短編 #0858の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ノックの音がした。 先月、心の扉をノックされたときと似たときめきが、美由紀の内で起こる。 「ちょっと待って!」 最後の手直しを終え、三面鏡を閉じると、今度は姿見の前に立つ。前、後ろ と順に見て、しわを取った。 「よし」と満足した笑みを作ってから、小ぶりなハンドバックを掴むと、玄 関へ向かう。白い扉を開けると、同じクラスの佐々健介が立っていた。 「待たせてごめん」 「行こうか」 緩やかな階段を下ると、アスファルト道に青いスポーツカーが寄せてあった。 佐々のエスコートで助手席に収まった美由紀は、胸の高まりを新たにした。 「いつもの通りで?」 「もちろんよ。よろしくねっ」 かなりやかましい音を立てて、車がスタート。大通りに出ると、佐々のハン ドルさばきにより、快調に飛ばす。 「一週間、何してた?」 「特に報告するような……あっ、買い物してたらね、どっかの奥さんが万引き を見つかって、警備員みたいな人に滅茶苦茶注意されてるの、見かけた」 「何だ、それ」 「面白かったのよ。ブランド品のハンカチをくすねるんだけど、そのやり方が。 三枚まとめて見るふりをして、二枚だけ返すの。残った一枚は、紙袋へポイ」 「自分もやろうと思ったとか?」 「ご冗談を。ああ、でも、惜しいことしたわ。見つけたとき、警察に告げ口し てやってたら、謝礼をもらえたかもしれない、なんちゃって」 やがて車は、とある瀟洒なマンションの前に着いた。 「じゃ、ここでな。何時に迎えに来ればいい?」 「ありがと。五時ぐらいかな」 「せいぜい、お楽しみを」 勢いよく去っていく佐々の車を、美由紀は笑顔で手を振り、見送った。 (佐々君に埋め合わせしなきゃ。カムフラージュの彼氏役してくれてんだから) マンションの自動ドアをくぐり抜け、エレベータに乗り、愛する人の部屋を 目指すとき、美由紀のときめきは最高潮に達する。そんな彼女を乗せた箱が、 やがて止まった。扉が開ききるのも待ちきれず、廊下に出ると、七号室に直行。 美由紀はドアの前に立ち、軽く深呼吸をして、表札を見上げた。 (うふふ、待ち遠しかったわ。両方とも免許を持ってないなんて、不便よねぇ) 烏丸春子−−プラスチックのプレートには、そう書き記されていた。 −−Fin.
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