短編 #0527の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
*登場人物 天女野宮子(あまのみやこ) 井出口誠一郎(いでぐちせいいちろう) 肥田憲昌(ひだのりまさ) 椎名瑞枝(しいなみずえ) 大熊徳哉(おぐまとくなり) 流次郎(ながれじろう) 平野年男(ひらのとしお) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 私、平野年男は、探偵の流次郎と共に、作家仲間の大熊徳哉の家を訪ねた。 訪ねたと言っても、単に遊びに来ただけであるが。 大熊は私と同じミステリー作家であるが、彼はハードボイルド系統の作品を 得意とし、私はご存知の通り本格派を自負しているので、畑違いではある。 それがどうしてこう親交があるのかと言えば、あるミステリー賞で、それぞ れの作品が選ばれてからの、腐れ縁という奴である。何となく、気が合うのだ。 「時に、何かいいネタはないかな、先生」 大熊はふざけて私のことを先生と呼んだ。 「どうしたんです、急に。大熊さんが私にそんなことを言うなんて、酒の肴に してはあまり面白くない」 「いや、酒の肴じゃないさ。実は新本格ブームとやらで、編集さんから本格の エッセンスを詰め込んでくれと注文がきてね。俺にそんな芸当を求められても、 無理だって言うのにねえ」 「本格は好みじゃないんでしょう?」 流は笑いながら言って、グラスを口に運んだ。彼は酒・アルコールの類がだ めなので、(何と!)スプライトである。 「正直言って、そう。だけど、頼まれたとあっては仕方ない。流さんでもいい んだ。何か面白い事件はないですかね、名探偵殿?」 琥珀色に染まったグラスを右手に、大熊はメモを取るポーズをしている。 「そりゃありましたけど、そういうのはみんな、こちらの平野年男先生に書い てもらう契約ですんでね」 流までが冗談を言い出した。私は呆れつつも、何か案を出してやろうと試み る。 「……そうだな、大熊さん、ボーガンを趣味にしていたっけ」 「ああ。日本じゃ、拳銃が自由に手に入らないんで、その代わりさ。結構、愛 好家もいてね。月に二度くらい、集まって競技しているんだ」 向こうの部屋の壁に飾ってあるボーガンを、顎で示しながら、大熊は嬉しそ うに言った。よほどボーガンが好きなんだろう。 「それ、ネタにできないかな。使い古された手だけど、窓の格子から室内にい る人物を撃って密室殺人のできあがり」 「ホントに陳腐だが、それで行くか。矢の処理をうまいことすれば、何とかな るかな」 という感じで、この日の訪問は切り上げたと思う。酔いのために、いささか 記憶が曖昧だが、記憶力抜群の流が補足してくれたので、間違いないはずだ。 だが、次に大熊の所に足を運んだのは、事件の関係であった。それは殺人で あったのだが、事件が起きてから十日目になって、大熊は私達に連絡してきた。 「あ、よく来てくれたな。小説として書いても、生きている内に、殺人事件に 巻き込まれるとは思わなかったね」 「僕らを呼んだってことは、疑われている訳?」 流がストレートに聞くと、大熊は火を着けたばかりのタバコをもみ消して、 目の前で手を横に振ってみせた。 「とんでもない。まだ、そこまでいってない。ただ、俺達の同好会の誰かが犯 人だとにらんでいるね、警察は」 「同好会って、ボーガンの?」 「そうさ」 大熊はさっきのタバコに火を着けると、一口吸った。そして詳しいいきさつ を話し始めた。 被害者は、会発足当時からのメンバーである天女野宮子という女性。洋裁の 仕事を内職でやっており、三十歳の未婚。と言っても、見目がそれほど悪い訳 ではなく、分厚い眼鏡で損をしているらしい。 死因は至近距離からボーガンで腹部を撃たれたためで、これが警察の内部犯 行説の根拠になっている。当然ながら、メンバーの全員は自分のボーガンを持 っているのだ。が、凶器となったボーガンは見つかってなく、現場に遺されて いた矢も、ありふれた物であった。 現場は彼女の自宅で、死体移動の形跡は見あたらない。一人暮しの上、分譲 が始まったばかりの閑静な住宅街であったため、目撃者は皆無と言えた。 第一発見者は新聞代の集金に来た中年女性なのだが、その時には息があった のだ。天女野は息を引き取る間際、 「犯人、ひだ……」 と言い残したそうである。 これによって、真っ先に疑われたのが、最近、入会したばかりの肥田憲昌で ある。アリバイもはっきりしていない。 しかし、肥田が入会したのが、天女野の死ぬ三週間前。この三週間、天女野 は会の集まりを欠席していたのだ。つまり、肥田が新しく加わったことを、天 女野が知るはずがない。肥田という人物を知っているはずがないのだ。 また、天女野の知り合いに、「ひだ」という人物は他には見あたらなかった。 「てな状況で、また捜査は振り出しに戻ったらしい。警察もご苦労なこった」 大熊は話し疲れた様子も見せず、こう言って高々と笑った。 そうして、肥田がボーガンを撃とうとしている写真を、参考として見せても らった。どうやらイニシャルを彫り込んでいるらしいボーガンを右手に構え、 なかなか決まっている。 流はその写真を大熊に返して、 「うん、この事件、興味ありますね。大熊さん、他のメンバーの名前やなんか、 教えてもらえませんか?」 と言い出した。 「おっ、名探偵の出馬ってとこか。いいよ」 そう言って、彼は紙に印刷された会の名簿みたいな物を渡してくれた。 メンバーはそう多くなく、死んだ天女野を入れて、五人である。 「この中で、天女野を殺してもおかしくない人、いますかね?」 大熊の人となりを知っているからか、流は単刀直入に聞いていく。 「そうだねえ、肥田さんはこの前入ったばかりで面識もないから除外できると して……。ははっ、残りの三人はみんな可能性があるな。誰もアリバイのある 奴はいないし」 「みんなって、大熊さんもか?」 私は驚いてしまった。それがおかしいのか、大熊はまた笑っている。 「そうだよ。俺はあの女にしつこく言い寄られていてね、こっちは早く切れた いと思っているのに、向こうはこの男を逃せばチャンスがなくなるとばかり、 必死に喰いついてきてさ」 「……嘘だろ?」 私は言ってやった。大熊が、こんなまずい付き合い方をする男でないことは、 私がようく知っている。 「あれ、ばれたか。実はその通りで、今のはここにある井出口さんの事情。こ の人にはちゃんと彼女がいるのに、天女野女史、惚れちゃっててね。まあ、コ ンピュータ会社の重役という肩書にひかれても無理ない。迷惑がっていたさ、 井出口さんは」 「なるほど。じゃあ、この椎名という女の人は」 「椎名さんが、今言ってた井出口さんの彼女。そもそも彼女が入会したのは、 井出口さんに誘われたからだ」 「ははあ。それで、入会してみると、年増の女が自分の彼氏に言い寄っている って訳で、殺意を持ったと。ちょっと無理があるような」 「ああ、まず無理だ。動機はともかく、技術的にね。椎名さんは全くの初心者 で、まともにボーガンなんか撃てやしない。どんな至近距離からでも、外すん じゃないか」 「何だ。では、容疑者は二人だけですか」 拍子抜けした口調で、流がつぶやいた。 「そう。あ、俺の動機は他の人から聞いてくれよ。自分で話す気にはならない んでね」 人を食った言い方をする奴だ。 ともかく、井出口という人物を訪ねてみることにした。大熊から話が通じて おり、あるスナックを待ち合わせの場所に指定してきた。 「お、あなたが噂の探偵さんか」 重役とは思えない若い男が、声をかけてきた。そうして井出口だと名乗った。 右腕を怪我しているらしく、包帯で吊っている。 私達の方も名乗ると、腕のことを聞いてみた。 「ああ、これね。出会い頭の交通事故でね。警察の取調べを受けた後だったん で、いらいらしてたんだな。一週間くらい前だったよなあ、瑞恵?」 井出口は店の奥でダーツをしていた女性に声をかけた。手を止め、振り向い た女性は、今着ている洋服よりも、和服の方が似合いそうな年の若い人である。 「え?」 「この腕、一週間くらい前だったね?」 「ええ、そうよ、確か」 そう言いながら近付いてきた女性は、私達に向かって、挨拶をした。 「はじめまして、椎名瑞恵です」 「どうせ彼女にも話を聞くんだろうと思って、呼んだんですよ」 井出口はそうしてかすかに笑った。 「それはどうも。早速ですが、お聞きしたいのは、天女野さん殺しの大熊さん の動機です」 酒場の雰囲気が苦手な流は、話を早く終わらせたいらしく、ここでも単刀直 入に聞いていく。 井出口と椎名の二人はダーツの所に戻るので、私達もそれに続いた。 「そうだねえ……」 井出口は左手にダーツを構え、狙いを定めて投げた。が、ダーツは的の端に やっとのことで刺さっただけであった。 「ちぇっ。やっぱり、右じゃないとだめか」 「それで動機は」 「あ、そうそう。天女野さんはミステリーファンでね。創作も少しはやるらし いんだ。思い付いたアイディアを、大熊さんに得意になって話してたのを何度 か見ましたよ。で、大熊さん、そんなアイディアの一つを、勝手に自分の作品 の中で使ったみたいだねえ。もちろん、副次的な使い方だったらしいけど、天 女野さんは怒ってしまった。盗作で訴えるとか何とか」 「ふーむ。椎名さん、今の話に間違いありませんか?」 椎名は短くうなずいた。 「どうもお話、ありがとう。もう結構ですよ」 「何だ、もう終わりかい?」 井出口が気合い抜けしたかのように言い、椎名と顔を見合わせている。 私だって、心境は同じだった。ほとんど何も聞いてないと言っていい状況な のに、流はもういいと言う。 「ええ、犯人が分かりましたので」 流は断言した。 私は、まだ分からないでいるのだが、読者諸氏はいかがであろう? 流にヒ ントを求めたところ、ヒントと言うより必要条件だが、と前置きして、こう付 け加えた。 「吉田警部に頼んで、鑑識の結果を教えてもらったんだが、被害者を殺したボ ーガンの矢は、明かにボーガンから発射されたものだった、ということだよ。 これだけ条件が揃えば、推理で充分に犯人を指摘できるはずだ」 −問題編.終わり
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