短編 #0607の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
真紀子ちゃんが拉致・誘拐されたんじゃないかって、大人が騒いでいるのを 聞いた。 僕は驚いたんだ。 僕の住む市では、拉致事件が三件続いてた。 いなくなったのは、女の子ばかり。僕と同じ小学生。学校は三人とも別々。 学年は最初の一人が五年生で、あとは四年生。二ヶ月ぐらい前に一つ目の事件 が起こって、二日経っても何の連絡もないことから公開捜査っていうのになっ ていた。今では女の子の名前も顔も公開されている。けれど、その子がどうな ったのか、全然分からないまま。 二つ目の事件はそれから一週間ぐらいあとに起きた。やっぱり身代金目的の 誘拐じゃなかった。三人目の女の子がいなくなったのは、それからさらに一ヶ 月ぐらいあと。これも連絡なし。手がかりはほとんどないみたいで、犯人はも ちろん、女の子三人も見つかっていない。 僕の学校でも全校集会のとき、校長先生が言ってた。知らない人に声をかけ られても、ついて行ってはだめだって。聞いてたときは、そんなまぬけなこと しないよぉと思ってたんだ。それに、僕は男だったし。 僕は、真紀子ちゃん−−久我さんが好きだ。 クラスの男子の半分ぐらいは、久我さんのことが好きだと思う。みんな口に は出さないけれど、分かるんだ。久我さん、かわいい顔してるし、頭いいし、 運動は野球以外なら何でもできるから、みんなに人気あるのは当たり前だ。ク ラスの副委員長やってるぐらいだ。 性格? 凄く勝ち気で、よく口が回るんだ。だから口喧嘩になったら、誰も かなわない。でも、僕ら男子は久我さんと喋りたくて、わざとからかったり、 意地悪したりする。 それに、普段は大人しくて、優しい。特に、下級生への面倒見がいいんだ。 通学はその区の児童が男女別の班単位で登校するんだけど、班長は普通、六 年生がやる。けど、久我さんのところはたまたま六年生がいないから、五年生 の久我さんがやっている。 同じ区の僕は、彼女のことが気になって、ちらちらよく見てるから分かる。 久我さんはしっかりしてて、小さな子が危ない目に遭わないよう、気を配って るんだって。下級生の子達も、おねえちゃんおねえちゃんと、彼女をとても慕 っている。 久我真紀子という名前や彼女の顔写真は、まだテレビでは流れていなかった。 学校の名前が出ただけ。これまでと一緒、様子見なのかな。早く、全部を公開 しちゃった方が、効果あると思うけど。 朝の集合場所である公園に行くと、やっぱり、久我さんはいなかった。男子 も女子も、噂している。久我さんがいなくなって今朝で二日目だ。昨日は風邪 でお休みということになっていたけれど、今日はとうとう、さらわれたんだと 噂になっている。 「おいー、どうしよう」 同じクラスの亀井が情けない声で話しかけてきた。こいつも久我さんが好き なんだ。 「久我さんのこと?」 「あったりめえだろ。気にならないのか」 「なるけど……どうしようって言ったって、僕らが何かできる訳じゃなし」 「冷たいこと言うな。俺達も捜すとか」 「少年探偵団でも作る気?」 「そうだよ」 亀井は僕の冗談をまともに受け取った。 「絶対、助けないといけないんだ」 「へえ。亀井は久我さんのこと、好きなんだ?」 僕は自分の気持ちは隠し、にやにや笑った。 「ば、ばかっ。そんなんじゃ」 大声を出したかと思ったら、またすぐ小さい声になった。顔が少しだけ、赤 くなっている。 「……ほんと言うと、いいなあって、前から思ってたんだ」 「僕もさ」 一人だけ言わせておけない。僕はすぐに主張した。 亀井は、ほっとした顔つきをしている。 「何だ。じゃあ、まじに考えようぜ。おまえだって、気になってるんだろ?」 「そりゃあね」 しかし、捜したって、簡単に見つかるものじゃない。心の中で、ぼくはそう 続けていた。 「ねえ、高島君、亀井君」 背中の方から声をかけられた。 女子の塩谷さん。同じ区で、同じクラスだ。彼女も久我さんのことが気にな っているに違いない。 「何だよ」 ちょっと乱暴に返事する。 「久我さんのことよ。あんた達、何にも知らない?」 「いなくなったって聞いただけだよ」 「一昨日、帰るときに見かけてない?」 その質問なら、昨日、学校で聞かれた。放課後、先生がいきなり、「昨日の 下校のとき、久我さんを見かけた人は先生に知らせて」と言い出すもんだから、 みんな首を傾げていた。久我さんは風邪で休んでいるだけのはずなのに、何の ためにそんなことを聞くのか、みんなは分からなかったからだ。 そして家に帰ってから、久我さんがさらわれたらしいっていう話を、お母さ んから聞いたんだ。 「見てないよ」 「ほんとに? そう……」 塩谷さんの顔色は本当に青白かった。 いや、僕だってなっていたかもしれないけれど。 「無事に決まってんだろ!」 突然、亀井が叫んだ。 「何、暗い顔してるんだよっ。すぐに戻ってくるんだって。そうに決まってる」 「そ、そうよね」 塩谷さんは、固い調子のままうなずいた。 僕は、そうかなあとは、とても言い出せなかった。 学校に行くと、緊急の朝礼があった。 普通なら、みんなぶうぶう、文句を垂れるところだけど、今度ばかりは違う。 テレビのせいで、ほとんどの児童は知っていたからだろう。近くの薮とか沼と かを中心に、大人の人達が捜して回っている映像は、強く印象に残っている。 先生達の話は、どれも暗かった。やたら、「気にしないように」とか「心配 しないように」とかを使っていたけど、そんなことできるはずない。 あと、下校の際も班単位で帰るようにすると言っていた。ただし、一、二年 生は上級生よりも早く授業が終わるので、先生が引率して下校することになっ たらしい。 朝礼は一時間目に食い込んでいた。だからか、一時間目は自習だって言われ た。いつもなら遊んでやるんだけど、今日はうれしくない。 教室で、みんなひそひそ話していると、先生が来た。担任の嵯峨野先生の他 に、教頭先生がいる。 「塩谷さん、亀井君、高島君、ちょっと来て。それから……尾上さん、山根さ ん。あなた達は久我さんと特に仲よかったわね? あなた達も来て」 「あと、同じ部の子や同じ委員会の子も」 教頭先生がささやいている。 合計でちょうど十人が、教室から呼び出され、先生達について職員室の方に 向かった。 僕らはそこで待たされ、一人ずつ、隣の小さな部屋に呼ばれて行った。話が 終わった者はそのままクラスに帰されているらしくて、どんな話があるのかは 分からない。ただ、久我さんの件に関係あるのは間違いなさそうだ。 僕の番が来た。いくらか緊張して部屋に入る。 初めて見る大人−−男と女が一人ずつ、難しい顔をして座っている。他には 校長先生と嵯峨野先生がいるだけ。 「戸は閉めてね」 女の人が、優しい声で言った。顔は笑ってなかった。 僕はドアをぴったり、閉めた。 「高島君、ここに座って」 嵯峨野先生に言われて、パイプ椅子に腰掛ける。 「緊張しなくていいのよ。こちらの方の質問に対して、知っていることだけ答 えればいいんだから。知らないことは知らないって、はっきり言いなさい」 「は、はい」 そう言われたって、緊張せずにはいられなかった。目の前にいるおじさんお ばさんは、刑事なんだと察しがついたから。 まず、久我さんが誰かに連れ去られたらしいという話をされた。 質問は、女の人ばかりが聞いてきた。 一昨日、久我さんが下校する姿を見なかったか、彼女に変な様子はなかった か、登下校時や学校の外で久我さんに話しかけてきた大人はいなかったか、通 学路のどこかに見たことない車が停まってはいなかったか、怪しい人を見かけ なかったか……。色々聞かれたけれど、そのほとんどに、僕は「知らない」「 分かりません」を通した。 ただ一つ、最後に久我さんを見かけたのはいつかという質問には、一昨日の 放課後、僕が帰りかけてたとき、体育館のすぐ近くで見かけたと答えた。 「ありがとうね。もういいわよ」 無理矢理明るくしたような声で、女の人が言った。 僕は立ち上がる前に、聞いてみた。 「あ、あの、久我さん、助かる?」 すると四人の大人達は互いにちらっと目を見合わせた。 答えたのは、男の人−−刑事さんだった。 「ああ、助かるとも。大丈夫だから、君は心配しなくていいよ。任せなさい」 「……はい」 うなずいてから、僕はゆっくり立ち上がり、廊下に出た。 二時間目も自習になった。先生全員で会議を開いているらしかった。 僕は、色々聞いてくるクラスメートや、亀井から逃げて、教室を出た。 向かったのは……。 幸い、体育館は開いていた。誰もいない。全校的に自習なのはラッキーだ。 僕はそれでも周囲を注意しながら、体育館のコートを横切った。用があるの は、前の舞台下にある引き出し。そう、パイプ椅子が大量にしまってあるとこ だ。何か大きな行事がない限り、滅多に開けられることはない。 僕は、一番北側の引き出しにたどり着くと、力一杯、引っ張った。 三メートルぐらい引っぱり出したところで、やっと見えてきた。 「……まだ、元気……?」 僕は彼女に声をかけた。 −−終わり.1 返事はなかった。 久我さんは丸くなったまま、ぐったりしていた。生きているのか、死んでし まったのか、分からない。 僕は手を伸ばし、閉じられたその瞼に触れてみた。冷たいような暖かいよう な、不思議な感覚があった。勇気を出して、瞼をこじ開ける。 「あ……ああ」 彼女の目は吸血鬼のそれみたいに、真っ赤だった。 「死んじゃったのかな……」 悲しくなってきた。 つまらない理由で久我さんを突き飛ばしてしまったことを、今さら、後悔し たくなった。あのとき、倒れた拍子に溝の角で頭を打った久我さんは、全然動 かなくなったんだ。体育館のすぐ横だったから、僕はここへ彼女を運び込んで ……どうしようもなくて……とにかく隠した。 動かなくなっても、久我さんはきれいだった。今もきれいだ。 そう言えば、ちっとも臭くない。死ぬと人の身体だって腐って臭くなるって 聞いたけど、久我さんの身体からはいい匂いさえする。生きてる? それとも、 久我さんは他の子と違って、特別なのかもしれない。うん、そうに違いない。 僕は一昨日、彼女にしたように、唇にキスをした。 明日からもずっとここに来て、久我さんに触れようと思う。 それから僕は、手が震えるのを意識した。生唾を飲み込んでから、久我さん の服に手をかけた。……ずっと、見たいと願ってた。 次の大きな行事の音楽会までに、久我さんを連れ出さなくちゃいけないな。 そう思いつつも、僕の目は久我さんのきれいな裸に吸い寄せられた。 −−終わり.2 「どういうことでしょうね?」 相棒の後輩が言うのへ、刑事はぶっきらぼうに応じた。 「分からんよ。高島ってここの生徒……じゃない、児童だな。死因は窒息。そ りゃ、こんな引き出しに乗って、狭いところに押し込められたら、息も詰まる わな。問題なのは、誰が引き出しを中に押し込んだのかってこと。そしてもう 一つ」 白い手袋をした手で、その服を拾い上げた刑事。 「これ、行方不明の久我真紀子っていう女児の物に間違いないんだよな。それ も、いなくなった時点の。何でこんなところに、上から下まで一式揃っている のか、さっぱり分からねえ……」 −−終わり.3
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