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第五章 バルカンの嵐 [前編] 一 西暦二0二四年 五月七日二三時一0分 ユーゴの小都市ポニクベを出発する二 十数台のトラックの一団があった。 「その昔、バルカン地方はヨーロッパの火薬庫と呼ばれていた。バルカン半島に はオスマン帝国の支配下にスラブ人、ギリシャ人、ルーマニア人、アルバニア人な どの多数の民族が入り混じって居住していたため、一九世紀の民族解放運動によっ て各民族が独立を図ると、領土の確定をめぐって収拾がつかなくなったんだ。それ が列強の干渉を招き、今世紀初めの二度のバルカン戦争を引き起こし、さらには第 一次世界大戦の引き金となったわけだ」 「ふうむ」 薬師寺は、武田のそっけない返事にかまいもせず話を続けた。 「ギリシャを以外のバルカン諸国が社会主義国となった第二次世界大戦後でも、 各国が抱える小数民族をめぐって隣国との不和反目が絶えない。しかし、現在、最 も争いの原因となっているのは民族問題だろう、これは一つに社会主義時代に民族 融和が起こったのが悪影響しているのだろう」 「先に寝るよ」 武田はそう言い放つと目を閉じた。 薬師寺と武田は小学校以来の親友であった。二人はともにユダヤ系資本の商社に 入社するとめざましい昇進を重ね幹部となっていた。そして、武器の密輸にまで直 接に関わっていた。 キュルキュルキュル プシュー ブルンブルルン トラックは暗闇の森の中の曲がりくねった道をボスニアとの国境に向けて駆け抜 けている。 「国境線を形づくっている基は、民族、宗教、言語……。たくさん有るが、ソビ エトとアメリカという二つの集団が活発に機能していた時代はここもユーゴスラビ アという一つの国家だったのだがなあ」 トラックは国境を通過した。この付近はセルビア勢力支配下にあった。そのため 国境警備隊はノーチェックだった。 「民族の住み分けが地領を決めたのだ。現在もその境界線の設定をめぐって争い が続いている。 ……… 経済の不公平感がこの争いの一原因でもあるが、経済力 がもう少しあれば争いは小さくなった、いや全く無かったかもしれない。何れにし ろ、紛争はこの地域の経済力を低下させた。 ……」 我々の目的地はサラエボである。サラエボの近くまでセルビア勢力支配下にあり 武田は『こんなのガキの使いだ』と言っていた。我々の動きがクロアチア側に漏れ ていなければいいのだが……。 ふと、不安がよぎった。さっきから無線連絡が入って来ないのだ。敵の攻撃が始 まったのか…それとも…。ラジオのスイッチを入れた。 「おれは、政治家ではないけれど……」 『ガーー、ピー クロ…ア軍がベオグラードを爆撃…しています。ガガ RVi PVO/ユーゴ防空軍/が反撃ゴオーー ます。 いえ、一時、ブルガリア、ルー マニア国境付近にまで撤退する模様です』 始まってしまったか、我々も撤退しなければ、クロアチアの餌食になってしまう。 「武田! 起きろ! 戦闘が始まったぞ」 私は武田を叩き起こした。 「うーーーん、どうしたあ」 武田は小柄な体を延ばしながら、間抜けな返事をした。 「クロアチアが侵攻してきた。急いで脱出するんだ」 「ほいほい、逃げるか、お荷物は置いていく?」 「馬鹿な、持って帰るに決まっているだろう」 森の中に車を突っ込み一八十度反転した。来た道を戻るのだ。しかし、そろそろ 夜が明けるこんな大部隊で走っていたら、いい目標になってしまう。明るくなる前 にはポニクベに戻れるはずだ。日が上るまでにはもう少し距離を稼いでおきたいの だ。 『ピーウィーーーー ベオグラードは爆撃で… 空港が使用できません。南部の ラデピィーーーッチでも爆撃がガーーーーー』 ベオグラードに着いたのはほんの二日前だった。こんなに早くベオグラードが爆 撃されるとは思ってもいなかった。明日にはベオグラードに戻っているつもりでい た。それが今ではここから出る事もできず、戦場の直中にいる……。 「何処へいく?」 私は地図を広げ、大型輸送機の着陸できる飛行場とそこへのルートを探した。 「ラデビッチもだめかもしれん。もっと東の…ニーシュなら国外に出れるはずだ。 そこへ行こう」 ゴーーーー、キィーーーーーーン 頭上をクロアチアの攻撃機が通過した。ユーゴ軍の戦闘機と空中戦を展開してい る。まずいな、どっちに見つかっても攻撃される可能性がある。 「武田! 止めるんだ!」 武田はドアを開けて身を乗り出すと脇に寄せるように後ろのトラックに合図を送 った。キキキーーー ドサ、ガッガ ガサガサガサ トラックは森の中に止まった。 「ここで、暗くなるまで待とう」 「さっきからラジオが聞こえないな」 「放送局がやられたんじゃないかあ」 私は、今ごろはサラエボのホテルでシャワーでも浴びている頃なのに……と暖か いベッドを思い出しながら眠りに就いた。 午後三時、目が覚めた。武田がいなくなっていた。もうひと眠り……。 ガチャ、クーー ドアの開く音にギョットして目を覚ました。さっきから、一時 間位過ぎている、武田が帰って来た。 「さっき、F−4 四機が爆弾を満載して東の方に飛んで行ったよ」 「クロアチアの密輸された戦闘機だな。目標はラデビッチか、ニーシュかな?」 暗くなってきた、森の中なので日没間近になると足元はかなり暗くなる。 「さあ、出発しよう」 ブルン、キュルキュルキュル 「突っ走るんだ、ニーシュまで」 「その後は?」 「本部に連絡して輸送機を送ってもらうさ」 MG連合の本部に連絡して輸送機をまわしてもらえばこの国から脱出できる。ラ デビッチに空軍基地が健在ならそこからでも脱出できるが、敵に制圧されているか も知れない基地にノコノコ出ていく事はない。 ブルブルル 森の中をトラックの大部隊が突っ走っていく。積み荷はもちろんボ スニア内のセルビア勢力への密輸兵器だ。地対空誘導ミサイルから機関銃までなん でも揃っている。うむ、積み荷はユーゴ軍に渡すか……。 キキイキイイイイーーー なんと、目下にはとうとうと川の水が流れていた。そこにあるはずの橋は爆撃で 完全に破壊されていたのだった。さっきの攻撃で破壊されたのだ。この付近は川幅 も広く、他に橋はない。ふと、『ラデビッチの方に問題が無ければそこから脱出す るか…』という馬鹿な考えをおこしてした。 我々は三0kmほど戻ってラデビッチの方に向かった。 五月九日 二時三0分ラデビッチの南の小さな村に着いた。そこで、我々は、前 進を止める決断を下した。脱出路は完全に封鎖されていた。東に続く橋は全て破壊 されて、ラデビッチの空軍基地も爆撃で壊滅していた。そこのRViPVO空軍機 はニーシュかマケドニアに脱出し、今は基地はもぬけの空であると……。 とりあえず、クロアチアの地上部隊はここまで侵攻してこないだろう。兵器も無 事だし……。 この時点では薬師寺と武田が輸送していた武器はほぼ完璧な形で保管されていた。 ユーゴ軍はブルガリア、ギリシャ国境付近に撤退していた。しかし、ユーゴ軍が 撤退したマケドニアでは基地資源の使用権の問題を発端としてマケドニア共和国軍 とユーゴ軍の戦闘が始まった。ユーゴ軍はマケドニア軍の集中攻撃に移動を強いら れ、ついにギリシャ国境を越えてしまった。事実上、ユーゴ軍がギリシャに侵攻し たことになる。 それまで、ユーゴ軍とギリシャ軍との間で張りつめていた緊張の糸はぷっつりと 切れてしまった。 越境したユーゴ兵へのギリシャ兵の威嚇攻撃から始まった。先頭は国境線に沿っ て広がっていった。 こうして、かねてから緊張状態であったバルカン半島に火の手が上がった。そし て、バルカン半島 全土が戦火に巻き込まれようとしている。
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