に逃げられるの だから。 「いや。この槍がなかなか使えそうだと思ってね。それに」 スウェルドが左の二の腕をかざした。三クレードほどの斬り傷が出来ていた。 クリバックが空振りしたと思っていた一撃。しかし実は、剣に宿る妖気によっ て打撃を与えていたのだ。 「あんた、いい腕してるよ」 スウェルドはそう言って、武器屋の主人に言い値で買う旨を伝えた。何とな く憎めない奴だとクリバックは思った。 スウェルドは気に入った槍を手に入れられて上機嫌だったが、クリバックの 方は不機嫌だった。結局、武器屋の主人にも宙に浮く剣の正体がさっぱり分か らなかったからだ。 「魔剣ですな」 さんざん時間をかけて鑑定した武器屋の言葉がこれだった。それ以外は何も 断言出来るものはないと言う。 消沈して店を出ると、スウェルドが店の外で待っていた。一緒に酒場に行こ うと言う。むしゃくしゃしていたクリバックはそれに同意した。 「じゃあお前、『ドラゴンスレイヤー』なのか?」 既に相当量を飲み干していたクリバックが盃を傾けながらスウェルドに聞い た。ドラゴンスレイヤーとは文字通り、竜を倒した者に与えられる称号だ。ち なみに、今現在も、例の魔剣は彼の後ろに浮いている。 「まあ、そう思ってくれるなら、それでいいや」 スウェルドは言葉を濁した。 「なるほどねえ。竜の生き血を飲んだ者なら、空を飛べるのも道理だぜ。いや、 それにしてもたいしたもんだ。俺より若いのにドラゴンスレイヤーとはねえ」 クリバックは素直に感心していた。 「竜の生き血がどんな力を与えてくれるのかは、人によるらしいけど」 実際のところ、スウェルドは自らの力だけで竜を倒した訳ではない。竜討伐 隊との戦いで相打ち状態で傷ついていた竜に、偶然通りがかったスウェルドが とどめを刺しただけの話なのだ。しかしスウェルドは今まで誰にもその話をし たことはなかったし、クリバックにするつもりもなかった。 「じゃあ、人によっては、火を吐けるようになったり、不死身になったりする のか?」 「そうみたいだね」 「で、おまえこれからどうするんだ?」 クリバックはスウェルドに向き直った。 「うん、実は、グリミーカ島に行くつもりなんだ」 スウェルドがそう言うと、さっきから聞き耳を立てていたらしい一人の男が 歩み寄ってきた。クリバックが見たところ、冒険者には見えなかった。ケチな 情報屋、といったところだろうか。 「お兄さんがた、グリミーカに行くつもりですかい。しかし、あそこは随分前 から、地震を避けるために空中に浮遊しているって話ですぜ。どうやって行く つもりですかい?」 「おや、あんた。俺の話を聞いてたんじゃないのか」スウェルドがにやりとし た。「俺は飛べるんだぜ」 「へい、それは聞いてましたが、その、何かグリミーカに関しての情報はご入 り用じゃありませんで? お安くしときますでさ」 情報屋が腰を低くして本題に入った。 「よし、聞かせてもらおう。金は俺が出す」 そう言ったのはクリバックの方だった。クリバックは腰につけた皮袋の中か ら、百クルツ金貨を十枚取り出した。切れ味鋭い剣が三本は買えそうな額だ。 情報屋は目を輝かせてその金を受け取った。 「悪いな。実は俺も、グリミーカのことはほとんど知らないんだ」 「ようございます。では」 情報屋が話を始めた。その話は要約すると次のようなものだった。 そもそもグリミーカ島の歴史は、約三百年前、ランディール帝国が派遣した 海洋調査船が漂着したことに端を発する。その調査船が帝国に持ち帰った情報 は帝国の有識者を驚かせた。帝国内では当時、概念上の存在でしかなかった魔 力が島全体に満ちていたのだ。 帝国首脳部は数次に渡って探検・研究隊を派遣し、百年ほどの苦闘の末、そ の魔力を扱うための体系、「魔道」が整えられた。 それによると、魔力は八種類あり、正・負四種類ずつに分かれている。正の 四つは水・風・火・土、負の四つは金・月・陽・星がそれぞれ存在し、それら は、「魔神」と呼ばれる存在が力の根源となっている。 「この八つの属性、実は人間にも存在するのです。それを見抜くのは魔道士に しかできないそうなのですが」 「ああ、それなら知っている。俺の属性は風だ」 スウェルドが口を挟む。 「そうなのか? 俺は知らないぜ、自分の属性なんて」 クリバックが首を傾げる。 「魔道士でもなければ、属性など特に関係ありませんて」 そう言った情報屋は酒で口を濡らし、再び話し始めた。 魔力を扱うとひとくちに言っても、人が生まれ持ったそれぞれの属性の魔力 しか、通常は扱うことは出来ない。だが、属性の研究が続けられていくうちに、 八種以外の属性を持つ者の存在が次第に明らかになってきた。 それは、正の四種を自在に扱う「天」と負の四種を扱う「地」の二つの属性 だった。その二つの属性を持つ者の比率は非常に少ないが、魔力に満ちたグリ ミーカ生まれの者に関しては、その比率が大幅に上昇することも分かってきた。 「その、天と地の力を得たグリミーカ人−−ああ、グリミーカ生まれの者をそ う呼ぶのです−−は、その力を背景に帝国から独立を宣言しました。一つの属 性しか扱えぬ帝国の魔道士が束になってもかなうはずがなく、帝国も渋々その 独立を認めたのであります」 「それがなんで、島ごと宙に浮くなんて羽目になったんだ?」 クリバックの問いに、情報屋はしたり顔をした。 グリミーカ魔道王国は独立から二百年ほどの間、その力を巧みに使い、繁栄 を続けていた。しかし、あるとき、負の属性の一つである金の魔神が謎の暴走 を始めた。実体化した魔神は大陸に上陸し、多くの人々を殺し、街を破壊した。 「今でこそ、その暴走は、魔力を余りにも身勝手に使い過ぎた魔道士に対して の魔神の怒りの表れだったのだ、と言われております。しかし、その当時の人 々には考えもつかなかったのでございましょう」 当時の彼等に出来たのは、金の魔神を、倒せないまでも封印することだけだ った。が、金の魔神が封印された結果、八種の魔力の均衡が失われ、島は天変 地異の源であるグリミーカを捨てることは、その島の魔道士達には考えられな かった。 「グリミーカ島が浮上したのは、一説には地震を避けるため、と言われており ます。しかしながら、本当のところは誰にも分かりません。風の魔力の暴走に よる物という噂も根強くあるのです」 「なるほどね。おい、スウェルド。そんなグリミーカに行ってどうするつもり なんだ。魔道の修行でもするか?」 クリバックが聞く。 「うんにゃ。しかし、面白そうじゃないか」 スウェルドは明るい調子で答えたが、その内心は、それほど明るい訳ではな い。 強くなりたい。それがスウェルドの小さい頃からの願いだった。偶然が重な った結果として、没落した騎士の家の末っ子である彼が身分不相応な竜騎士と なってしまったことでその思いは一層強くなった。修行がしたい冒険によって 実力と経験を得たい。その一年で、彼はグリミーカ島を冒険の舞台に選んだの だ。あの島ほど、危険に満ちたところは他にはない。そう考えたの。 「面白い話と言えば」 情報屋がスウェルドの感慨を打ち破るように口を挟んできた。クリバックが 気前よく金貨を弾んだお陰で随分と口が軽い。 「ランディール帝国の今の宰相・エタンダール様をご存知ですか?」 「ああ、名前は聞いたことがある。そうとう使い手の魔道士らしいな」 クリバックが答えた。スウェルドもうなずく。 「この御方と、前宰相である彼の父・ガゼル様はグリミーカの出身なのだそう です」 情報屋の言葉にクリバックとスウェルドは顔を見合わせた。 「それはおかしいじゃないか。帝国は、グリミーカが独立した時点で国交を断 絶したはずだ。しかもグリミーカは百年も前に浮かび上がって、交通手段なん かないんだぜ。……ああ、空を飛ぶ魔道ぐらいあるのか。しかしそれは別にし ても、グリミーカ人が帝国の宰相に何てなれる訳がない」 スウェルドが反駁する。 「そこですよ」 情報屋が身を乗り出してきた。 スウェルドの言う通り、グリミーカから大陸への交通手段はない。従って、 ガゼルは陽の魔道である長距離空間移動を使い、大陸に来ようとしたのだ。今 から九十年前のことである。 しかし、島の魔力の均衡が崩れていたために、彼の魔道は失敗した。彼と、 エタンダール他十数人の魔道士達は、一旦は時間と空間を跳び越える次元の穴 への侵入に成功したものの、ある者は次元の隙間に閉じ込められ、またある者 は海中に出現して溺れ死んだという。 ガゼルとエタンダールは何とか大陸にたどりついたが、魔道失敗の影響で共 に記憶を失っていた。 「何しろ、天、あるいは地の属性を持つ者は帝国にとっては貴重な人材ですか らね。記憶を失っているならかえって好都合だと、時の皇帝は考えられたよう で」 「そういうことか。で、なんで魔道士達はこっちに来ようとしたんだ?」 「金の魔神を復活させ、魔力の均衡を取り戻すためですよ。それでもって、グ リミーカを救おうという訳で」 「何だって!」 クリバックが声を上げる。百年前、大陸を所狭しと暴れ回った金の魔神の話 を知らぬ者は、リムリースに住む者の中には一人としていないだろう。 「しかしまあ、失敗したんだからいいじゃないか」 スウェルドがあっけらかんと言う。 「ところが、そうもいかないんで。実は、エタンダール様が近頃記憶を回復し たという噂がありましてね」 「そいつはまずいな」 クリバックがしかめ面をして顎に手を当てる。一方のスウェルドは、身を乗 り出して言った。 「面白そうじゃないか。もっと他に情報はないのか?」 「残念ながら、あっしが知ってるのはここまででさ」 情報屋が頭をペコペコと下げる。 「うーん、これからどうする?」 クリバックが情報屋に礼を言ってからスウェルドに聞く。 「俺は行くよ。グリミーカが今どうなっているのか、確かめたいからな」 「よし、俺も行く。魔道の総本山のグリミーカに行けば、このうっとうしい剣 を何とか出来るかもしれんからな」 その晩を同じ宿屋で過ごした二人は、翌朝早く、さっそく海岸目指して旅立 った。 3−11に続く
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