短編 #0308の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
この話は、まだ神と人間がつかず離れずの程良い関係を持っていた時代のことです。 西アジアの険しい山の中に小さな村がありました。その村を取り囲むように神が住む という山が九十ばかり存在し、その小さき村の少なき人々は、困ったことがあれば、 あっちを拝みこっちを拝みでとても幸せでした。子羊がメェ〜と鳴いては、あたりか らクスクスと笑い声が聞こえます。 そんな村を取り囲む山々の中で一つだけ、どんな神様が住んでいるのか誰も知らな い山がありました。でも、誰も気にしません。今知っている山だけで幸せに暮らせる からです。 そんなある日、一人の村人が、その山が時おり、大気の霞を深く吸い込むのに興味 を持ち、登る決心をしました。登ることにはなんの苦労もありません、神様達が護っ てくれるからです。 村人は大気を吸い込む洞穴を見つけました。中にはいると、一人の年老いた神様が いました。 「あなたは、織物の神様ですか」 村人がそう問いかけたのも無理はありません、神様は見事な糸を紡ぎ、その糸で織っ たようなこれまた見事な衣をまとっていたからです。村人が問いかけると、神様は深 い皺の刻まれた顔をさらにしわくちゃに、ニッコリと笑いました。それが返事でした。 どうやら違うようです。 「とても見事な糸ですねえ、何から取っているんです」 村人の問いかけに、神様は紡いでいる糸の先にある、なんだかモヤモヤした半透明の 球体を指さしました。そのモヤモヤの中で人差し指ほど大きさの透けるように真っ白 なイモ虫のような物がクネクネ動いています。それはくねりながら細い細い輝く糸を 勢い良く吹き出しています。その様子に村人は見とれていました。すると、みるみる 間に、そのイモ虫は小さく縮んで消えてなくなりました。消えてなくなると、また、 次のイモ虫がモヤモヤの中に現れて糸を吐き出していきます。ずっと見てても飽きま せん。 「この糸はな、忘れ去られた記憶の糸なんじゃよ」 神様の声に村人はふりかえり、ニッコリ笑った神様の皺だらけの顔を見ました。 「この糸と、神様の着ている衣はいいとしても、あなたはなんの神様なのですか?」 神様はニッコリ笑いました。 「とてもとても大切な神様なのだよ、私は。私が着ているこの衣もこの糸で織ってあ ってな、記憶をずっとここに留めてあるんじゃよ」 誰もこの神様を知らないし、拝まないのも無理はないなと、村人は思いました。 「ふ〜ん」 村人はそう答えて、モヤモヤの中のイモ虫に目を移しました。村人は一つ、悪戯を思 いつきました。神様の着ている衣の解れた糸をイモ虫の吐き出す糸につないだのです。 そうして村人は山を下りました。 それから村は以前ほど幸せではなくなりました。村を取り囲む山の神々は仕事を忘 れ、村人は自分が誰だか忘れていきました。村人は何がなんだったのか分からなくな り、村を離れていきます。そして、地の果てまで人間は広がりました。 だから私たちも自分が誰なのか知りません。きっと、誰も知らないあの神様も自分 が何をしているのか分からなくなって、きっと今でも記憶の糸を紡いでいるのでしょ う、衣を織ることもなく。
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