短編 #0680の修正
★タイトルと名前
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お題「雨」 「地におちるもの」 作:ジョッシュ 宇宙のどこにもかしこにもその「ぶーん」という振動音は聞こえました。大きな 爆発でした。宇宙の真っ暗闇の果てのそのまた果てでの出来事のようでした。ぶー んという振動音とともに、小さな塵のような破片が一斉に四方八方に散らばりまし た。小さな塵のように見えましたが、それは無限の宇宙の中での大きさの比較で、 地球に住む私たちの単位に直すと、大体直径1キロメートル程度のものでした。無 数の破片が広い宇宙の静かな空間に、ものすごい速度で飛び散っていきます。それ は私たちの単位になおして、大体毎時1万光年くらいの速度でした。 地球上で最初にその振動音に気づいたのは、日本の明石宇宙観測所でした。宇宙 の彼方から、異様な放射線が地球に降り注ぎ始めていました。明らかな隕石接近の 兆候です。しかし、明石の観測レーダーでは、放射線の異常な増加は観測できまし たが、発生源の隕石そのものは、その影すらも見つけることができません。しかも、 放射線は、振動音のようなノイズを伴っていました。宇宙は真空ですので、私たち 地球に住むものの常識では、振動は伝播されないはずです。しかし、その「ぶーん」 という音は、微かにですが聞き取れました。一体、宇宙の何を震わせているのだろ う。明石観測所の人達は首をひねり、世界各地の宇宙観測所に電子メールで問い合わせ ました。 アメリカのケネディ宇宙センター地下室から、その夜、1機の特殊ジェット飛行 機が夜空に舞い上がりました。アメリカが国家予算で進めているスペースガード計 画の偵察機でした。これは、かつての恐竜絶滅の史実に基づき地球に接近する巨大 隕石を事前に発見し、地球をそして人類を絶滅から救おうという遠大な計画でした。 しかし実体はお寒い限りで、僅かに天体観測器を搭載したこの偵察機を一台を予算 化しただけで、しかも出動も今夜が初めてでした。偵察機は、大気圏上限まで上り、 より乱れの少ないデータを地上の宇宙観測所に送る任務でした。 ところが、離陸して間もなくのメキシコ湾の上空で、この偵察機はアメリカ国防 省のレーダーから忽然と消えてしまいました。国防省はあわてました。確認を取る べく、ヘリコプターを飛ばそうとしているところに、キューバからの暗号文がCI Aから照会されてきました。「領海侵犯の国籍不明機を1機発見。警告するも航路 変更無きため、攻撃許可を申請。」おいおい。国防省は大騒ぎになりました。 翌朝、「ぶーん」という音は、もう、地球上の誰の耳にも届くくらいになりまし た。朝から世界各地の天文台や気象庁、新聞社やテレビ局に問い合わせが殺到しま した。しかし、政府発表もなく、窓口担当者は「分かりません」を繰り返すしかあ りません。世界各地の宇宙観測所は、この「ぶーん」という音の原因を見つけよう と躍起になりました。そして、やっと、イギリスの観測所が隕石らしいものを発見 したとBBCに発表しました。 「直径約1キロメートル、ものすごい速度で地球に接近しており、このままでは、 あと24時間以内に地球に衝突すると思われる。神のご加護を。」BBCのアナウ ンサーは敬虔な顔で最後に「アーメン」といって放送を終えました。 生放送の途中でこの隕石接近のニュースが飛び込んだ日本の午後のワイドショウ のタレントは、上ネタが飛び込んだとほくそ笑みながら、すぐに明石の観測所長に 電話インタビューを申し入れました。いつもの軽薄な口調で「あのお、生放送なん ですが、1キロメートルの直径ならどのくらいの影響があるのでしょうか?」と目 をくりくりさせながら質問しました。「申し上げにくいのですが、その観測データ が正しければ、地球上の生き物は全て、絶望です。」「ええーっ、たった1キロメ ートルですよ?このスタジオから一番近くの駅まで位しかないんですよ(爆笑)。 本当ですかあー。」「残念ながら、本当です。」タレントはフォローの言葉が出て こずに一瞬黙り込みました。「おい、なんてまぬけな間(マ)なんだ。番組を降ろさ れちまうぞ。」事態を飲み込めない相方(アイカタ)がすかさず突っ込みました。しかし、 スタジオは、にわかにしんとなってしまいました。 「ぶーん」という振動音とともに、それは地球にどんどん近づいて行きます。も ちろん、地球上からは肉眼ではまだその姿は見えません。しかし、今では、明石の 宇宙観測所でもその隕石の接近を確認することができました。そして、若い科学者 たちが一生懸命、その軌道をシミュレーション計算しています。もう少し時間があ れば、その隕石の組成やら金属特性を調べた上で大体の質量が計算でき、地球に対 しての物理的な衝突エネルギの計算ができるのですが、もう衝突があと数時間後に 推定される現在では、その余裕はありません。今は、地球の何処にぶつかるかとい う予測と、仮に地球と同程度の比重を持つ隕石だとしたときの衝突による被害予測 を計算しています。 「やっぱり、東京に落ちるな。」3回計算しましたが、答えは一致しました。隕 石はまっすぐ、東京を目指していました。大気圏にほとんど直角に飛び込んでくる ので、あまり曲がりそうにもありません。それで、みんなは解散しました。日本は 少なくとも、絶望でした。この衝突予想は、発表を見送られました。それは、末期 ガンの告知のようなものでした。あと、数時間で隕石は東京に落ちる予定でした。 「どうも、今日は耳鳴りがしていけないよ。」 川越駅出口の赤提灯を見やりながら、サラリーマンが大声で喋っています。い つもの一杯に寄ろうか寄るまいか、迷っていました。 「しかし今日はやけに星がきれいだなあ。星が降るっていうのはこんな夜空をい うんじゃないかい。」 連れのサラリーマンが上を見上げながらそう返します。 「しかし待てよ。あれえ、月が笠かぶっているぜ。こんなに星が出てるっていう のに変な月だなあ。」 二人は今日は飲みに寄るのをやめたらしく、それぞれの家に向かって月明かりの 道を歩き出しました。 確かに、サラリーマンが言うように、月が笠をかぶっているかのように滲んでい ます。ちょうど、明石の宇宙測候所の科学者が計算した時刻にそろそろ近づいてい ました。隕石は、そろそろ東京の空にその姿を現す頃なのですが...。 それは、太陽系に飛び込んだ瞬間、太陽の引力にひかれて僅かに明石観測所の計 算よりも軌道がずれ始めていました。そして、地球に達する直前で、地球の唯一の 衛星である月にぶつかってしまったのです。ぶつかった瞬間に、それはまるでアメ ーバのように四方八方に飛び散りました。それと同時に、ぶーんという音がぷつり と途絶えてしまいました。 それらは霧状になり、一瞬にして、笠状に月の表面を覆いました。そして霧状の それはまるで生き物のようにしばらく蠢いていましたが、やがて、水素ガスになり 月の大気に溶けてしまいました。ところが、慣性が残ってぷるぷる震えていた部分 だけがまるで意志を持っているかのようにまたひとつの欠片となり、地球に向かっ て飛び出しました。やがて地球の大気圏に突入すると、そのかたまりは大気圏中の 酸素をどんどん吸収し、水素2単位、酸素1単位の化合物に変身して、埼玉県川越 市に衝突しました。そうして、晴れの予想で取り込み忘れられていた団地の洗濯物 などを、とうとう、びしょ濡れにしてしまったのでした。 (おしまい) 蛇足:人類には、まだツキがあった。 なお、登場する人物団体は全て架空のものですので念のため。 <地におちるもの 1996.10.27 ジョッシュ PRN81060@pcvan.or.jp>
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