短編 #0475の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
姫様がお部屋で塞ぎ込んでいると、大殿様が大座敷で一族を集めてぜひ見せたい ものがあるといってきました。姫様は気分が悪く、人前にはあまり出たくなかった のですが、大殿様の言い付けを破るとどんなことになるか知っていましたので、大 急ぎで人様の前に出ても恥ずかしくないように、身仕度を整え、大座敷に向かうこ とになりました。 大座敷には、隣国から奪いとった美しい品々が所狭しと並べられ、姫様の眼を奪 わんばかりでありました。その中でもとりわけ姫様の眼をひいたのは、大層美しい 若侍のお人形でありました。若侍のお人形は、年の頃なら、二六,七、姫様に負け ぬほどお美しく、男であるのにほのかに色気があり、硝子細工の黒い瞳が姫様を写 しだし、まるで生きているような美しい若侍のお人形でありました。その美しい若 侍のお人形は、隣国の将が自国一の人形師にある理由で造らせたものだと言われる ものでありました。 大殿様を始め、一族の皆様は、その若侍のお人形のお姿を見て、隣国一の人形師 とはいえ、腕の方はたいしたことがないと憎々しげに笑いさざめきます。けれども、 お人形を見つめる姫様にはそんなことは関係ないことでありました。若侍のお人形 の憂いを秘めた顔は、姫様だけしか見たことがない、かつて愛した方の面影が残っ ていたのです。 大殿様、一族の方々が見守るその前で、姫様は大座敷に出て、若侍のお人形の白 い美しい頬をそっと触れました。お人形の肌であるはずなのに、ほんわりと暖かく 生きているようです。姫様がお人形の頬に手をあてておられると、姫様のお耳にお 人形の内から、ことんと何かが動く音が聞こえてきました。 驚く姫様に、お人形はゆっくりと手をのばし、舞い始めました。大殿様や一族の 方々が、お人形を指さし、からくり人形と騒ぎたてます。その間にも、お人形の瞳 は、姫様だけを見つめ、美しく舞っておられます。 舞い続けるお人形の手と立ちすくむ姫様の手に白い扇が渡されました。かつて、 隣国と姫様の国の仲がよかった頃に一度だけ、隣国の将と姫様が一緒に舞われたこ とを思い出して、誰かが一時の座興にとお人形と姫様との競演を所望されたのでし ょう。 大殿様と一族の方々から、姫様にも舞われるようにと声がかかります。姫様は、 扇を持ったまま美しく舞い続けるお人形を見つめています。お人形が頭をあげ、姫 様と眼が合うと、姫様に軽く笑いかけました。 姫様は肯き、舞い始めました。 大座敷からは物音が途切れました。聞こえるのはお人形と姫様の足袋が畳に擦れ る音だけです。それほど、若侍のお人形と姫様の踊りには、この世のものとは思え ぬ美しいものを持っておられたのです。 舞い初めてからどれぐらいたったのでしょう。お人形と生者が、あべこべになっ ていたのです。お人形でありながら人形ではない若侍、生身の人間でありながら人 間ではない姫様。 大座敷のものすべてがその異変に気づきましたが、二体、それとも二人の舞いを 止めようとするものはおりませんでした。止めようとしても、舞いに魅せられて誰 一人として動くことができなかったのです。 若侍のお人形の眼からは涙が流れます。お人形となった姫様の眼からも涙が流れ ます。涙を流しながら、お互いの手と手を握りしめ、舞い続けました。広い大座敷 の中で、お二人の国で争いさえ起きなければ、美しい花婿と花嫁として、ここで舞 うはずだった二人の舞いがいつ果てるともなく続きました。 舞いが終わると二体のお人形は、霧のように消えてしまいました。大殿様、一族 の方々が、お屋敷の中はもとより、ご城下一体をしらみつぶしに探しましたが、お 二人の姿を見つけることはできませんでした。 その後、若侍と姫様によく似たお人形が、どこかで飾られていたという噂はあり ましたが、誰も見たものはいないそうです。 $フィン
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