連載 #4215の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
風の行方 (原稿そのものには筆名なし。彷徨佳の習作) プロローグ 「本当に後悔はないのだな?」 謁見の間の中央で恭しく頭を下げている初老の男に王は言った。王は心の奥 に秘めている真の感情を押し殺してこの謁見にのぞんでいた。 「はい」 男は短く、もっとも簡潔な言葉で自分の意志が断固たるものであるというこ とを表した。王は男のその答えを聞いて一つうなずくと、赤ん坊を抱えて隣で ひかえていた侍女に向かって視線を送った。その視線をうけて侍女はゆっくり と男に向かって歩きだした。 謁見の間には男と王、侍女、そして王妃のほかには王にもっとも近い重鎮が 一人いるだけだった。この謁見は非公式のもので、王にとって私的なものであ ったが、歴史的には公的な意味合いのとても大きなものであった。 「アデット様」 侍女は男の前で足を止めると静かに声をかけた。男は顔を上げた。侍女は抱 いていた赤ん坊を男に差しだした。男は赤ん坊を受け取り、大事にしっかりと 抱きかかえた。 「今これより、その赤子はそなたの娘とする」 王が宣言すると、隣で、今まで謁見の成り行きを見守っていた王妃の目から 涙が溢れだしてきた。しかし、王妃はその涙を拭おうともせず、まっすぐと赤 ん坊を抱えた男と見ていた。 「そして、今日付けでそなたの近衛兵団技術班特殊技術長の任を解き、ビッグ スロープ伯としてのすべての権利を与える。ただちに当地へ赴き、その職務を 全うせよ」 「はい。私にはまことにもって勿体なき任官なれど、王の命令とあれば、その 責務を立派に果たすべく努力いたします」 「これにて、謁見を終了する」 男と王はまっすぐに視線をあわしたまま動かなくなるかと思われたが、王が うなずくと男は口元をゆるめ、うっすらと笑って振り返り、謁見の間の出口へ と歩きだした。 男が謁見の間を出ていくと、王妃は今まで我慢していたものが一気に爆発し たように泣き崩れた。王は王妃を抱き締めた。その王の目にも、涙が溢れはじ めていた。 1 「チャーピー、待ちなさい!」 少女が坂を駆け登っていた。少女の前を猫目リスが走っている。どうやら少 女は、このリスを追いかけているようだ。 「この食いしん棒。それは今晩のサラダにしようと思っていたのよ」 チャーピーの口には顔の二倍はある人参がくわえられていた。チャーピーは 道ぞいにはえている木を見るけると駆け登っていった。そして、適当な枝に腰 を下ろし、幹を背もたれにして人参を噛りはじめた。 「チャーピーの卑怯者。いいわよ、あなたがその気なら夕食は抜きだからね」 「ぴい?」 人参をすっかり食べてしまって、満足げに手のひらをなめていたチャーピー は「夕食抜き」の言葉に反応した。チャーピーは慌てて木を駆けおりた。そし て、今度は少女の肩に駆けあがると、甘えるように少女の頬をなめた。 「ダメよ。何度言ってもつまみ食いをするんだから。たまにはおなかを空かせ て反省しなさい」 少女は子供を諭すように言った。 「ぴ」 「えっ、どうしたの?」 チャーピーは少女の肩から背後へ飛び降りた。チャーピーを追って少女が振 り返ると、 「よう」 「あら、トイーディ。今日はお父さんのお手伝いはしなくていいの」 「親父ならそこにいるよ」 トイーディは親指で後ろを指さした。 「リルトお嬢さん、ごきげんよう」 トイーディの肩ごしにぴんと立てた口ひげをつけた男が顔を出した。 「ごきげんよう、おじさん。今日はもうお帰りですか」 「たまには早く切り上げて一杯やろうと思いましてね」 「嘘だよ、嘘。今日は特別の日なんだよ。なあ、親父?」 口ひげの男はコホンと一つ咳払いをして、 「トイーディ、俺は先に帰ってるからお前はお嬢さんのお相手でもしてゆっく り帰ってきなさい」 と、さっさと立ち去ってしまった。 「どうしたの、おじさん?」 「今日はおやじとおふくろの結婚記念日なんだよ。俺がいちゃ、邪魔なもんだ からあんなこと言って……。ところで、リルトはこんなところで何をしてるん だ?」 「あっ、そうだ。その食いしん棒をこっちに返してちょうだい」 いつの間にかトイーディの肩に乗っていたチャーピーは頭の後ろに隠れた。 「こいつ、何かしたのか?」 「今日の夕食の材料をつまみ食いしたのよ。それで、こらしめてやろうと思っ て追いかけて来たの。さあ、出ていらっしゃい。出てこないと本当に夕食抜き よ」 リルトはトイーディの後ろにまわった。チャーピーは捕まるまいと前にまわ る。それを追ってリルトも前にまわって、 「おいおい、やめろって」 トイーディの声はリルトの耳に入っていなかった。 「待ちなさい、チャーピー!」 「俺を挟んで追いかけっこをするな!」 「こら、チャーピー!」 「ぴい!」 と、そうこうしているうちに、 「うわっ!」 リルトとトイーディは激しくぶつかった。二人とも大きく尻餅をついて倒れ た。 「いてててて……。だからやめろって言ったのに……」 「あいたあ……。トイーディ、大丈夫? ごめんね」 「ぴぴぴ」 チャーピーは木の上でおかしそうに笑っていた。リルトは、立ちあがってか ら左手を腰に右手の人差し指を立てて、 「チャーピー、あんたが悪いのよ! もういい、分かったわ。トイーディ、い きましょう。夕食うちで食べて行くのでしょ?」 「えっ? あっ、ああ……」 「ちょうど良かったわ。今日はチャーピーの分もあるから、たくさん食べてい ってね」 リルトは視線だけでチャーピーを睨むと、坂を早足でおりはじめた。 「チャーピーの分って、あいつのえさって野菜だけだろ?」 トイーディは慌てて立ちあがりリルトを追いかけた。 「人の家でごちそうになるのに、ぜいたくは言わないの」 リルトはどんどん歩いていく。 「俺、野菜は嫌いなのになあ……」 トイーディは頭をかきながら呟いた。 さて、木の上のチャーピーはどうしたかと言うと、 「ぴ・ぴ・ぴ」 二人の後ろを楽しげに跳ねながらついてきていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 飛龍輝光伝 1 案:彷徨佳 作:島津良家 解説 この作品は、前回の「目指せ五百万−−」に掲載した彷徨君の基本案をベー スにしている。しかし、大空を舞うのは飛光機ではなく龍である。そう、火を 吐き、金を集め、人の言葉を解し、その血を浴びれば不老不死になれるという、 あの龍である。 何でか? それは、早い話、飛光機をうまく活躍させうるシチュエーション を設定できなかったからだ。航空機というのは地上にいる間は何の役にも立た ないが、龍は存在そのものが凶器なので、絶対的な存在として描写できるのだ。 従って、設定は色々と借りているもののストーリー展開は全くの別物になると いっていい。 ちなみに今回、四百字詰め原稿用紙にして六十三枚という計算になる。多い か少ないか、判断に迷いますな。 プロローグ 「全く、なんという因果」 バルメディ王国首都ラングス。その中央に立つ王城の大広間。ひとりの重臣 のつぶやきに、周囲の者達からも同意の声が上がった。「お妃様が不憫でなら ぬ。待望のご嫡子が……」 「まさか、龍の子だとはな」 龍の子。風色の髪と瞳を持つ者の事を、当時そう呼んでいた。龍の子は、龍 と話し、彼等を操る力があると言い伝えられていた。しかし、人間を遥かに超 えた存在である龍の力を手にすれば、いずれ災厄をもたらすとバルメディ王国 の北部では信じられていた。そのため、龍の子として生まれた者は存在自体が 災いの元凶と見られ、その将来は決して明るいものではなかった。 その龍の子が、事もあろうにバルメティ王国の嫡子として此の世に生を受け たのだから重臣達が混乱するものも無理はなかった。誕生から一ケ月の今日、 緊急で会議が開かれたのはそれが理由だ。 「国王陛下のおいででございます」 国王の側近の触れを聞き、重臣達の雑談がやみ、厳粛な空気がその場に満ち る。国王は必ずしも人望篤い男では無かったが、周囲に緊張感を与える程度の 威厳は持っている。 王座に座った国王は、会議に集まった者たちに簡単にに礼を述べ、龍の子の 処遇についてどうするべきか、忌憚の無い意見を述べるようにと言った。 「恐れながら陛下。龍の子は災いの象徴、このままではいずれ、この国を揺る がす不幸をもたらすでしょう。それゆえ……」 重臣の一人の言葉は途中で濁り、途絶えてしまった。 「正直に申してみよ。そなたは、龍の子を殺せと言うのじゃな」 大広間に、低いどよめきが起こった。それは、言いだしかねていたが、本心 では誰もが考えていた、最もてっとりばやい解決策だと思われた。 「妃殿下には、お心ぐるしい措置だとは重々承知。なれど、禍根を絶つには、 それよりありますまい」 先ほどの重臣が、平伏したまま述べる。 「それは早計にございますぞ」 別の重臣が口を挟む。白髪の、老人と言って差し支えのない風貌ではあった が、その声の重さに、全員の注目が集まった。 「仮にもご嫡子。それをあやめるとなれば、民衆が恐れ、その心は離れてしま います」 「そのような心配はいらぬ」 国王が憮然とした表情で言う。 「龍の子が生まれたという話を知っておるのは、ここに集まったそなたらの他 にはおらぬはず。民衆は何も知らぬ」 「今はそうであったとしても、人の口に戸は立てられますまい。第一、一体誰 がご嫡子に手をかけられましょうや?」 老臣は毅然とした態度で、逆に国王に尋ねた。 「ならば、どうしろと言うのだ?」 「龍の子を、それがしめにお与え下さい」 先ほどよりも大きなどよめきが大広間に満ちる。 「それはなりませぬぞ、陛下!」国王にかなり近い位置にいた−−それはつま り、その者の地位が高い事を示していた−−重臣が、かん高い声で老臣の提案 を打ち消した。 「王家の血を受け継ぐ者を手中に収め、なお一層の栄達を望まんとの魂胆、見 えすいておりまする。いや、龍の力を用い、我が国をも己の手にしようとの所 存かも」 その重臣は、年齢的には老臣よりもはるかに下なのだが、家柄を笠に着て、 強い調子で老臣を非難した。 「おだまりなされ!」 老臣が怒気をはらんだ声を出し、一瞬大広間が静まり返った。 「ならば、そなたが手で、龍の子の首をはねられますかな? 王家の血を引く、 ご嫡子の首を!」 老臣が、彼を侮辱した重臣に視線を合わせたまま、強い調子で言った。 「……」 「陛下」老臣は、国王に向き直った。「もしも、さきほどかの者が申したよう なご懸念をお持ちであるならば、即刻それがしめの官位を剥奪して戴きたく存 じます。そして、どこへなりともお流し下され」 「よいのか? そなたは、龍の子の為に、己が人生を捨てても良いと申すか?」 「龍の子とは申せ、赤子の命をむざむざ失わせたとあっては、目覚めが悪うご ざいますからな」 3−5に続く
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「連載」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE