短編 #0507の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
差し出された君の長い指は細く長く、形良く人形の其れの様に器用に形造られ 何処とは無しに艶かしく見えた。 「ねぇ何の匂い?」 柑い香りが爽やかな橘の様に軽く和らいで漂う… 私が黙ったままで微笑んでいると、君はもう一度その手を鼻先に近づけて来た。 暫くの間、じっと嗅いで居ると、君の手のひらの温もりが私の鼻先に触れて来て やわらかい君の手の平は私の呼吸を奪い去り、なおも静かに曖昧に成熟した綿の 実の様に圧迫感も違和感も感じさせることなく優しく私の鼻と口を覆う… 私の 意識はその柑い橘の香りの中で次第に薄れて行き躰の存在すら感じなくなった頃 背中に君のふくよかな胸の感触だけを艶かしく感じながら既に総ての感覚を失っ て居たのかも知れない。 背中から君に抱えられる様にして眠って居た私が蘇る意識の中から静かに眼を 開くと、君のやわらかい頬は私の頬に触れて僅かな人間の個体意識の表皮を隔て たばかりの唯一つの存在となって居た。 君は疲れた様に微笑みながら大粒の涙を流して居たが、それでも普段と何一つ 変わらない落ちついた声で問いかける様に呟いた。 「死んだらどうするのよ… 」 『殺せば良かったのに。』 私はそう答え様として言葉を飲み込んだ。 君には私を殺すつもりなど在りはしなかった。 殺そうとしてみたかっただけに過ぎない。 きっと私は死へのあらがいを見せる だろう… そして君は楽しそうに笑って… それでお仕舞いになる筈の、ささや かな試みだった。 私に対する君の気持ちへの精いっぱいの抵抗に過ぎなかった のだ。 私は、君にだったら殺されても良いと思った訳では無い。 殺されて居れば良 かったと思っただけに過ぎない。 君が私を殺さなくてはならない程、お互いの 感情が近いところに在るとも思われなかったし、私自身君に身の危険を感じる程 近付いては居ない事を知っていた。 もしも、私が君にだったら命を奪われても かまわない等と思って居たのならば、私は全身全霊を振り絞り其れを拒んだで在 ろう。 心より愛する者の心に深き過ちの傷を刻まぬ為に… 私は静かに上体を起こし、何事もなかったかの様に答えた。 「檸檬の匂いだね。」 君はそっと立ち上がり微笑もうとしたがそのまま其処に泣き崩れて仕舞った。 私の戸惑いは、哀れみか愛しさか… 答えの見付からぬまま振り向いた私は泣き じゃくる君を抱き寄せると、初めての君のその唇の柔らかさを私自身の唇で感じ とって居た。 聖 紫
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