短編 #1324の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
この掌編は月刊ノベルで青木さんの「停電」を読んでから書いた物です。 つい続きを考えてしまい、それを文章にしてみました。 * 「おお、やっと出られたぞ」 うれしそうにいうそいつの顔が、焦点のずれた懐中電灯に照らされた。光がもっと 収束されれば、レーザー光線になって、懐中電灯の魔神を打ち抜いてくれるのに…… なんて口を開けた状態でおれは考えた。 魔神は背を向けたまま体を奇妙にくねらせている。 「なんだこれは」 思わずつぶやいた。 「これ、とは何よ、これとは。失礼な人ね」 それは、そういった。身長は懐中電灯と同じくらい。 「電池ぐらいまめに交換してよね」と、それがいう。薄衣をまとったそれは、場末の キャバレーの踊り子と印象が一致する。尻からひょろりとのびたしっぽの先端が矢印 型でなかったら、という条件付きだが。 「なんだこれは」 おれはもう一度口にした。 そいつは顔をしかめて、「しつこいわね」とつぶやき、微苦笑を浮かべた。思わず 吸い込まれそうになり、おれは頭を軽く振った。 「わたしは懐中電灯の女神よ」 「めがみ〜?」 「そうよ」そいつは得意げに胸をそらした。小さいプリンが二つ揺れる……そんな幻 想にとらわれ、おれは頭を大きく振った。 「そんなもん、きいたこともねえ」 「莫迦ねえ、ろうそくの魔神なら知っているでしょう?」 「……」 「知ってるでしょう?」 「知りたくなかったけど、知ってる……」 「だったら懐中電灯の女神だっているに決まってるじゃない」 自信たっぷりにいうそいつを見て、そういえばろうそくの魔神が出てきたときと展 開が同一であることに、やっと気がついた。 もしかして、おれって間抜け? 考えるほどに腹が立つ。 だんだんと自分の声も大きくなっていった。 「納得できない。ろうそくなら滅多に点けることもないが、懐中電灯は世界中で夜な夜 な灯してるはずだ。急におれのところに現れるとは筋がとおらん!」 「ほんと、莫迦ねえ」 呆れたようにそいつは肩をすくめた。 「ランプがたくさんあったって、それぞれにランプの魔神が住み着いてると思う? ろうそくだって同じ事。懐中電灯なら、なおさら。もともと魔神っていうのは絶滅種 みたいものなの、分かる? 希少種っていえば分かるかな? あなた頭悪いわね」 腰に手をあて、そいつがのたまう。 「だいたい物事は考えてから口にするべきであって、あなたみたいに浮かんだそばか ら喋るようでは、世知辛い世の中を渡っていけっこないわよ」 なんでおれが説教を受けねばならないのだ。 理不尽だ。 「ほら、すぐぶす〜っとする。刹那で顔に出すのがあなたの悪いところよね。仏教で は顔施っていうの、あなた徳が無いわよ。あはっ。徳がないから地獄行き〜」 甲高い声が耳障りだ。 「やかましい。いちいち細かいことを気にするやつめ。うざいんだよ! その話題は もう終わり。終わりったら終わり。絶対に終わり!!」 けんまくに押されたのか、そいつは黙り込んだ。空白の時が流れ、おれは半ば憮然 としながら問いかけた。 「で、なにしに出てきたんだよ。最初にいっておくが火事はお断りだ」 「よくぞきいてくれたぁ」 きかなければよかった。 そいつは軽く身体を弾ませながら「懐中電灯といえば明かり、明かりといえば明る い、明るいと言えば陽気、リストラにあって職をやむなく離れたあなたを明るくする のが私のつとめ、具体的には、この踊りで……」 おれは懐中電灯のスライドスイッチをオフにした。安全のため裏蓋を外して電池を 抜き、床の上に投げ捨てた。液漏れをおこしたのか指先にぬめりを感じる。 停電はまだとけない。星明かりを頼りに、おれは燃えないゴミの日にだす袋をめが けて懐中電灯を放り投げた。空き缶にぶつかる音が聞こえてから、洗面所に行きカラ ンを回した。冷たい感触が全てを洗い流してくれる……それが錯覚だと気がつくのに 時計は必要なかった。 街灯に明かりはないのに、外がやけに明るかった。窓辺からいやにあごの尖った男 がこちらを見ている。そういえば、今日は三日月だった。 そいつがにやっと笑ったので、おれはカーテンを閉めた。 −了− (代理アップ by ミヤザキ(ジョッシュ改め))
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