短編 #0339の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
出動! おたんびマーク3 「んで、何? もういっぺん言ってよ」 「だから、美形探査機だって」 「な、んですって」 私の声は聞きなおすほどに切れそうになっていた。三井はお気楽な顔つきで、にこ にこと私を見ている。こいつは分かっていないのだ。私はそういった言葉を聞きたく ないのだ。そんな物に関わりたくないのだ。どうしてこんなのと知り合いなのだろう 。おまけにどうして事あるごとに、こいつは私に話を持ってくるんだ。 三井は私の険悪な表情に気づく様子は全くなく、机の上に置かれた、どう考えたっ て胡散臭いとしか表現のしようがない代物の説明を、得々として始めた。 「世紀の大発明の最初の実験に立ち会えるのよ。真名って幸せもんだわ。これはね、 もう真名だから言っちゃうんだよお。他の人には秘密にしてね。地球上の女が泣いて 喜ぶ、なんと美形を簡単に捜し出すという装置だ」 どうだ参ったかというように三井は言った。机の上のブルーグレーのボックス型を したそれは、一見工具箱の様に見えた。本当に工具箱なら私はどんなに幸せだろう。 「ただ、単に街をぼけっと歩いたって、そうは簡単に美形って見つからないのよ。な かなか麗しい奴っていないでしょ。何でかねえ。で、私は考えたわけだ。来るのを待 ってちゃいけない。ここはやっぱり自ら探さなくっちゃね。積極的な姿勢が己の道を 切り開くのよ。あ、なんていい言葉。あたしの座右の銘にしよっと。と言うわけで、 天才であるあたしは、美形を見つけてくれる装置を発明したわけ。自動的に発見して 、いるところまで連れて行ってくれんのよ。これがあれば、もう身近に美形がいなく っても怖くない」 三井は力を込めて言った。私ゃあんたが怖いよ。 装置はその異常な用途の割りには、地味な外観をしている。すっきりとした金属製 の箱で、特にこれといった装飾は無く、ただ横にスイッチらしきものと、小さなラン プがいくつか付いていた。ランプは、今は何も点灯していない。蓋を開いて中を覗い てみる。中もやはり、製作者同様に思いっきり胡散臭かった。 配線がごちゃごちゃと絡まり合って、その中で青やら赤やらの電飾が十数個断続的 に光っていた。青い光と赤い光は混じり合って紫になっている。その紫も、ある時は 赤味が勝っており、ある時は青味が勝っていた。色々な色調の紫が現れては消えるこ とを繰り返し、箱の中は紫色の異様な世界を作りだしており、とてもこの世の物とは 思えない。異次元空間を覗いてしまった気がして、私は蓋を閉めると頭を抱えた。 「正式名称はね、オタンビマーク3よ」 よく見れば、箱の下のほうに「オタンビマーク3」と赤い飾り文字で、ちゃんと書 いてある。レタリングもきれいにしてあった。 「こんなんの試作品二つも作ったの」 「ううん。これが一号機だよ」三井は首を振る。 「マーク何とかって付けると、かっこいいかなって思って。車とかパソコンによく付 いてるじゃない」 三井は箱型機械を担ぎ上げる。箱には肩に掛ける幅の広い紐が付いているので、三 井はそれを肩に斜めに渡して、すっくと立った。 「どこ行くの?」 「街んなか。あたしの部屋でこの機械使っても、押入れに美形が隠れているわけない もん。広く世間で捜してこそ意味がある」 「ふうん、いってらっしゃい」 「真名も行くんだよ」当然といったふうに三井は言う。私はひっくり返りかけた。 「どうして私が一緒に行かなきゃならないの」 「付き合い悪いと出世しないよ、真名。こんな機械一人で持ち歩くと重たいもの。交 代で持とうね」 三井は言うと、逃げかけた私を押して無理やり部屋から出そうとする。 「ちょっとやめてよ」 こいつ細っこいくせに、なんて馬鹿力なの。やめて、私こんな機械と一緒に、街中 うろうろなんてしたくないよお。私はあんたと違って恥ってもんを知っているのよ。 嫌だっての。やだよお。私がどんな悪いことをしたっての。どうしてこんな目に遇わ ないといけないの。やめてえ。いやだああああ! 無理やり付添いをやらされるはめになった私は、せめてできるだけ人のいないとこ ろを探した。三井は人の多いところがいいと言ったが、それにはとても妥協ができな かった。まず第四ビルの横手の広場に行く。ここは余り人通りがないので、こんなこ っぱずかしいものを扱うには丁度良いだろう。スイッチを入れると「オタンビマーク 3」はウインと、なかなかに近未来的な音を立てて赤いランプを一つ明滅させた。 「これであとは待つだけよ」 私たちは二時間その広場で待った。それはそれは長い時であった。何もする事がな いと、どうして時間はあんなにも長いのであろうか。春まだ浅い風は寒く、行き交う 人の視線は冷たい。 なにやっとんじゃこいつら。人々がそう考えていることは、別にテレパシーなどな くても容易に分かる。分からないのは三井ぐらいであろう。 そして二時間後にやっと引きが来たのだ。 「オタンビマーク3」の肩紐を掛けたまま、私は花壇の縁に座っていたのだが、別に 立とうと思ったわけでもないのに、私の体は勝手に立ち上がると歩きだした。餌に食 いついた魚に引っ張られるように、私は引きずられていった。 「ちょっと何よこれ。三井!」 焦る私に三井は意気揚々としてついてきた。 「やった。ついに見つかったのよ。私たちの行く先には、必ずや美形がいるはず」 私たちは、すぐ側にある階段から地下街に潜った。そこにいるのかと思ったら、更 に雑踏を通り抜け、地下鉄の駅に着いた。駅にいるのかと思ったが、そうではないら しい。仕方がないので、どこまで乗るのか分からないが、地下鉄の切符を買う。電車 に乗る。降りる。乗り変える。降りる。また乗り変える。降りる。バスに乗る。もう ここまで来ればやけくそだ。どこまでも行くぞ。バスを降りる。住宅地を歩く。どこ までも歩く。家ばかりで人通りがない。 あまりに遠くまで来てしまったために当初の目的を忘れそうになったが、確か私た ちは美形を探しているはずだ。こんなに人がいなくて大丈夫なんだろうか。それとも 家の中にいるのか。それはまずい。いくらなんでも、私たち美形を探してるんですっ て言って、インタフォンを押すわけにはいかない。そこまで、そう、そこまでは私た らだってできない繙繧ヘずである。 突然、「オタンビマーク3」はド派手な音を立てた。チャラリンコンといった音色 なのだが、とにかく音が大きい。私はびっくりして飛び上がった。 「ここよ! ここから半径一メートル以内に美形がいるはず!」 静かな住宅地で、三井の声は思いっきり響いた。こいつには恥と言う概念がないの であろうか。数少ない通行人が通りがかり、私たちに一瞬おびえた目を向けると、慌 てて視線を逸らし足早に去って行った。無理もない。私も一緒に立ち去りたいぐらい である。 三井はきょろきょろとあたりを見渡している。私も探す。半径一メートル以内とい うならすぐ側にいるわけで見渡す必要も無いはずだが、私たちのいる道には今は人通 りもなく、美形どころか人っこ一人いはしない。 「いないじゃない」 「そんなはずない」三井は胸を張る。 「あたし、この機械には絶対の自信があるのよ」 三井がそう言い切ったとき、すぐ側で犬がわんと吠えた。私たちは振り返った。 「わあ、真名。見てよ、この子。すっごくきれい」 私たちが立っていたすぐ側で、家の門扉の中にいたのは本当に可愛い犬だった。中 型の洋犬で、茶色の毛が、長くて艶やかに輝いている。なかなかにノーブルな印象で あった。なんという種類なのかは知らないが、きっと血統書があるに違いない。 「可愛いなあ。可愛い。あんたみたいにきれいな子見たの、初めてだな」 三井は喜んで犬の鼻っ柱を撫でているが、私の方は暗澹たる思いになった。 「三井」暗い声で私は言った。 「びけーって、この犬のこと?」 「へっ?」三井はまだ犬を撫で回しながら、私の方を向いた。 「あんた犬の美形探すために、これ作ったの?」 「あの、あたしって一応ノーマルな人間だから、動物を恋人に持つにはちょっと抵抗 が」 「誰がそんなこと言ってんのよ。あんたがノーマルなら、アブノーマルな人間は三途 の川渡って探してこいってのよ。そうじゃなくて、この機械が捜し出したのって、こ の犬じゃないの?」 三井はじっと犬の顔を見つめていた。ぺろりと犬に鼻を舐められて、 「そうみたい。この子、ホントにあたし好みだもん。可愛いなあ」 そして犬の首をぎゅっと抱いた。私は後ろから三井の頭を殴った。 その後、三井は機械の蓋を開けて何か調整をした。調整を加えられた「オタンビマ ーク3」が見つけ出したのは、猫(道端にいた)、セキセイインコ、グッピー(この 二つはペットショップにいた。ちなみに別々の店である)、フンボルトペンギン(海 遊館にまで行った)の美形であった。 私はすっかり疲れ果てて「オタンビマーク3」を床の上に置いた。結局私がずっと この機械を担いでいた。私はこんな馬鹿げた機械を肩から下げて、街中を昼日中から うろうろしていたのだ。この一日における最大の成果は、こんなもん担いで街を練り 歩いた私はもう嫁にはいけん、という確信が得られたいうことである。 「にしても、おかしいなあ。どうして美形見つかんないんだろ」 三井は心底不思議そうな顔をしている。今日一日は一体何だったのだろう。虚しい ・・・。大丸の大展望室から薄墨に沈む街を見ながら、私は吐息を付いた。 私の横で、三井は展望室の床に座りこみ、相変わらず疲れを知らぬ精力で機械の調 整を行っていた。何のパフォーマンスかと思い取り囲んでいる人までいたが、三井は 気にはしない。実験の失敗にも関わらず、三井は全くめげていない。その根性だけは 褒めてもいいかもかしれない。付け上がるといけないので、言わないが。 いい加減に切り上げさせようと、床に座っている三井に屈み込んで肩を叩こうとし たとき、三井は突如立ち上がった。三井の頭はまともに私の顎にぶつかった。 「ようし。これでグレードアップ間違いなし! 強力にパワーを上げたぞ。今度こそ やるわよ! あれ、真名? どこ行ったの。真名?」 「ここ」 私は三井の後ろで、痛む顎に手を当ててしゃがみ込んで言った。三井は怪訝な顔で 振り返り、 「何やってるの? 虫歯でも痛むの? さっさと歯医者行った方がいいよ」 「忠告、感謝するわ」 もう、逆らう気力が起きない。 「もう帰ろう」 「ん、待って。もう一回だけ。ね、これで終わるから。これで最後」 「もう、これで本当に最後だよ」 「分かってるって。これでお終い。だからちょっと待ってよ」 私は待った。三時間立っても「オタンビマーク3」はなんの反応も示さず、ただ日 だけがとっぷりと暮れた。 三井はおもむろに腕を組んでおごそかに宣言した。 「どうやら実験は失敗である」 「どうやら」はいらないと、私はその時思っていた。財布がすかんぴんのくせに腹が 減ったなどと抜かす三井に、私は晩御飯を奢る羽目になってしまった。 世紀の実験からしばらく後、三井の家に行くと三井はまだ「オタンビマーク3」を いじりまわしていた。「おたんびマーク3」の赤いランプが、ピカピカ光って私を迎 えた。 「まだ、びけー探査機、作るつもりなの?」 「そりゃ作るよう。なんたって地球の全女性の夢が掛かってるからね」 こりん奴だ。 やれやれと思いながら、私は三井のうちの新聞を開いた。私のところで取っている のとは違うので読んでみようと思う。小さな囲み記事があった。それは私の家の新聞 では載っていなかったので、まったくの穴うめのような物だったのだろう。『地球、 旅に出る?』と見出しにある。 『オーストラリアのアロン天文研究所のアン・トロッタ博士(39) の計算によると、 地球は従来の軌道を外れつつあるという。トロッタ博士によると、これはつい一週間 前に突然始まったことだそうである。だが、もちろん地球が軌道を外れるなんの根拠 もなく、何らかの計算あるいはデータミスによるもので、現在アロン研究所ではプロ グラムバグなどの原因の究明に急いでいる。もしこの計算が正しいのならば、地球は そのうちに太陽系も脱出し、長い長い旅行につくことになる。』 ふうんと、新聞から顔を上げた私の視線の先に、「おたんびマーク3」がいた。赤 いランプが嬉しそうに瞬き続けている。その輝きを見ている内に、私は嫌な思いに捕 らわれた。 「三井、ねえ」 「なに?」 「この機械、もしかしてずっと動いているの?」 「あ、ホントだあ。スイッチ入れっぱなしだね。うん、一週間前から動いてるよ」 三井は屈託なく言う。 「三井、この記事読んで」 私は三井に新聞を投げた。三井は頭から新聞を被った。 まさか。いや、きっと私の予想どおりなのだろう。パワーアップされた「オタンビ マーク3」は美形のもとに私たちを連れていっているのだ。地球ごと、その異星の美 形の元にまで、私たちを連れていくつもりなのだ。 「スイッチ切らなきゃ!」 「そんなの駄目」 三井は「オタンビマーク3」を抱えると、私に触らせないようにした。 「何すんのよ。それ止めないと、地球どっかへ行っちゃうのよ」 「だって美形に会いたいもの」 「そんな場合じゃないでしょ」 「宇宙一の美形だよお。どんなことしたって見たい。そのためにはたとえ故郷を遠く 離れようとも一一」 「ばか! 太陽を離れて、地球上で生物が生きているわけないでしょ!」 三井は考えていた。しばらくして、抱えていた機械を下に降ろすと「そうだった」 とあっさりスイッチをOFFにした。 私は脱力した。地球は救われたのである。 数日後会った三井は、今度は太陽系ごと移動できる装置を開発中だと言った。
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