連載 #3738の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
★ 時計は11時を少し回っていた。 テレビの画面の中で久米宏が愛想を振りまきながらニュースを読んでいる。 この時間は寝ている裕一であったけど、キッチンに立って、コーヒーを入れて いた。 裕一がちらりと後ろを見た。 背後にいるのは、さらさらとした髪をした少女・茜である。足を横に崩して、 じっとテレビを見ている。 「この年頃の子供は、みんな可愛らしいものだ」裕一は思った。 茜の容姿、それが可愛らしい事は多分、近所の奥様方が見ても確かだろう。 大きな瞳ときりりとした眉は母親のいいところを受け継いでいるに違いないと 裕一は見立てている。といっても、突然此処にやって来たときの茜は、闇から 現れたせいかある種不気味さが感じられた。部屋に招き入れ、風呂を使わせて から、箪笥にしまってあった緑の洋服を着せてあげたのである。少し仕様が合 わない感じだったが、雰囲気としては似合っていた。 トレーにコーヒーとミルクをのせて、裕一がそれをすすめた。 「ようこそ、我が家へ」 写真立ての中の愛娘に対して向けたのと同じほほえみ、それを向けた。 コーヒーの湯気が栗色をした茜の頭髪を包む。裕一はじっとそれを眺める。 黒い髪の愛娘以外の少女を滅多に見ることは無い。今では白髪も多くなったが、 郵便局内勤の新米だったころの啓子の髪も美しい栗色だった、裕一はそれを思 い出した。 それに啓子の娘・茜は、仕種だって母譲りであった。 母のように、ティーカップの中のコーヒー一杯、砂糖を半分、ミルクをたっ ぷり入れて、少しずつ飲み干した。 おいしい・・・・・・ 。 今まで、強張っていた表情が次第に溶けてゆく・・・・・・ 。 「どうだいお味のほうは」 自信たっぷりに裕一は言った。 茜がこっちの方を向いた。そして、もう一度飲んでみせてから感想を述べた。 「おじさん、コーヒー入れるの上手! お父さんの入れたコーヒーよっかお いしい! 」 大きな声で、はきはきと応えた。 裕一は苦笑いする。 「君のお父さんよりもおいしいって、そりゃお世辞が上手過ぎるよ。僕のコー ヒーとお父さんのコーヒーじゃ全然違うもん。業界のプロには負けるよ」 茜の父親に気を遣う。けど、真剣な顔で茜は否定した。 「お父さんは、お父さんのコーヒーは、別にうまいとは思わない! 」 反抗期かなと傾げる裕一。この発言で、彼女の家出の理由を大体掴んだつも りであった。 そういえば、緑が百合に冷たくあたった事があったな。そのときは、啓子が 緑のよき相談相手になってくれて、百合の及ばなかったところをフォローして くれたな・・・・・・ 今度は自分かと頭を掻きむしった。 今日のところはこの天気だし、泊めるしかない。しかし啓子が心配している わけだし、親元に返す必要があった。 裕一が受話器をとろうとした。が、 茜が叫び声をあげた! 「帰りたくない! 帰りたくないわっ! 」 茜の言葉が重く突き刺さった。 この一言で、受話器に延びていた手が止まった。 「帰りたくない? どうして!? 」 裕一の問いに少女は理性を失った言葉を返す。 「あんなつまらなくて、気持ち悪い家なんて帰りたくない! おじさんは分 からないと思うけど、嫌なの! 」 裕一は怖じ気づいた。それでもまた、手を延ばそうとしたが。 「いやいやっ! やめて、お願い! 」 茜の顔が怖かった。さっき玄関前に現れたときのどこかギラギラとしていた 時のように目を吊り上げている。 このままじゃ泣き出しそうだ。 「どうしてなんだい」今度は優しく尋ねてみる。しかし、茜は答えを返して くれない。駄々をこねて嫌とだけしか言わない。 緑だったら、裕一は絶対に緑を叱り飛ばしていた。が、他人様のそれも知っ た顔の娘さんである。強権発動というわけにはいかなかった。 ここは穏便に何も聞かないでおこう・・・・・・ 「ん・・・・・・ おじさんは別に構わないけど、取り合えず向こうの方に布団を 用意したから今日はあっちの方で寝なさい」 「おじさん、寝てるあいだに、お母さんにチクらないよね」 茜が鋭い目をして釘を刺した。 睡眠中の密告はよしたほうがいいと思った。裕一の魂胆の先までみぬかれて いる。 「大丈夫だよ。おじさんは、君の味方だ」 「本当? 」 笑みを作る。 「幸いながらおじさんの家には、緑が使っていた洋服や学習机・おもちゃか らアクセサリーまで全部残してあるんだ」 「ふーん」 「おじさん独身だし、退屈で退屈で仕方なかったんだ。よし、こうしよう! 家に帰るのが嫌だというなら、僕が暫くの間だけど君のお父さんになってあげ よう」 裕一は殆ど冗談として言った。 「本当? 」 けど、裕一に対して疑問の視線を投げかける。 「おじさんって、ロリコンじゃない? お洋服持ってるだなんて、変! 此 処もなんか危なそう」 ロりコンとは随分な言葉。裕一の資質に疑いを持っている様子である。 けど茜は頭がいい。フォローも忘れない。 「けどおじさんが、どっかの罪の無い少女を誘拐して前科モノになるよっか は、私一人が酷い目にあった方がマシだよね」 「おい、それはいくらなんでも」 「だから、私が緑おねぇちゃんの代わり。お母さんから聞いたことある。可 哀相だっておじさんの事」 裕一は写真立ての方を向く。 なるほど、神は自分に救いを与えたという事かと。向こうの家庭に何があっ たのかは知らない。けどこうして裕一のところに緑の代わりがやって来たので ある。裕一にとっては好都合だ。裕一が捜し求めていた物が見つかったのであ る。手が届けば触れる実体だ。動く、そして本当に喋る実体。 裕一の、人倫のタガが外れた。 茜の柔らかい容姿に負けてしまったのだ。この子の事を慈しむ事が出来るの ならと裕一は思った。 御免、手放したくないんだ。 隠匿だ。啓子にはこの事は知らせない。 裕一の欲望が、わが子の帰りを待つ啓子の気持ちを制した形になった。 「そっか、おじさんの事を可哀相って。嬉しいな」 裕一は頭を撫でてやった。栗色の髪の毛から漂うシトラスの香りが甘い。 裕一は右手を差し出した。 「これから、よろしく」 にこり微笑む茜。 そして、悪戯をした。気に入った相手だからやっちゃったのだ。 「よろしく、ふつつかものだけどぉ」 裕一の、突然目の前に現れて、大切な思い出を押しつけてしまった。 数秒間触れた唇。 小悪魔は、おそらくファーストキスの相手という栄誉を中年男に与えてしまっ たのだ。 そして、慌てる裕一の表情にさらにダメを押した。 「茜はぁ、ススんでるんだよ」 自分のやらかしたことがウブな裕一にどういう影響を与えたかなんてお構い 無しにそう言った。 そして、「おやすみ」と言い残して、あつらえた布団の中へと潜っていった のである。 数分後、そして目を閉じた。疲れ切ってると思われる身体を休めるために。 裕一はしばしの間呆然としている。肌で感じる物、それは久々の感触であっ たし、予期もしていなかった。 柔らかい、寒天だ。これは・・・・・・ 。 「緑」だったら、決してこんな事はしなかった。心拍数が激しいまま収まら ない。 裕一の鼓動が静まるまで、相当の時間を費やしたことなんて、布団の中の少 女は知らないだろう。 大雨よりも激しいものに襲われた気分だと裕一は表現する。 現在、その雨は力尽き小康状態となっている。耳元に喧しい程響いていた雨 音も心地よく聴ける程度のものになっていた。明日は快晴だろう。 気が付けば日付は翌日になっていた。 つづく
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