短編 #1089の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
投げ出すように学会誌を実験台においたひょうしに、台の隅にあった薬さじがはじき とばされた。床に落ちて硬質な音をたてるとさじはどこかへ行ってしまった。 仕方なく、僕はほこりっぽい床にかがみこんで、実験台の下へ手をのばした。手探り をしているうちに探していたものとは違う何かにつきあたった。どうやら木の箱のよう だ。 ずるずると引きずり出してみる。持ち上げると異様に重い。華奢なとってのついた救 急箱のような箱だ。実験台の上にのせ、さびた掛けがねをはずし、そっとふたを開けた 。 彼女が僕の前に立つ。彼女の左手の小指にはサファイヤとプラチナの指輪。9月生ま れの彼女に、爛熟した夏の終わりのバラ園で贈ったあの指輪。 「まだ後悔していないの?」 彼女をおいてプライドの牢獄に入ったのは僕。見える彼女を捨てて見えないものを探し にでかけたのは確かに僕だから。 「後悔?していないさ、もちろん」 「そう、それならいいの」 彼女は指輪を僕に投げつけた。僕の目の前でサファイヤが砕け散り、プラチナは輝く銀 色の滴となって飛び散った。無機質なきらめきの中で、全てが暗転した。闇に沈み込み ながら、僕は泣いていたような気がする。 目をあけると実験室とよく似た病院のベッドの上にいた。起きあがろうとして、横に 同僚がいることに気が付いた。 「忘れ物をとりにきたら、おまえがぶっ倒れていた。何故かしらないが水銀のビンが割 れていて、あたりにコロコロ中身が散らばってて・・・」 医者は何も問題がないようだと言っていたらしい。どうやら実験のミスでよくない気体 が発生したようだった。「僕を見つけた時、バラの匂いとかしていなかったか」 「バラの匂い?何も感じなかったけど」 病院の白い漆喰壁を見ながら、僕はバラの香りに包まれたうたかたの面影を思い出す。 初投稿です。宜しく御願いします
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