短編 #0981の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「街が見えてきたわね」 隣でリカがいった。おれはランドクルーザーのスピードを少しあげる。 「ありがたいな。ガソリンがなんとか持ちそうだ。それに食料も補給できるかもし れない」 山間を抜ける道の向こうにぽつりぽつりと民家が見える。さびれた小さな街だ。 しかし、ガソリンスタンドくらいはあるだろう。 おれがハンドルを握るランドクルーザーはその街に入った。スピードを落とす。 かろうじてガソリンは残っている。 おれはリカに声をかけた。 「たのむぜ」 「OK」 リカは後ろのシートからレミントンのポンプアクション式ショットガンを取り出 す。リカはナビゲーターシートに立ち上がるとサンルーフから上半身を出してショ ットガンを構えた。 夕暮れが近いその小さな街に、やつらの影はない。しかし、やつらは大抵ものか げに隠れこちらを伺っている。 ガソリンスタンドが見つかった。無人式のやつだ。おれはゆっくりとそのスタン ドにランドクルーザーをいれ、車を止める。エンジンはかけたままだ。おれはベル トにS&WのM19を差し込むと左手に日本刀、右手にポリタンクを持ってランド クルーザーから降りる。 おれは車に給油を始める。車が満タンになりポリタンクにもようやくガソリンが 満たされつつあるとき、リカがおれに声をかけた。 「アキラ、やつらよ」 おれは顔をあげる。夕日に染められた道路に、長い影を落としてやつらが近づい てきている。おれはリカに答えた。 「もう少しだ。やつらの足をとめてくれ」 リカはうなづく。やつらはどんどん数が増えてゆく。2、30人ほどだろうか。 やつらとはゾンビのことだ。 ゾンビといっても映画に出てくるような腐りかけの歩く死体ではない。大抵はち ゃんとした格好をしている。両手をつきだしてのそのそ歩く訳でもない。 やつらはまるでおれたちを歓迎しているように、ゆっくりと近づいてくる。見た 目は平凡な街の市民だ。買い物帰りの主婦や酒屋のおやじ、背広を着たサラリーマ ンにセーラー服の女子高生。 平凡な日常を送っていた市民が、なんの気なく散歩に出たように道を歩いている。 しかし、やつらはまぎれもなく死者だ。おれたちにやつらが死者だと判るように、 やつらもおれたちのことを生者と判るらしい。まるで匂いを嗅ぎ付けたハイエナの ようにいつもやつらは群がってくる。 リカのショットガンが火を噴いた。ダブルオーバック9粒の散弾が背広をきたセ ールスマンふうの男の足を破壊する。 やつらを撃つときは足を狙うのが一番いい。胴を貫通させたりしたら、やつらは 内蔵をひきずりながら近づいてくる。足をとめること。場合によっては顔だ。 リカはショットガンを連射する。リカが銃床をスライドさせるたびにカートリッ ジが道に落ちる。 おさげの女子高生、エプロン姿の主婦が道路を紅く染めて這いつくばる。リカの 撃つ散弾は確実に足を破壊していた。手慣れたものだ。 全弾撃ち尽くしたリカは革のブルゾンのポケットから弾を出して装弾してゆく。 おれはようやく給油を終え、ランドクルーザーの荷台にポリタンクを乗せる。 工務店の作業服を着た兄ちゃんが目の前にきていた。おれはM19をそいつの顔 面にむかって撃つ。357マグナムで被甲されてない弾丸はそいつの顔面を粉砕し た。いわゆるダムダム弾というやつだ。フルメタルジャケットの弾は貫通するので 使えない。 コンビニの制服を着たねえちゃんにつかみかかられる。おれはねえちゃんの顔に M19をつきつけ撃った。すいかを落としたように、顔面がはぜる。 6発使ってしまったリボルバーをベルトに戻した。スピードロッダーがほしいと ころだが、日本でそう簡単に手に入るものではない。 おれは日本刀を抜く。不思議とこのアナクロな武器のほうがおれにはしっくりく る。ただ、手入れは銃より面倒だが。 まるで握手を求めるように近づいてくるポロシャツ姿のおっさんの胴をなぐ。べ たりと上半身が道路に落ち、別の生き物のように腸が道路の上でのたくった。 ようやく装弾を終えたリカがショットガンを撃つ。野良着姿の老夫婦が足を撃た れて地面に倒れる。おれはそばに来た八百屋のおっさんの首を切り落とし、運転席 に乗る。続いてのりこもうとしたワンピースを着た女の子をリカがショットガンで ふっとばす。 おれは日本刀を抜き身のまま後部座席にほうりだし、ギアをバックにぶちこむ。 足を撃たれて蠢いているやつらをランドクルーザーは轢き潰した。それでもすがり つくやつらは、リカがショットガンで顔面をぶちぬく。 おれはしつこく前に出てくるやつらを跳ねとばしながら、スピードをあげた。リ カはナビゲーターシートに腰を降ろし給弾をする。 「やれやれだわ、全く」 「おれの刀についた血脂も拭っておいてくれ。次はスーパーで食い物を補給する」 「OK」 おれたちは街はずれにあったスーパーでもほぼ同じ調子でやつらを退けながら缶 詰のたぐいを入手する。手に入れるものを手に入れたおれたちは街を後にした。 おれは谷間の道を走っていた。リカは疲れたらしく隣で寝息をたてている。もう 何カ月もこんな暮らしをしていた。おれたち以外の生者にはあの時以来あっていな い。あの時とは天使たちが降りてきて喇叭を吹いたあの時のことだ。 あれは1999年の7月だったと思う。天使が空から降りてきた。天使どもは身 長50メートルほどだったろうか。白銀に輝く翼と黄金に煌めく髪をもった天使た ちは、美しく慈悲深い笑みを湛えて高層都市の摩天楼の上からおれたちを見下ろし た。 天使たちは主要な都市にはすべて姿を現した。イスラム教国であろうと仏教国で あろうとみさかいはなかった。ロンドン、パリ、ニューヨーク、トーキョー、モス クワ、その他数えきれない程の都市に天使たちはいた。 テレビではわけの判らない連中がこの現象をむりやり解説しようとしていたが、 誰も連中の言うことを信じてはいなかった。多国籍軍が飛ばしたガンシップが天使 を取り巻き、戒厳令のしかれた地上では、戦車が砲口をむけ、地対空ミサイルの照 準はすべて天使に合わせられていた。 そして天使は喇叭を吹いた。 その時空は黒く渦巻く雲に覆われ地上に嵐が吹き荒れた。その天候の異変ととも にすべての人間に死が訪れた。ただおれたちをのぞいて。 人間が死に絶え、その直後に甦りなぜおれたちだけが生きているのかよく判らな い。おれたち以外にも生きているやつはいたのかもしれない。しかし、多分そうし た連中は死んで甦ったゾンビどもに殺されたに違いない。 ゾンビたちはおれたちを殺そうとしている。なぜかは判らない。 おれはもともと傭兵だった。しかし、冷戦体制の崩壊以降仕事が減ったため、お れは不本意ながらやくざに銃の撃ち方を教えて食いつないでいた。 そのうちにおれが関わっていたやくざの親分が抗争で殺されたため、おれもほと ぼりが冷めるまで山ごもりをすることにした。おれは天使がおりてきてからの一部 始終を山荘のテレビでみた。 天使の降りてきた夏はずぎ去りもう冬である。おれはおれとともに山荘に潜んで いたおれの女、リカと一緒に東京をめざしていた。 東京にいって何がどうなる訳でもないだろう。しかし、おれは真相の一端だけで も知りたかった。一体何がおこったのか。なぜおれたちだけが生きているのか。そ してこれからどうなろうとしているのか。 もしも東京上空に降りてきた天使がまだいるのなら、そいつをこの目で見てみた い。それでどうなるものでもないのだろう。しかし、おれは見たかった。
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