短編 #0409の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
月と指輪 宵寺 松虫 女は砂漠の国の王女だった。王はほかに子供を持たず、いずれ王 女が婿を取って跡を嗣ぐことになっている。たった一人の王位継承 者であり、また一人娘ということもあって、幼いころから願ってか なわないことは、空を飛んだり雲の上に乗ることだけだった。望ん で手に入らないものは、太陽と月、そして空の星だけだった。 しかし、その男は王女の言いなりにならなかった。 男は王女が住む城の中庭の花の世話をしていた。下働きには珍し い美形と如才のなさで下女たちに人気があり、王女の目に止ること になった。王女の命令で男は三度王女と夜を共にした。男はおざな りに勤めを果たすばかりで王女に世辞の一つも言おうとはしなかっ た。業をにやした王女は男を監禁したが、男が王女に心を開くこと はなかった。 やがて男に将来を誓いあった恋人がいることを突き止めた王女は、 その恋人も拉致した。 そしてある遊びを思いついた。 牢から引き出された男に王女が言った。 「これからわたしは砂漠に出て指輪を一つ落としてこよう。砂漠の 下に隠れた太陽がふたたび姿を現わすまでにおまえがその指輪を見 つけてこれたら、おまえと恋人を自由にしてやろう」 否も応もなかった。断ったところでこのままでは一生外には出ら れないのだ。獣から身を守るための短剣一振りを与えられて男は夕 闇の砂漠へむかった。 月明かりの砂漠を男は歩き続けた。東の空に満月が昇ったのはか なり前だ。むやみにさまよっても見つかりはしない。男は真新しい 駱駝の足跡をたどり、その回りを探した。王女の駱駝ではないかも しれないが、簡単に見つかるところにあるともかぎらない。砂の中 に埋められていることだって考えられる。もともと指輪なんか落と してはいない可能性もあるのだ。 「すべては運だ」 男はそう考えた。ただ、その運の中に王女の気まぐれの占める割 合のなんと大きいことか。 月明かりの砂漠を男は歩き続けた。もう月は中天に達している。 昼間と違って冷えきった空気が男の皮膚を刺した。加えて餓えと渇 きが男を責める。だが飲むものも食べるものも与えられてはいない。 あったとしても休む気にはならなかった。神経を尖らせ続けること がかえって集中力を奪うなどと考える余裕もなかった。 「とにかく指輪を見つけなければ」 男の頭にはそれしかなかった。すでになんのために指輪を探して いるのかさえ忘れつつあった。 月明かりの砂漠を男は歩き続けた。月は無慈悲にも西の空にあっ た。見つめていても動きはわからないが、確実に、着実に砂漠の果 てに近づきつつある。このまま自分だけ逃げる考えも頭の隅をかす めたが、しょせんあの女王から逃げることはかなわない。すでに東 のほうが明るみ始めていた。 恨めしそうに男がそちらを振り向くと、月明かりを受けて光るも のがあった。 男は早足にそちらに急いだ。確かに何かが光っている。走った。 男は指輪を見つけた。だが、あったのは指輪だけではなかった。 指輪は女の指にはまっており、その指のついた手は手首から上がな かった。指輪をはめた手首だけが転がっていたのだ。 一瞬顔をそむけようとした男は指輪に見覚えがあるのに気付いた。 高価なものではなかったが、男が恋人に送ったものだった。 男は女の手首を抱きしめて号泣した。 東の空が白みつつあった。男が歩いて行く先に、武装した兵士た ちに囲まれて王女の宝冠が光っていた。十分近づくまでゆっくり進 んでいた男がふいに走り出した。護身用に与えられた短剣を腰だめ にしていた。 短剣ごと男にぶつかられ、王女の宝冠が飛んだ。そのまま砂の上 に倒れこむ。だが、兵士たちは身動き一つしない。 男はあわてて倒れた女を抱き起こし、顔のベールをはぎ取った。 そこにあったのは猿ぐつわをかまされた恋人の顔だった。痛みのた めか男の手にかかったことを悲しんでいるのか、目からは止めどな く涙があふれている。男が猿ぐつわを外すと、恋人は血を吐き、何 か言いかけて力尽きた。恋人の左腕には包帯がまかれ、血のにじん だ二の腕には手首がなかった。 「まあかわいそうに。せっかくあなたと晴れて自由の身になれると 喜んでここで待っていたものを」 兵士たちのうしろから王女が現われた。 男が短剣を振りかざして王女にむかった。しかし、男の突進は兵 士たちの槍で食い止められた。男の懐から指輪をはめた手首が落ち た。 折り重なった恋人同士を置き去りに城に戻る王女の顔は、しかし 悲しげだった。遊びはもう終わってしまったのだ。また新しい楽し みを探さなければならない。 太陽に追われて輝きを失いつつある月は、それでも最後の光を砂 漠の上の指輪に与えていた。 <了>
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