連載 #3391の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
キッドは、少なからず、意外に思っていた。ルイコウの旧友と聞いて、全く 意識せずに、男を想像していたのだ。 「パトリ、久しぶりだ」 「ルイコウこそ。どうしてここへ? もう山に篭ったまま、出てこないと思っ ていたのに」 「とにかく、紹介をさせてほしい。この小さな子はエア。私の向こうでの暮し を、色々と助けてくれているんだ」 「ルイコウ先生は私がいないと、ろくにご飯も食べないんだよ」 「そうよね。私、パトリシアよ。よろしくね」 パトリシアはかがみ込み、目を輝かせるようにして、エアの顔をのぞき込ん だ。よく見ると、パトリシアの瞳は緑色がかっている。 「こちらはレジュンさん。呪い師のお孫さんで、私としては、どこか高貴な出 だと見ているんだが……」 「また、ルイコウさん。そんなことないんですったら。……あ、レジュンです」 「よろしく。ルイコウの観相は趣味みたいなものだから、気にすることないわ。 女心を引こうと思って言ってるの。と、これは冗談だけれど」 「パトリにはかなわないよ。さあ、最後になったが、この青年はキッド。アス ミの生き残りだ」 「アスミの?」 パトリシアは、まっすぐにキッドを見つめた。ルイコウは、その横から付け 加えた。 「そして、打倒ウェルダンを掲げている」 「そうか。飲み込めたわ。ルイコウもやる気になってるんだ?」 「そう。いつでも力になってくれると、昔、言ってくれたのを思い出してね」 「もちろん、歓迎するよ! すぐにみんなに伝えなきゃね」 そうしてキッドらは、パトリシアの先導で、湖のほとりにある集落に向かっ た。やや大きめの小屋というか家が、四つかたまって建っている。ほとりに多 く生える水草を材料に、粘着質の土で固めた物らしい。 湖畔のこの集落の長と名乗ったレイクスは、ルイコウとの再会をえらく喜ん だ。はた目には髭を生やした顔のせいか、相当の年のように見えたが、本当は まだ四十過ぎだと言う。 「この若いのが、アスミの……」 ルイコウによるキッドらの紹介の後、やはり緑の瞳のレイクスは、キッドを じっと見据えた。 「どうかお願いします。力を貸して下さい」 「ふむ」 頭を下げ、また上げたキッドをさらに見据えるレイクス。 「わしは他人を見る目はあるつもりだ。おまえさんは、信頼できよう」 「ありがとう!」 キッドはしっかりと、相手の両手を握った。自然と笑みがこぼれる。 「よかった……」 そうレジュンがつぶやいた瞬間、片隅で大きな声が上がった。 「待ってくれ!」 声の方を見ると、がっしりとした身体つきの男が立ち上がっていた。逆だつ ような髪が、気性の方も表しているかもしれない。 「イグル、何だ」 「俺はルイコウに協力することには、何の異議もない。だが、話を聞いている と、そのキッドとかいうのを大将に、事を起こそうとしているらしいな。そい つに将としての器があるかどうか、はっきりしなければ、協力したくないね」 イグルと呼ばれた男は、一気に巻くし立てた。これに、レイクスが反論する。 「わしが、その器を見極めたでないか。信用できないか、わしの目が」 「長が見たのは、心の部分。俺が問いたいのは、そいつの武将としての実力さ。 俺より弱い奴を、大将として認められない。そこまでは、見抜けるはずもない だろう?」 「わかった」 イグルの言葉を取ったのは、ルイコウであった。 「キッド。どうします?」 「自分が絶対に将でなければいけないとは思っていない。だが、ユークに対す る責任もあるし、ノックスからはレジュンを頼まれているし、ルイコウ、あな たからの期待もあるしね。受けて立とう」 「よく言ったな!」 聞こえていたらしく、イグルのうなり声が響いた。 「勝負はどうやる? 真剣でいくかな?」 「いや。大切な仲間を、無為に傷つけてもしょうがない。刃のない刀で願いた いね。本当は弓が得意なんだが」 キッドは、静かに立ち上がり、静かに言った。 「ふん、臆病者が」 イグルは立ち上がり、外に出た。キッドも続く。 勝負は、この集落にある同じ型の無刃刀を用い、相手の急所を攻め切ったと 見なせる体勢に持ち込めば価値、ということになった。刃がない刀とは言え、 叩きつけられると大怪我をする可能性も高い。 イグルは、昼過ぎの太陽の光を目に受けぬよう、湖を前にして立った。当然、 キッドは湖を背にして立つことになる。 「始めぃ!」 レイクスの声を合図に、勝負開始となる。風はない。 イグルは様子を見るつもりで右手に一歩踏み出したが、キッドはそれにつき 合う気はないらしく、元の場所から動こうとしない。 (何だ、こいつ? 光を受けて不利なはずなのに、どうして動かないんだ? 普通なら、動いて少しでも有利な位置に持っていこうとするはず……) イグルは、理解に苦しんだ。 (こいつ、まさか、本当に素人か?) 「どうした!」 考え悩んでいたイグルに、キッドのそんな声が届いた。 「このっ!」 カッときて、イグルはまっすぐにキッドに向かって行った。間合いを詰めら れまいとしてか、キッドの方は下がる。 「逃げるな!」 さらに追うイグル。キッドはさらに下がった。徐々に湖が近付いてくる。 (間合いを詰めさせないのは当然だが、湖を背にしておきながら、ここまで大 胆に一直線に下がるか? やはり素人だ。あっても、道場での技術だけだ) イグルはそう判断すると、一気に決着をとばかり、足を早めた。キッドはそ れにタイミングを合わせ損なったか、見る間に間合いを詰められつつある。 「もらった!」 イグルは叫ぶと同時に、刀を振り降ろした。 が、キッドの姿はそこになく、剣先は湖の浜に突き刺さった。 (何? 早い!) 身をかわしたキッドの姿を認めると、イグルは刀を土から引き抜いて、再度 の一太刀を浴びせんと試みたが、そうはならなかった。 (ぬ? 刀が抜けない?) そこへキッドの刀が降ろされた。思わず身を固くしたイグルだが、衝撃は身 体に走らなかった。相手の剣先は、自分のうなじにとまった虫のようだった。 「それまで!」 レイクスの止めの声。歓声ともため息ともつかぬ音が広がった。 イグルはキッドを見、それから自分の刀の先を見た。 (これは……) 刀は粘土状の泥と水草のおかげで、絡み取られてしまっていた。 「知っていて、あんな下がり方をしたのか?」 再びキッドに視線を移したイグルは、ゆっくりと聞いた。 「ああ。これが一番、手っとり早いと思った。湖を最初に見たときに、何気な しに見ていたのが役に立ったよ。それだけ、この湖がきれいだって事かな」 「ふっ」 息を漏らすと、イグルはキッドの力を認めた。片手を差し出す。 「負けたよ、キッド将軍」 「将軍なんてのは、まだ早すぎる」 イグルの右手を握り返してきたキッドは、そんなことを言って嬉しそうにう なずいた。 「暇がほしいだと?」 「お願い致します。ドグマ様」 目の前で頭を下げているユークを見おろしながら、ドグマは考えていた。 命を受けた後、すぐにしとめたものの、ここまで運ぶに時間がかかったとか で、腐りかけの首を持って帰ったかと思うと、今度は休みがほしいとはな。ど うしたものかな。確かに、ユークの奴は命令をすぐに遂行したようだしな、こ こで上に立つ者としての器量を見せても、構うまい。 ただ、ユークの力を我が軍に常に置いておくのも魅力だ。こいつの力は、今 度の計画にも役立つかもしれんしな。 だが、巡行の折にあまり個人の兵を連れて行けまいしな。下手すると、ワイ リ王の反感を買ってしまいかねん。そもそも、ユークは今はドグマの部下のよ うに扱えているが、本来はワイリ王の軍に直属という扱いとなっている。ユー クの一族を田舎に押し込めているのも、ワイリ王の軍の一部がやっていること だ。ここは一つ……。 「よかろう。今度、俺は王の巡行の共をする。おまえの功績に免じ、その間だ け暇を取ること、許可しよう。せいぜい、身内の者と会ってくるんだな」 「はっ。ありがたくお受けします」 ユークは今一度、頭を深く下げた後、退去した。 ドグマはそれを見届けると、また巡行での計画に思考が移った。 荒くれ者の連中を、どうにかしておかないとな。どうやって使いこなせばい いものか……。 「何の騒ぎなんだ、これは?」 エチーニは、黒山の人だかりの端にいる人間をつかまえ、尋ねた。きこり仲 間だから、気軽に聞ける。 「あの大木の中程に掲げてある的を、用意した槍で貫けたら、千キノくれるっ て、あの人が言ってるんだ」 聞かれた方は、切株に腰掛けて、見守る様子の小柄な−−きこりと比べると −−な男を指さした。 「千キノだと? それだけありゃあ、当分、遊んで暮らせるぜ。誰かできたの はいるのか?」 「いないから、盛り上がってんだよ。お、オオンがやるぜ」 エチーニは顔見知りのオオンの姿を見つけた。オオンは、粗い金属製の槍を 手に取ると、それを肩に担いだ。狙いを着けているのは、五十エテムは先にあ る木に掛けられた小さな的。いや、ここからだと小さく見えるだけかもしれな い。 「おりゃあー!」 かけ声と共に、オオンは槍を持った腕を、思い切りしならせた。槍は一直線 に飛び立った。 「行けーっ! 行くんだ!」 歓声が飛ぶ。だが、それも空しく、的に達する前に、槍は地面に落ちてしま った。 「あててて……。腕、筋がどうかしちまった」 「残念でしたね」 オオンに話しかけた男の声には、嘲笑めいたものがあった。 「おい、あんた。俺がやってもかまわねえか」 「どなたでも結構ですよ」 エチーニの言葉に、男はあっさりとうなずいた。 「ようし、やってやろうじゃないか。槍をよこしな」 黙ってエチーニに槍を渡す男。 「お、こいつは重い。いくらぐらいあるんだい?」 「ちょうど四十オリックマーグあります」 「若い女一人分ぐらいあるのか。変な槍を作ったもんだ」 ぐっと力を込め、槍を持ち上げたエチーニは、的に狙いを定めようとしたが、 そのままでは槍の重さに耐えられそうになく、その先を一旦、地面に着けた。 「よう、やっちまえ、エチーニ!」 歓声が飛ぶ中、狙いを着けたエチーニは、槍を持ち直すと、一気にそれを投 げた。 BLUUUUN! 槍は音を立てて飛んで行き、的に当たった。が、それはまさに当たっただけ で、的を貫通するには至らなかった。 「ああー、惜しい」 ため息が野次馬から漏れてくる。 「おい、当たったぜ。それなのに刺さらんとは」 「的に当たる瞬間も、それなりの勢いがないとだめですよ」 「よし、もう一度だ」 と、エチーニは再度、槍を手にし、挑戦する。狙いは先ほどと同じでいいの だから、今度は力をもっと入れないと……。 エチーニは、思い切り、槍を放り投げた。だが、今度は的に達するまでに地 面に槍先が突き刺さってしまった。 「あちゃー。力、入れすぎたか」 「だめでしたね」 「よう、槍が重すぎるぜ。もっと軽い槍なら、的に命中させられんだが」 「これより軽ければ、当たっても、的を破壊するのは無理です」 「だったら、もう少し、近くから投げさせろや。こんな距離じゃ、普通なら当 てるのもつらいんだぜ」 「私の決めた距離ですから、守ってもらわないと」 「あのな! 誰もできるはずないと思って、俺達をからかってんじゃないだろ うな?」 エチーニが叫んだそのとき、後方から新たな声がかかった。 「あのう、僕にやらせてくれんか」 −つづく−
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