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第二章 見えざる手 1 西暦二0二三年一0月 アーノルド ウェルスは軍事産業界の若き指導者として の地位を確保しつつあった。現在、三十五歳の彼は大学時代に現代史を学んだ。そ して、彼はその知識を活かして兵器の販売実績を着実に伸ばしてきた。彼は、軍事 産業界の動向を完全に把握していた。彼の言うとおりにすれば売買契約は確実とい うジンクスとも神話ともいえる噂が鳴り響いていたのだ。そして、軍事産業界での 彼の人気は急速に高まっていた。軍事産業界の動きがウェルスに傾いたのは、彼の 背後にある力が働いていた。この事はウェルスとその背後の人物しか知らなかった。 ウェルスの構想は過去の兵器の拡販手法を捨て、合法的な拡販方法を提案する事 であった。過去の兵器販売は表では国内紛争の政府軍に兵器を売り、裏では反政府 勢力に武器を売っていた。またある時は裏表が逆転したりもしたが…。しかし、新 しい拡販方法もそれとは大きくは異なっていなかった。その表の販売対象は国連軍 であり、裏の販売対象は紛争当自国であった。自らの作った兵器で自らの作った兵 器を破壊する。軍事産業界のその思想は昔も今も大きくは変わっていなかった。 国連軍は従前の高額な兵器から安価でありながら現状の兵器に十分対抗できる兵 器の新規開発を依頼してきた。初めは兵器の低価格化は従来の兵器を改造する事無 しにダンピングという形で進められたが、それでも低価格化は十分ではなく根本か ら設計を変更しなければならなかった。そして、国連軍は兵器名のコード体系も従 前のアメリカ国防省方式の採用をやめて、独自のコード体系で表記するように標準 化基準を定めた。これは同時に全世界共通のコード体系となり、ここに初めて兵器 の標準化が行われる事になった。 その兵器の標準化の影響を受けて軍事産業界は標準化賛成組と反対組に分裂した。 両者は対立し、互いの兵器の弱点を狙った兵器を開発し、互いをつぶし合った。当 然、標準化組は国連軍に、反標準化組は紛争当時国に兵器を売却する構図になる。 しかし、標準化した事が裏目となった。国連軍の兵器が弱点を握られた兵器と相対 する事になった時、ことごとく壊滅状態になった。これもウェルスの意図であった とも言えるが、度重なる軍事企業の統廃合で二つの大きな軍事企業体が生まれてい た。標準化組はウェルスが直接的に経営し、反標準化組もウェルスが間接的に運営 していた。たとえ、兵器の弱点の問題があっても売れている限り彼の地位は安泰で あり、また、彼を企業体代表の地位から引きずり下ろす力を持った人物はいなかっ た。 ウェルスは更なる企業体の発展の行場を宇宙へ求めた。地球の衛星軌道上では二 0二二年にプラント2が完成し、プラント3の建設が始まっていた。 二〇二三年十月十五日、ウェルスは宇宙兵器実験プラントとしてプラント4、プ ラント5そして月面プラントの建設を発表した。ついに、実兵器の宇宙への展開が 始まった。 2 二〇二三年十月五日、二人の男が、人目を避けバーの奥の方で静かに語り合って いた。その内の一人はシムス大統領補佐官であった。 「マードック、何をいっとるんだ!そんなことはできん。何を根拠に…」 マードックとシムスは幼なじみである。現在、マードックは陸軍の参謀となって いる。これまで、シムスとマードックは緊密に情報をやりとりしつつお互いに現在 の地位を築いてきた。お互いに利用し合ってきたそしてこれからもずっと…。 「我々の調査の結果、ジャックは新興宗教との関係が切れていなかった。奴は新 興宗教のリーダーのベルナルド スミスの指示で動いていた。スミスは…」 「それだけでは奴らのアジトに乗り込むことはできん。証拠はあるのか」 「証拠?有る。しかし、それでは手続きに時間がかかりすぎる」 「ではどうするのだ」 「奴らは武器を多量に蓄積している。これを排除することを口実に陸軍を派遣す る。これなら簡単で、確実で、早い。すべて我々に任せてくれれば大丈夫」 「武器があるという証拠はあるのか?」 「これが衛星写真だ。ここに見えるのが装甲車両で、そして、これは武器庫、明 らかに火薬類の爆発物を保管するように作られている。回りの盛り土がその証拠だ」 「なるほど、解った。しかし、陸軍の派遣はダメだ。警察に任せよう」 「手ぬるい」 「何をいっても無駄だ」 「警察で手に負えなくなったときには、かなりの死者がでているぞ」 「大統領をそんなことで説得できるか」 「変わったな。前の大統領の時はそんなことは言わなかった筈だ。今の大統領が そんなに大事か」 「今度失敗したら私も無事では済むまい。だからこそ強引な真似は出来ないのだ」 新興宗教は武装集団化しており、独自のコロニーを形成していた。抑圧には強固 な抵抗を持って迎えるようにスミスは教徒を洗脳していた。見渡す限りのっぱらの 中の五キロ四方の敷地のほぼ中央には高さ二メートルほどの壁に囲まれた宗教本部 がある。そして、本部には百人程度の人々が自給自足の生活をしていた。 十月十二日、州警察が敷地内に踏み込んだ。この教団が多量の武器を所持してい ると言う情報を得ていた。家宅捜索はこの情報の確認と言う名目であった。パトカ ーがゆっくりと敷地内に入った。一00メートルほど進んだ所でパトカーが銃撃さ れた。九ミリ機関銃であろう、パトカーの左側のボンネットに着弾痕が這い上がっ てきたかと思うとフロントガラスが真っ白になり助手席の警官から赤い血煙が上が った。運転席の警官はフロントガラスを払いのけると、車を一八0度方向転換させ て、フル・アクセルで敷地外に逃げ出した。 警官隊と狙撃隊からなる三0人ほどの部隊がパトカー五台と兵員輸送車両二台に 乗って、教団の敷地内に乗り込んだ。教団本部の壁の外の七台が並び壁をはさんで 銃を構え合った。 「門を開けて、出て来るんだ」 「我々は何もしていない」 「馬鹿な事はやめて出て来るんだ!」 ド・ド・ド・ド 壁の内側から銃弾が飛んできた。それは、銃撃戦の口火となっていた。完全武装 で城壁に守られた教団と小銃とライフル銃しか持たない警官隊では銃撃戦の結果は 明かである。パトカー二台が爆発炎上し、警官はちりぢりになって逃げだした。警 官隊側には一0人の死者が出ていた。教団側は負傷したものが一人いただけで殆ど 無傷であった。そして、マスコミに対して教団は繰り返し「我々は何もしていない」 と電話で主張していた。 警官隊の悲惨な実態がマスコミによって全国民に報じられると、強行突破を主張 するものが現れた。 そして、周囲の圧力に押し切られる形でラルフ ローガン大統領は軍の出動を決 定した。このとき、シムスは軍の出動は止めるようにと大統領に進言した。この事 は大統領の発表の時にもつけ加えられシムスは一時非難を浴びる事になった。 十月十五日、大統領が軍の出動要請を発表したと同時に緊急展開部隊が教団本部 の敷地を取り囲み、ここでの治安維持行為の主導権は警察から軍に移った。こんな に早く軍の出動が完了したのはマードックが緊急展開作戦を警察が銃撃を受ける二 週間も前に準備されていたからに他ならない。 電話回線は軍が封鎖した。教団の外界への情報伝達手段は肉声のみで、マスコミ への発表の手段は断たれたのだ。 教団本部が軍に包囲されたのちもスミスは「我々は何もしていない」と繰り返し 発表するだけであった。警官銃撃の事実は否定しようがなかった。少なくとも最初 の一発を打ったのは我々ではないとスミスは主張した。 教団本部のビル内には非武装の教徒が一三四人そのうち二六人は一0歳以下の子 供であった。教団の指導者と武装したものは合わせて二四人いた。 完全武装の教徒に対抗して軍は三両のM1エイブラム戦車、そして二両のM2ブラッ ドレイ歩兵戦車が、さらに本部内制圧のため五両のM113装甲兵員輸送車が教団コロ ニーの敷地周囲を取り囲んでいた。 一週間、散発的な銃撃があったもののそれ以上には発展せず、緊張状態は保たれ ていた。 十月二十五日、そこに事件解決策としてベルナルド スミスはこのマスコミにこ の事件の詳細を発表するから本部内にテレビで人気の女性レポータと中継車両をい れるように要請した。軍はこれを利用し本部内に進入するという絶好の機会を得た。 レポーターと中継車両が本部の敷地内にはいると再び門は閉められた。中継車両 に潜んでいた二人の特殊工作班が教団内部の自家発電装置を破壊した。工作員の二 人は内部の様子を調査しようと本部ビルに近づいたとき武装教徒に発見され二人と も射殺されてしまった。怒ったスミスはすぐ発表をするためレポーターと二人のス タッフに準備させた。しかし、中継車両の設備が破壊されており、中継できない事 が解ると激怒しスタッフの一人を射殺した。 「すぐに中継車両をよこせ!今度放送機器が破壊されていたらレポーターもこい つも殺す!」 「やめろ…!」兵士が叫ぶ。 「今しかない、突入だ! クソー、こんな時、空挺部隊が使えれば…」 マードックは戦闘車両を前に兵員輸送車両を後ろにして門を突き破って突入する ことを命令した。 「何をする気だ。こいつらを殺すぞ!」 この声は、戦闘車両のエンジン音にかき消されマードックの耳には届かなかった。 城壁を破ってM1戦車が突入してきた。その先頭の戦車にめがけて教団本部ビルか ら対戦車ミサイルが発射された。ほぼ同時に戦車も砲撃を始めた。ミサイルは戦車 の砲頭の右側面で爆発した。戦車は殆ど無傷で砲撃は続いた。ビルは穴だらけにな って、壁は崩れるかと思われるほどひどいダメージを受けた。城壁の内側に一0両 の戦車と装甲車が入り、装甲兵が本部ビルへと走る。ミサイルがさらに五発発射さ れてM1戦車一両と二両のブラッドレイ、M113が一両火の玉となった。 次の瞬間、装甲車両とは別の場所で爆発が起こった。爆発したブラッドレイに積 載していたTOWミサイルが空を舞って火薬庫に落ちたように見えた。爆風が教団本 部と装甲兵を襲った。炎が黒煙を伴って上昇した。火薬庫内の兵器、火薬が次々と 誘爆していった。地上には爆発で吹き飛ばされた弾薬が降り注ぎ、落下した場所で 爆発炎上した。教団本部は火の海と化した。M1戦車二両は爆発に巻き込まれるのを 避けて城壁の外に逃げだした。しかし、兵員の戻ってこないM113車両二両はその場 で爆発に巻き込まれた。その他の二両のM113は何とか火の海から逃げ出せたものの 装甲車両の中では腹部から内臓が飛び出した兵士がうなっていた。教団本部の建物 は全壊し全て灰になってしまった。 軍の強行突破は、悲惨な結末を招いた。新興宗教の本拠は全滅した教徒の死者は 一00人を越え兵士の死者も二桁を上回った。教団の指導者は全員死亡した。太陽 光発電衛星の事件の裏を知るものは誰も生き残っていなかった。 新興宗教は本部は全滅した。しかし、まだスミス教団には支局が残っていた。反 撃のため数人の残党が暴走し始めていた。 シムスは太陽光発電衛星破壊事件の解決への糸口を失ってしまったため、彼の周 辺には重苦しい空気が漂っていた。 「なんで、そこまでしなきゃならんのだ。幹部は一人も生き残っていないとは…。 マードック…」 そこに大統領が姿を現した。 「補佐官、君の言うとおりだったな。もっと状況を教えてくれなくては困るよ」 「いまさら…」 「例の事件の関係者だったそうじゃないか」 「はっきりとした証拠は何もないのです。そういえば軍の派遣はやめましたか?」 「……」 大統領は答える事が出来なかった。
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