連載 #4029の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
6 「陛下、ゲオルグ様が朝食にお呼びです。」 次の日の朝、私は小姓の細い声に起こされた。 「判った。すぐ着替える。」 「お召し物はこちらに置いておきます。」 「うむ。」 何時の間に眠ってしまったのだろう。昨夜、エナが出て行った後、私は様 々に渦巻く思いに悩まされていた。この城の快活な人々と地下牢のエセル。 私にこれらをどう結び付けろというのだ。挙げ句の果てに今朝、体は昨夜寝 椅子で不自然な姿勢で寝た事による節々が痛み、頭の中には後味の悪い昨夜 の夢の名残が意地汚くこびりついている。 夢の中でエセルは丈の長い鮮やかなアッカムの民の衣装をまとっていた。 ジェノールの兵士は彼女の服をはぎ取りレイプした。順番を待つ兵士の列は 長く伸び、私はその列の最後でおとなしく順番を待っていた。列の中程には ゲオルグがいて、彼は私を振り返り嘲りの笑みを浮かべた。 私達だけで食事をするには大きすぎるテーブルの端で、ゲオルグは一人で 朝食を取っていた。 「昨日はよく眠れたか。」 「ああ、おかげさまでな。」 「その割には顔色が悪いぞ。」 ゲオルグは笑いながら言った。 「悩みでもあるなら、相談にのるぞ。」 「ふざけるな。」 私は席に着くと目の前の卵を手に取り、両の手で包み込んだ。 「彼女はなんだ。」 「ホレイショ嬢の事か。」 「おまえの妹は魔女なのか?」 私の言葉が引き起こした変化は僅かだった。しかし確かにゲオルグの目の 中に、苦痛の光が閃いた。 「ゲオルグ、どういうことだ。おまえは自分の妹、エセルを魔女だと言った のか?」 ゲオルグは目の前のパンを口にしかけて、それを皿の上に置き、グラスに 目をやり、壁際にかけられた古風な剣を眺め、最後に諦めたように私の目を 見た。 その時の私は不快な一夜を過ごしたせいでひどく残酷な気分になっていた。 「ベセルーン、その話は止めてくれと言ったはずだ。」 「説明してくれ。」 私は手の中の卵をゆっくりと転がした。指先に少しずつ力を加えるていく と、卵の殻に徐々にひびが入った。 ゲオルグは私の手の中で徐々に粉々になっていく卵と私の目を交互にみや ると、ため息をつき、あきらめたように話し始めた。 「エセルは確かに私の妹だ。美しい、しかしどこか奇妙な娘だった。」 ゲオルグは伺うように私を見た。 「まるでもう亡くなったかのような言い方をするのだな。」 「そうだこの城の者にとってエセルはもう死んだも同然だ。」 「3年前に何があった。」 「知るものか!」 ゲオルグは突然激すると目の前の皿を床にぶちまけた。 「父が突然エセルを魔女として告発した。それまでの寵愛が嘘のようにな。 この城の者は皆陛下を宥めようとしたさ。しかし陛下は既に正気を失ってい た。我が身を省みずに主人の無実を訴える侍女に剣をふるったのだぞ。誰に も止めることは出来なかった。」 「おまえはその時何をしていたのだ。自分の妹の災難に何もしてやらなかっ たのか。」 「私に何が出来たというのだ。当時の私は何の力もなかった。皇太子でさえ なかったのだぞ。ゲイト侯を始めとする貴族の力は大きく、父の後ろだてを 失う訳にはいかなかった。マイセン3世が乱心したとなれば、奴らは喜んで この国を好きにしたろうさ。マイセン3世は常に正しくなければならなかっ たのだ。たとえ狂っていようとな。」 私は座ったままでゲオルグを静かに見ていた。我々の諍いを遠くから侍女 達が心配気に見ている。彼女達にはゲオルグが今にも剣を抜きそうに見えた だろう。 「城の地下に牢屋を作って、自分の娘を罪人と一緒に閉じ込めるなど正気の 沙汰とは思えない。マイセン3世も...おまえもな。」 「あの牢はエセルの為だけのものだ。父は町の牢屋で盗人やら人殺しやらと 一緒にエセルを扱おうとしたが、私が止めた。私に出来たのはそれだけだが な。」 そう言ってゲオルグは自嘲気味に笑った。 「他の罪人も居るはずだ。」 「あの牢には3年前からエセルしかいない。何を言っているんだ。」 「しかし確かにあの夜...」 「私とて二日と日を置かずにあそこへは行っている。他の罪人は居ない。」 何だというのだ。私を怪訝そうに見つめるゲオルグが嘘を言っているとは 思えない。 侍女の誰かが呼んだのだろう。この城の者が二人連れだってやってきた。 ゲオルグはこれまでの言い争いが嘘のように二人を笑いながら迎え、何事か 話している。 私はと言えば、つぶれて粉々になった卵の殻を前にあの夜エセルに竪琴の 音をせがんだ者達のことを、一人考えていた。 つづく by カズキ
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