短編 #0565の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
-- かわりだね 不知間 貴志 散歩しながら、もうずいぶん前から知っている幽霊と、こんな 話をする。 幽霊はその夜、とても気分が良い(?)らしく、ずいぶんと饒 舌である。もっとも、彼女に舌があるかどうかは、彼女の口が開 いたところを見たことがないので、僕にはわからない。 まず、幽霊のセリフから。 「ほら、むらさき色のとか、白いのとか、飴のカンに、さいごに 残ってしまうものが、あるじゃない?」 「・・・うん。あの、まっずいのがね」 「で、時計。の、秒を刻む音で。それがね、自分の腕時計で耳を 押しつけて。何百人もの生きている人が渡る交差点の、その雑踏 の中でもね、渋谷のね交差点でもね、きこえるんだよ。すごく小 さな鎖を、うんと遠くで、コンクリートの壁に打ちつけてるよう な音が。いちど気がつくと、それが耳をハナシテモ、話をしてい ても、きこえるようになるの。きこえるようになるの」 「でだ。飴はどうしたの」 「飴なんてどうでもいいの。カンが重要。そう。息が切れた?」 「・・・。別に」 「そう。よかった・・・それから、それで時計はね。歯車がわた しの腕をまきこんで、砕いてしまった。その夜、クオーツで震え る機械は、わたくしを引き裂いてしまっタノデシタ」 「前にいってた、”私は赤い車にひかれて死んだ”、とかいって た話はどうしたんだよ?」 「ゼンマイがあって、車も時計も動く。それらはほぼ等しい」 「ん。いいかげんだな。また”つくって”んじゃないか」 「だって、幽霊なんて、そうだもの。死んでるのごまかしてるん だもの、ね。等しいよ? ひとし君」 決して開くことのないくちびるが、そこにある。本当に表情と か顔の筋肉の動きってのは、生きている証拠の一つなんだなあと、 あたりまえのことを僕は、淡い幽霊を凝視することで再確認する。 「は。そりゃそうだ。君は、あいかわらず興味深い」 「ハ、アハハハハ。ひひひ」 坂道で、まばたきをしない目が夜をうつす。 川の音がする。絶望的な、ぬるく汚れた川だ。岸の無い川が僕 ら二人を、逆の方向に流そうとする。 「ここでは、さじがいるかな。スプーンが。そう思うんだ」 「そうしたあいまいな連想が、ひとし君を、確実に壊していくの が私にはみえる」 「死人(しびと)にいわれるこっちゃない」 「玲子だって名前は私の。スプーンはオールのかわりにならない」 さて。これは繰り返された言葉。ここで、二人で声をあわせて、 「「どのみち船はまだ来ないのだし」」 「・・・船。君のその話は嫌いじゃない。飽きないし」 「そう。透明で大陸ほどもあるワープシップ。私達人類は、死ん だらみんな、それに乗って星の世界に行くことになっている」 「そんな陳腐な繰り返しでは、読者が満足しないよ」 「そう。赤血球のかたちの、ぶよぶよとした肉の船。私達女は、 死んだらみんな、肌で偽りの空を包むことになっている」 「うんうん。そのイメージは及第点。こんどお話のネタにでも、 それ使うよ」 「引用はいいわ。コピーライトを。私の明記してくれる?」 「まさか。実際出来るのは気持ちだけ、だけだろうと思うよ僕は 例によって・・・君のことを誰も信じやしない。めんどうだし」 「ひどい。いい、じゃ今度こそ呪ってあげる。君の文章を読む人 の命を、一人ずつ十五分ずつ減らしてあげる。君への罰にする」 道のかどを曲がると、自動販売機があってビールの缶が並んで いる。蛍光燈が切れかけていて、ぱりんぱりんと音をたてて点滅 している。 「お酒。欲しい?」「幽霊は酔わないからつまらないぞ」 「アルコールの大きな海、あるいは。そんなものが望みなのでしょ う? 君には。どうせ。ひとし君」 自動販売機の光が点滅して、強くなる一瞬、玲子という幽霊は みえなくなる。背後に透けてみえるサントリーの文字。それが終 わるとまた、とても薄く存在しなおす。 セロハンを通した青い光。それが彼女の色だ。停電でもないか ぎり決して闇夜にならない汚く赤い夜の中で、この古典的なもの は、誰かの(僕の?)個人的な記憶そのもののように隣にいる。 そして深く赤紫に光る瞳。アスファルトの上でも傷ひとつ無い 裸の足がひどく残酷な感じだ。 「なぜ、ひとし君は、今私を呼んだの?」 「え? 名前なんていってないよ」 「いいえ。いつもひとし君は私を呼んでいる。それは始めから、 終わりまで、かわりない。だから私は来る」 「・・・呼んでないよ」 「それにしても、風が強くなる。気がつかないの? なぜ私達が 今夜も、春もまだ遠いというのに、歩いている理由に」 「それより、気になるな。その始めと終わりとは?」 「あなたが出かけてから、こちらに帰ってくるまでの時間、それ はそれはキレイなもの。舞台の上での木の匂い。錆びた非常階段 をのぼって、鉄の扉をあける気持ち」 「わからない。君はやっぱり、あっちの世界の人間なんだな」 「飴のカンは、空にはならない。ひとつ残して振れば、からから と音が鳴る。みんな忘れていても、ひとし君だけは、それを忘れ てはいけないわ」 もしかして幽霊は自分で、影でもあり、そこにいてそこにいな い・・・これはいけない。玲子の言葉の、文法の影響がでている ようだ。 それでも前よりずいぶん声が小さくなったな。きっともっと小 さく、いずれにしても消えてゆくのだろう。また、あるいは。僕 が壊れる未来も選択肢なのだ。どのみち船はまだ来ないのだし。 -- 1996.3/23
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