短編 #0389の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
:ミルクホールワルツ どんな未来を予想したにせよ、誰がこんな未来を想像し得ただろうか。 男は……いや、彼の年齢から言えば、まだ少年といってもかまわないだろう。少年は 、カウンターの隅に腰をかけ、壁のTVに目をやった。 『……以上、19:30のニュースでした。なお、このニュースは1時間おきにお伝え しております。それでは、しばらくクラシックをお楽しみ下さい。演奏は』 事務的なと言うより機械的な台詞を並べているのは、ロボット・アナウンサーだろう 。 誰もが感傷に浸る今日、冷静にニュースを伝えられるなど。 「お客さん、なんにします」 初老のバーテンダーが無愛想に言う。 機械のように毎日毎日、正確に仕事をする習慣上来てしまったのだろう。 誰だってこんな日はロボットたちに仕事をまかせ、パーソナルシアターにでも隠る。 そうでなければ少年のように、懐古趣味のバーのカウンターに席を占め、こう言うの だ。 「ミルクを。あっためすぎないで」 決して広くないホールの中に、ちらほらと見える客は、申し合わせたようにミルクを 飲んでいた。 普段なら、アイスクリーム・ソーダやチョコレート・サンデー、カラフルなジェリー ビーンズとポップコーンを楽しむ人々であふれている。 楽しむ?いや、今日は何者をも楽しませない出来事がある日だ。避けられない破滅の 予感、とでもいうものが。 希望があればアルコール飲料も出る。あくまで希望があれば、だが。 少々大きめのパーソナル2Dシアターは、ひっきりなしにホームコメディを流してい る。 大昔にあったという映画館の、小型版だ。5、6人の客が、口を開けて画面に見入っ ている。 白黒だったりカラーだったり。大柄の金髪美人が、大きな口を開けて笑っていた。 蜂蜜とバニラで味を付けた、なつかしいミルクがビスケットと一緒に出される。 くるくる回って溶ける金色の蜂蜜を眺めていると、涙がこぼれそうになった。 「おかあさん」 彼の母親は保育ロボットで、卵子提供者は250年も前に死んでいたのだが。 なぜ、見たこともない「母親」という存在に涙しなければならないのだろう。 あたりさわりのない音楽を流し続けていたTVが、ぽつりと止まった。 誰もがおしゃべりをやめる。バーテンダーは溜息ひとつ、ざわめき続ける2Dシアタ ーを切りに…… 『ここで臨時ニュースを申し上げます』 足が止まった。明るく騒がしい音楽と、合成された笑い声。 遥か昔のホームコメディ。調子の狂った忙しいワルツ。 楽しく豊かだった古き良き時代。 『……臨時ニュースを申し上げます。先ほど19:58に、人類最後の女性アマリア・ グリーンさんが心不全のため、入院先の病院で亡くなりました。89歳でした。 政府ではこの若すぎる死を悼み、本番今晩23:00よりウーマンズ・メモリアル・ ホールで追悼式を行います。アマリアさんの葬儀その他の決定は、この後、20:30 より記者会見を行い、発表されます。さて、アマリアさんの死にあたりまして国連では ……』 「おかあさん」 誰ともなくつぶやき、店内は力ないすすり泣きで満たされる。 遥か昔、未来の幻想が様々に描かれた時代。どんな物語でも先に滅亡するのは男だっ た。 人類の寿命が延び、出生率が下がり、そして…… 『みなさん、それでも人類は繁栄して行かねばなりません!我々を生み出した母は死に ました、しかし、これは人類という種の一つの脱皮、進化と考えて良いのではないでし ょうか。母よさらば、われわれ、あなた方の子供達は……』 街頭宣伝車の男は最後までしゃべれず、群衆の無気力な怒りに飲み込まれていった。 ロボットが動かすカメラだけが無感動に、だが感傷的なふりをして悲しげに働く。 今日42歳になった少年は。 西暦2178年。人類の平均年齢は230歳を越えようとしていた。
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