連載 #3155の修正
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『テデウムも気持ち悪いですよ。これは宗教曲なのに、ソプラノ のジェシー=ノーマンが、ねっちょりとこぶしをきかせたみたいな ハナ持ちならない声を出していて、とても気持ちが悪い。こんなも の聴けたものではありません』 店長は、僕の指摘を我慢して聴いている様子でしたが、憤然とし た口調でこう言いました。 『分かりました。では、そのCDを売値で買い取らせていただき ます』 そう譲歩を示したのだが、僕は直ちに拒否した。 『いやです。中古CDとしてたたき売りたいのです。同じ値段で 引きとって欲しくありません。こんな気持ちが悪い演奏を録音した CDを同じ値段で売るつもりはありません』 どこまでもねじくれものになるのだ。期待に打ちふるえてCDプ レーヤーに乗せた昨日の興奮の直後に訪れた失望。あれを思い出し ながら、とことん心は、ねじくれている。 今度は店長が怒る番だった。 『引き取るというのですから、引き取らせてください。私が聴き ます。ほんとうにくだらない演奏かどうか。私が自分で聴いてみま すよ。ふだんこの人の曲はあまり聴いたことがないから、あなたの ようにはわからないでしょう。ですが、私も他の作曲家なら、けっ こう聴いてきているんです』 『そりゃあ、もう。私だって録音されている演奏のよしあしは、 分かると思います。この人の曲は確かに聴いたことは少ないですよ。 有名な交響曲4番くらいしか、知りません。9番も少しは聴いたこ とがありますかね。0番をシャイーのやつで試聴したことはありま す。まあ、それくらいですよ。あなたにはかなわないでしょう。で もね、私だって、いい、悪い、そのくらいの区別はつきます。聴い てみようじゃありませんか。一晩時間をください』 『それで、あなたがおすすめのCDと聴き比べてみますよ。ほん とうにこれがだめな曲なのか。店にあるCDの中から、あなた推薦 盤を選んでくださいよ。私自費で買いますから。さあ、選んでくだ さい』 今度は逆に詰め寄られて困ってしまった。しかし、選べないとあ っては名おれである。イチャモンをつけた意味がない。殊勝にも、 店長は、聴き比べをしてやるというのだ。 店内を捜した。毎日のように来ているのでどこに何があるかは、 すぐに分かる。ただし、この作曲家についてだけなのだが。 『いいでしょう。今店にあるものの中で推薦盤を選んで差し上げ ましょう』 とはいうもののテデウムは、それだけで録音されている場合はほ とんどなく、別の交響曲などとカップリングされていることが大半 である。 本命はヨッフム指揮のバイエルン放送交饗楽団=合唱団のやつな のだが、これは4枚組CDの一つなので、これを推薦するとなると、 税込み9394円も出費させねばならない。いくらなんでも気の毒 である。 朝比奈隆指揮の東京交饗楽団=コーラスでもよいが、ここはひと つ本場モノでなければならない。とすると、これしかない。交響曲 5番とのカップリングなのが、うれしいではないか。むきになった 店長よ。対位法の巨大交響曲の真髄もついでに学べ!とばかりに、 ハイティンク指揮のウイーンフィル=バイエルン放送合唱団。ソプ ラノはカリタ=マッテイラ。これにしよう。 『5000円ですが、いいですか。自分のお店の商品だから、試 聴ということにして一晩借りて聴けばいいでしょうに』 しかし店長は『そんなことができますか!』と激怒してみせ、そ の勢いでそばの女子店員に『これ、私が買うので包装してくれ』と 直ちに命じたのでした。 (以下次回)
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