連載 #3473の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
怒涛のようなピアノの音色。 演奏しているのは・・・そう、サブ・コンダクターだ。 憑かれたように、彼はピアノを弾いている。嵐のようなオーケストラとピアノの演奏。 そしてクライマックス、凄まじいばかりの音色がひとつになった。 ダーン。 そこで目が覚めた。 「あー・・」 史生は髪をかきあげた。 「・・・ゆめ・・か」 夏季休暇に入ったので、寮内に残っている生徒は史生を含めてほんの20人たらず。彼と 同室の生徒も帰省しているので、現在この部屋は史生の私室と化している。 「3時か」 彼は目をこすりながらのろのろとベッドをでた。襲と聡貴との待ち合わせ時間は4時。 しかも、待ち合わせ場所がこの寮の正面玄関なものだから時間はたっぷりある。こうい うときの時間の過ごし方といえば、彼には一つしか思い浮かばない。 「かーん、ホール行こう」 3分後、史生はバイオリンケースを片手にお隣さんのドアを叩いていた。 すぐにドアが開くと、予想どおり、昨日からずっと起きていたらしい間貴史が不景気そ うな顔をだした。ちなみに「かん」は彼の名字からきた呼び名である。 「やっぱり徹夜してたんだな、お前」 「おうよ、おらぁ受験生だからな」 『てめぇと違って』と大きなあくびをひとつ。 「おれはな、おまえよりずっと前に今のおまえ並みの勉強をこなしてたんだぜ」 「あーあ、失敗したな。そうしてりゃE組に入って今頃はのんびりバカンスを満喫でき たのに」 つまりこういうことである。条等学園はA組からE組までの5クラスあり、E組に入っ ている生徒はイコール特待生としての待遇をうけ、とくに3年生は学園の大学部に入学 が内定されているのだ。 「今更そんなこといったって遅いんだよ。でも受験当日はおれ、『合格祈願』してやっ からさ。まぁ頑張れよ」 「つかもとぉぉぉ」 だーっとばかりに涙を流して貴史は史生の手を握った。 史生の家は真言宗の寺である 。そして何より史生自身の「法力」にかなりの定評があり、最近では「校内の除霊師」 になりつつあった。 「たのむ、たのむぞぉっ。おまえの法力があると思えば少しは楽になる」 「で、さ・・」 「よおしっあと4時間!おれはやるぞーっ」 「おいっ、人の話をきけよ!」 「ゴールは近いっ」 ばたんっ。 「あー・・」 史生はバイオリンケースを片手に立ち尽くした。 それから何秒かの間があって。 ふたたびドアが開いた。 「おまえ、何か用があったのか?」 顔がひきつってくるのが自分でもわかった。 「あんなら、さっさと言え。トロいぞおまえ」 「てっめぇ、ぶっ殺す!」 この学生寮には体育館をやや小さくしたような音楽ホールがある。史生をはじめとし て寮内のオーケストラ部の面々や音楽好きの面々が集まる場ではあるのだが、厳密に言 えば「音楽好き」というより「クラシック好き」の集まるところである。 ホール内に はグランドピアノがひとつあるきりで、あとの楽器は各自持ち込みということになって いた。 「なあ、史生」 ピアノの前で楽譜をぱらぱらとめくりながら貴史が声をかけた。 「んー?」 調弦しながら史生が応じる。 「会長ってさ、どーゆー奴?」 「会長?」 「生徒会長サン。お前、一緒に旅行すんだろ?」 「ああ・・」 普段『かさね』と呼んでいるものだから、『会長』と言われてもピンとこない。 「かさねのことか」 「あのヒトさあ、暴力団系のおっかないお兄さんに知り合いいるのか?」 「はあっ?」 史生はバイオリンをおろした。 「なにそれ」 「きのうの帰りにさ、おっかないお兄さんたちがよってたかって、おれに会長のことを 聞くんだ。どんなやつかとか、根掘り葉掘りね」 「なんでおまえに?」 「そのお兄さんたちが来たときに、たまたま校門出てきたのがおれだったからじゃない の?おれの後から出てきた奴にもいろいろ聞いてたみたいだし」 ー案外、僕も二面性を持つ人間かもよ? こんなときに限って今まで忘れはててた台詞を思い出す。 ージキルとハイドみたいに。 「そういや、ガキのころ読んだ小説のなかにさ『ジキル博士とハイド氏』ってハナシが あって」 史生は思わずギクリとした。 「その主人公のジキル博士ってえらいヒトがさ、人間の善と悪を分離する薬を発見した んだわ。そいでもって自分でその薬飲んで、昼は善良な医師、夜はハイド氏になって悪 行をかさねるっていうハナシなんだけどさ、もしかしたら会長もそうだったりしてな。 典型的な二重人格。昼は優等生、夜はぼーそーぞくとか」 貴史はあくまで楽しそうに話す。本人には冗談以外の他意はないのだから当然といえば 当然なのだが、史生は心中穏やかではなかった。 ーアンガイ、ボクモ・・・。 ぐにゃっとまわりの空間がねじれた。 いままで、そこにいた間貴史が、そばにあったグランドピアノが彼の視界からきえた。 かわりに視界に入ったのは・・。 「かさね?」 言ってから違和感を感じた。こころもちうつむいていた『彼』は、ゆっくりと顔をあげ て史生をみつめる。 「あ・・・」 ーViolet Blueー 第一印象がこれだった。茶色のはずの瞳と髪はあきらかに青く変色していた。 「・・誰だ?おまえ」 ザァッと風がふいた。ばらばらと青い髪がゆれる。同時に音をたてて何かが舞った。 ー真っ赤な花弁・・? 史生はおもわず手をさしのべた。 ふうっと風がやみ、一枚の花弁が彼の手にのこる。 ーツカモトサン。 『彼』が口をひらいた。 ーヨクミテクダサイ。ソレハ、ハナビラナンカジャナイ。 史生は再度手のひらに視線をおとした。花弁のかわりに彼の手にあったのは。 「!」 彼の手はべっとりと血で汚れていた。 押し殺したように『彼』が嗤う。 ーホラ、コノオトコノチデスヨ。 『彼』の視線の向けた先に、史生と大して違わない年ごろの青年がころがっている。 ーボクガ、コロシタンデス。 「・・そんなことを、きいてんじゃない」 史生は『彼』を睨みあげた。 「あんたはだれだ」 ふたたび『花弁』がざわめきはじめた。史生の手のなかの血も『花弁』にかわる。 「かさねにとっ憑いているのか?あんたは」 『彼』は低く嗤っている。今になって声もかさねとは別人のものになっていることに気 がついた。 「あんたの名前は?」 ザァッと『花弁』が舞いはじめた。『彼』の声がかき消される。それでも史生はなんと か『彼』の口の動きから言葉を読んだ。 ータカマ、ミツキ。 「・・・い。しう、おーいっ!」 「あ・・」 乱暴にゆさぶられてやっと彼は白昼夢からさめた。 「なにボーっとしてんだよ、おまえは。目ぇあけて寝てんじゃねーよ!」 「・・・悪い」 殊勝に謝られるとかえって調子がくるう。一瞬貴史は言葉を失った。 「・・あー、史生?シューベルトの『アヴェ・マリア』なんてどうだ?」 「そーだな。ちょうど楽譜もあることだし」 やっともとのペースにもどってきた史生に、貴史はほっとしてピアノの椅子に掛けた。 「それじゃ『アヴェ・マリア』でいってみよう」 すっと史生がバイオリンを構えたその時。ふわっとなにかが彼の手からおちた。 「あれ?史生、今おまえの手からなんか落ちたぞ」 「なんかって?」 貴史は椅子からおりてしゃがみこんだ。 「あ、あった、あった。綺麗な花弁だな、真っ赤だ」 彼は戦慄した。 「なーんかいやな感じなんだよな」 30分も前に集合場所についた聡貴を部屋に連れ込んで、史生はごろっとベッドに横にな った。 「ったく。たまんねーよ。夢見はわるい、不気味な白昼夢はみる」 「たしかに朝っぱらから景気のわるい話だね」 聡貴は机の椅子をひっぱりだして、その背に頬杖をつくようにして座っている。 「白昼夢、のことだけど。それじゃ、史生はかさねちゃんが何かにとっつかれてると思 うわけ?」 「う・・ん、なんか違うんだよな。今思えばとっついてる感覚ってぇのが感じられなかっ たし。でもあれは絶対かさねじゃない」 「じゃ、やっぱり『タカマミツキ』ってこと?」 「うーん・・・」 史生はごろっと寝返りをうった。 「それが一番妥当な線だな。おれもいろんな生霊だの怨霊だのを相手にしてきたけどさ 、こういうのは初めてだ。なんてぇか、たしかに魂はひとつなのに、ふたつの波動を感 じるっていうか・・ひとつの身体にふたりいるっていうか・・・」 うーん、と聡貴は腕をくんだ。 「でも実際、かさねちゃんは化物の類に襲われやすいぞ」 「ん?」 「おれ、一年のころかさねちゃんとクラスの奴らとでキャンプに行ったことがあるんだ けどさ」 「うん」 「夜になって花火しよってことになったんだけど、そのころにはかさね、疲れきって熟 睡しててさ。しょうがないからかさね抜きで花火してたんだけど」 「うん」 「その真っ最中にテントのなかから呻き声がきこえてきてさ。驚いて、みんなテントに 行ったんだよ。そしたらかさねのやつが襟元つかんで転がり回っててさ」 「・・・・」 「おれがかさねをおさえつけて、頬を2,3発叩いたんだよ。そしたらあいつやっと目 さましてさ、おしかけた連中の尋常じゃない様子をみて、きょとんとして『なんかあっ たの?』って。その夜はかさねのあっけらかんとした声で、ああ、単に夢見が悪かった んだなってことで終わったんだけど、次の日の朝・・」 「あさ?」 史生は身体をおこした。 「かさねの首にくっきりと赤い手形!それもひとつふたつなんかじゃない、ほっそりと した指やら子供のものとしか考えられないようなちいさな手とか。それでもうまわりは パニック状態」 「・・・・・」 「あとで気づいたんだけど、その場所、むかし『天奏』の殿様が戦で女子供を惨殺した 場所だったんだよね」 「・・そんなことがあって、どうしてあいつ化物の存在を否定するんだろうな?」 「かさねが言うには、家をでればこんなことしょっちゅうだって。きっとここの空気が 身体にあわなかったんだろうって」 「すっげー理屈」 「んで、キャンプは急遽中止」 「当然だ!」 「当のかさねは『どうして、どうして』って抗議してたけど」 「・・・」 すっごい根性だよあいつ、と聡貴はけらけらわらった。 「そうだ、話はかわるけど史郎さんの夢みたっていってただろ」 「ああ」 「じゃあ、今日の運転手はきっと史郎さんなんだよ」 「運転手?」 「あいつおぼっちゃまだからね。車で送りむかえする専属の運転手さんがいるんだよ。 ホラ、昨日もむかえにきてただろ?」 「あれ、いつもなわけ?」 「学校の送りむかえ以外はね。で、時々史郎さんが運転手代行することもあるわけだ」 「げっ!」 ざざっと史生の顔にタテ線がはいった。
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