短編 #0958の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
青のさかなが目をとじて、金色の夜がおとづれるとき、ぼくは君に恋をする。 ぼくは、アクア。アクア・フィッシュという名前の、小さな灰色のさかなだ。 ぼくがアクアだって教えてくれたのは、メルフィ。 メルフィは、うすくてひらひらしたヒレをもつ、きれいなあかい「きんぎょ」 だった。 メルフィはとても頭がいい、なかまのうち、一番長生きなのは、「せともの」 のかっぱだけど、メルフィはかっぱよりも頭がいい。それに、とってもきれいだ。 ぼくは、とっても広く見える世界にすんでいる。見えるだけで、じつはとても せまい世界だって、メルフィはそう言っていた。ぼくにはよく分からないけど、 メルフィが言うのならそうなのだろう。 それに、「みずくさ」のソウも、ここはとじこめられた世界だって言っていた。 ソウは、ここにくる前は、もっと広いばしょでいっぱいの仲間がいたって話し てくれた。ぼくといっしょに話を聞いていたメルフィも、前はもっと広いばしょ にいたって言ってた。世界には、ぼくの行ったことがないところが、沢山あるみ たいだ。 あるひ、見えないかべに頭をぶつけたぼくを見て、かっぱが笑った。 「アクアは、いつまでたってもバカな灰色のちびじゃのう」 なんだかぼくは悲しくなって、それをメルフィに言った。 メルフィはすごく優しくぼくの頭をなでて、 「あんたは、そのうちきれいな青いさかなになるわよ、アクア」 って、言ってくれた。 でも、そのあとちょっとあかい体を膨らませるみたいにして、ぼくをじろっと 見た。 「でも、いつまでもバカでいちゃダメなのよ? 自分で、どりょくしないと利口 にはなれないんだから」 メルフィの言うことは時々むずかしい。「どりょく」ってなんだろう、と思っ ていたぼくをひらひらしたヒレがつついた。 「まーた、ボーっとしてる」 「ねえ、メルフィ……どりょくってなあに?」 そう言うと、メルフィは大きな黒いひとみで、ぼくをじーっと見た。 それから、ひょいと体をふるわせて、クスクスと笑いだした。何がおかしいの か、ぼくには分からない。 「あんたって、ホントかわいいおバカさんね、アクア」 そう言ったメルフィがとっても楽しそうだったから、ぼくはよくわからなかっ たけど、つられてにこにこした。 ぼくは、メルフィが笑っているとうれしかった。やわらかなミドリのごはんを 食べて、きれいな水をうごきまわって、メルフィと一緒にいられれば、それだけ で毎日とても楽しかった。でも、メルフィはそうじゃなかった。 ある夜、ソウもかっぱも眠ったのに、ぼくはなぜかメルフィと話していた。 いつもだったら、かっぱよりも早くねちゃうのに、あの夜は、ふしぎと眠たく ならなかった。 暗くなって、紺色になった水の中で、メルフィはいつものようにまっかな体を、 ゆらゆらさせて、とてもきれいだった。とおい世界に、金色のまるい「お月様」 が浮かんでいた。メルフィは、「お月様」を見つめて、小さくため息をついた。 「どうしたの、メルフィ?」 ぼくが聞くと、メルフィは「お月様」を見あげたまま、へんじをしてくれた。 「あたしは、とおい世界に行きたいの」 「……とおい世界に?」 「ここはあんまりせますぎるわ。ちょっと泳いだらすぐに壁にぶつかってしまう んですもの」 「そうかなぁ?」 「あんたはまだ小さいから、そう思わないかもしれないけど、あたしはここにい るのは、もう飽きたの。ここには、昔のことばかり話す「水草」と、「瀬戸物」 のかっぱしかいないんですもの」 「……ぼくは?」 メルフィが、驚いたようにぼくを見た。 ぼくはドキドキしてメルフィを見ていた。もし、メルフィにもうあきたって言 われたら、とても悲しい。でも、メルフィはぼくを見てにこっと笑った。 「あら、あんたは別よ、アクア。あんたはかわいいわ、あんたがいるからあたし、 ここでも何とか我慢してるんですもの。でも、そろそろ限界なの」 「どこかに、行っちゃうの?」 寂しくなってきくと、メルフィはこくんと頷いた。 「あたし、今度「世界への綱」が来たら、つかまってみるわ」 「え?」 世界への綱というのは、時々ぼくたちの世界にはいってくる黄色っぽい、ふし ぎなモノだった。世界の綱が来ると、ぼくはごはんが食べられる。だから、ごは んの綱って言うのが、本当じゃないかなって思ったけど、メルフィは世界と世界 をつないでくれる綱だから、世界への綱でいいのだ、と言っていた。 でも、あの大きな綱につかまるなんて、ぼくは考えただけで怖くなってふるえ てしまった。 「メルフィ、でもぼく怖いよ」 「やあね、行くのはあたしだけ、あんたは行くことないの」 ふるえるぼくにクスクス笑いかけて、メルフィはそう言った。 「ぼくは、つれてってくれないの?」 「あんたはあんまりちっちゃいわ。もう少し、大きくなったら、あたしのあとを 追いかけていらっしゃい……あんたが、きれいな青いさかなになったらね」 そう言ったメルフィの後ろ、金色の大きな「お月様」が、あかいヒレをまるで はねのように輝かせた。メルフィは、お話にきいた「天使様」みたいだな、とぼ くは思った。 それから何日かして、メルフィはいなくなった。 かっぱも水草も、もうメルフィのことを話さない。 ぼくは、いつメルフィがいなくなったのか覚えていない。やっぱり、ぼくはバ カなのかもしれない。メルフィも、ぼくのことをおバカさんてよんでたし。 いつの間にかいなくなったメルフィの夢を、ぼくは今でもみる。 「世界への綱」に、かっぷりとつかまっているメルフィ。 なぜか、その後「世界への綱」は大きくゆれて、メルフィは空を飛ぶ。泳ぐん じゃなくて、ヒレもなんにも動かしていないのに、あかい体が飛んでいく。 ぼくが見えないくらいとおくに飛んでいってしまって、夢はおわる。 でも、夢からさめると気になることが一つだけある。 いつも夢のさいごに聞こえる、「ぺしゃっ」という音。 あの音を聞くたびに、怖くなって目がさめるのはどうしてだろう。メルフィに きいたら教えてくれるかもしれないけど、メルフィはいない。 ぼくはやっぱりバカだから、いつまで考えてもわからないけれど、時々考えて しまう。ぼくはいつになったら、青いさかなになれるんだろう。青いさかなにな ったら、ぼくはメルフィの行った世界に、行けるのだろうか。 青いさかなの見る夢は、あかいきれいなさかなが出てくるのだろうか。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「短編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE