短編 #0452の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ぼくは昔、赤いリックを背負い、友人から譲り受けた古い自転車をくるくる回し、 狭い日本中をくるくる回っていたことがある。 日本の一人旅、楽しかっただろうだって? やめてくれ、そんな言い方をするの は、そんないいものじゃない。ぼくが旅を続けたのは、すべてが嫌になって、すべ てから逃げ出したくて、それでも情けないことに、この世にどうにかしてしがみつ きたくて、じたばたしていただけだったのだ。 ぼくは、人間の姿をした"ぼうふら"だった。すべてが虚ろで、何の感情もわかず、 ただペダルに二本の足をのせて自転車をくるくるまわしているだけだったのだ。 そんな情けないぼくでも旅の間に忘れられない思い出が少しはある。これから話 す物語は誰かに話さずにいられないようなものなんだ。だから逃げずに聞いてくれ よ。 さっきも話したとおり、ぼくは自転車で日本中旅をしていた。親切で情緒豊かな 山奥のひなびた湯治場、どこにでもありそうで、これがほとんど消えかかっている。 そんなぼく向けの湯治場に泊ったときのことだ。 ぼくは、人のこない夕方早くから一人で入ろうと湯場にいく途中、鶏小屋を見る と隅の方に鶏とは違う何か黒いものがうずくなるようにしていた。 変だった。ぼくは好奇心にかられて、裸足のまま庭に降り、鶏小屋の中を見た。 ぼくは頭を抱えた。騒がしい鶏たちとは違う。こんなものが鶏であるはずがない。 そこには鶏に混じって一羽の若い鷹がいたのだ。ぼくは、長い間その鷹を眺めてい たように思う。気がつけばすでに太陽は山の間に隠れ、辺りはすっかり薄暗くなっ ていた。その間ずっと鷹だけを見つめていた。その鷹は鷹であるにも関わらず、鶏 の中に紛れ、ときおり遠慮がちに鶏の餌をついばんでいた。 ぼくは、その夜、湯治場のおやじを呼びつけて、鶏小屋の鷹について尋ねてみた。 おやじは笑いながら、あの鷹は卵の頃から鶏に育てられたのだと答える。だから今 は鶏と同じようになっているし、今まで一度も飛んだことがないので、これからも 飛ぶことができないだろうと言った。 そんな馬鹿なことはないだろう。あれはどう見ても鷹で、空に棲むものだ。ぼく はおやじにそう言ってやった。強情なぼくを哀れむように、おやじは軽く手を振っ て、そうじゃない、そうじゃない、一度でも鶏の仲間になったものは二度と空を飛 ぶことができないのだと言った。 そこで、ぼくはおやじと賭けをした。もし明日一日あの鷹を借りて、空を飛んだ のなら、宿賃を負けて貰う。もし鷹が空を飛ばなければ、ぼくは賭けに負けたこと になり、宿賃を二日分払おうということにしたのだ。 おやじは、鷹が飛ぶことはないと信じきっていたので、この誘いには飛び付くよ うに乗ってきた。宿屋のおやじの自信たっぷりの様子を見て、少し不安になったが、 賭けをしたのは成行上仕方がない。ぼくの正当性を確かめるためにはこれしか方法 がなかったのだ。その夜遅く鶏小屋で眠る若鷹を眺めてから、飛ぶんだぞとつぶや いた。 翌朝早く、鶏と一緒に鷹が鶏小屋から出てきて、庭の草をついばんでいた。ぼく は、庭に降りていって鷹をそっと抱きしめ、おまえには青空こそ似合っている。 羽を広げれば飛べるはずだと言ってあげた。若鷹は、一瞬驚いて目をきょろきょろ させるだけで、嘴や爪を立てることもなく、ぼくの抱かれるままになっていた。 そいつは鶏よりもおとなしい鳥ですよ。おやじも縁側から降り、ぼくが鷹を抱い ているのを見ると面白そうににやにや笑っている。 こいつは飛べるはずですよ。ぼくはおやじを睨みつけてから、鷹を思い切り空の 中に放った。しかし、鷹は数回軽く羽ばたいただけで、すぐに地面に落ちてしまっ た。 ほらね、もうこいつは駄目なんですよ。おやじは鶏の中に混じって鶏と同じ餌を ついばみはじめた若鷹を眺めて笑った。 おやじの笑い声を聞きながら、こいつと一緒に屋根に登ってもいいですかと聞い てみた。おやじはけげんな顔でぼくと鷹を眺めてから、ため息をついた。そんなこ とをしてももう無駄でしょうけど、あなたの気のすむようにやってみるだけやって みなさいと言うと納屋から梯子を持ってきてくれた。 ぼくは、胸に暴れようともしない若鷹を抱き、おやじから借りた梯子で屋根の上 まで登っていった。屋根の上は飛ぶのに丁度いい風が吹いている。鷹のことがなけ れば、何時間でもこの風に吹かれて過ごしたいぐらいだ。 ぼくは、若鷹の羽を軽くなでながら、きれいで力強いな羽だね。こんな気持ちい い風に吹かれて、翼を広げて飛べたならどんなに気持ちいいだろうね、と言ってあ げた。若鷹は、胸の中でくるるるると不安げ小さく鳴いていた。 ぼくは若鷹を青空の中に放り投げた。ぱたぱたぱた・・・何度が羽ばたく音が聞 こえたかと思うと地上の鶏の中に紛れこみ何事もなかったかのように餌をついばみ 始めた。 もう駄目なんだよ。おやじは若鷹とぼくを見比べて、甲高い声で笑い出した。ぼ くはおやじを睨みつけ、次はもっと高いところから放り投げたらうまく行く。おそ らくこいつはそよ風が気にいらなかったのだ。そう言ってやった。 ぼくは、自転車の後に小さな木箱を乗せて、その中には鷹を入れて、近くの山に まで登って行った。おやじは好きなようにしろと言い、諦めたように車でついてき た。 山頂は風がきつい。谷間から吹き上げる風が音を立てて鳴り響いている。ぼくは 木箱から若鷹を取り出し、頭上高く差し上げた。鷹は周囲の山々を見渡し、青い空 を見て不安げに身体を震わせて鳴いた。 おまえは地のものではない、天の者だ。恐れずに羽を伸ばして飛んでくれ、そう 叫び鷹を山からつき落とした。なぜこの時飛べるかどうかわからない鷹をつき落と したのかわからない。もうおやじとの賭けなんかどうでもよかった。ぼくはどうし ても飛んで欲しかった。飛べるのなら飛んでいくがいい。飛べない鷹は生きていて も仕方がないんだ。鷹よ飛んでいくれ、ぼくは必死でそう願った。 鷹は地上に落ちることなく、空の帝王にふさわしい翼を広げ、天高く舞い上がっ ていった。 ぼくは賭けに勝ち、おやじに代わって笑い声をあげた。 $フィン ps.鷹の飛ぶ立つ話は他の本に書かれていたものを一部参考にしました。
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