短編 #0134の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
それは、8月の終りに近い、夕方には涼しくて秋が近いことを感じさせらて夜 にはジョニ黒を少し飲んで好い気分で眠った、夏の終りを感じる頃のことだった。 夜中に、ふと目覚めた。カーテンをそっとかき分けると、外は月の光で明るく、 月影さえ出来ていた。 時計を見ると丁度2時。うおう、おおおっと身奮いするような恐怖心が身体全 体に急に湧き起ってきた。 真夜中の冷気と静けさの中で異次元の世界に吸い込まれそうな雰囲気から逃れ るために、霊力による呪縛に陥るまいとして、布団を被って雑念を消して眠り込 もうと努力した。しかし、頭は雑念にすぐ支配されそうに成り、数をかぞえたり して、それでも眠れそうに無いので羊を想像して数えた。 この時、小さいけどはっきりと戸を叩くような音がした。とんとんとん、とん とん。どうも玄関の戸を叩いているような音だ。こんな夜中に戸を叩くなんて、 とんでも無い奴だと理性を奮い搾る。 真夜中の2時に誰かが尋ねてくるなんて……、こなことは有り得ないと思い直 し、再び眠るために布団で頭をすっぽりと隠した。けど、トントントン、トント ン、暫くしてまたトントントンと戸が叩かれた。 思い切って、玄関に出ることにした。夜中の訪問者に対して、すぐに戸の鍵を 外して開けるなんて軽率なことは出来ない。 「何方でしょうか?」と家の中から訪問者に問いかけてみた。 「近くを通りかかった者で御座いますが、喉が酷く渇いたので、酒を少し飲ませ て貰えないやろか? 勿論ウイスキでも良いのですが……」 想像も出来ないような返答に、私はびっくりした。 まず、玄関の外側の電灯をつけて、横にある窓から外の様子を見た。 丈夫な黒っぽい着物、そして腰には太い帯でしっかりとで締められていた。 髪は長かったが奇麗に整えてあった。年齢は60歳くらい。足腰はしっかりし ていて、どう見ても幽霊とかには見えない。だからと言って、戸を開けて見知ら ぬ人を家の中に入れるわけにはいかない。それで暫く躊躇して居た。 この時、異変が起きた。戸が開けられ、見知らぬ老人が入ってきたのだ。 時たまに、鍵をかけるのを忘れることが有るので、偶然とも考えられる。だか ら奇跡が起きたのでは無いかも知れない。すっと戸が開けられ、穏やかそうだが 白髪が目立つ老人が玄関に立っていた。 よく見ると、左手には見たことも無いような数珠を持っている。数珠というよ り何かの儀式のためのものかも知れない。大きなハート形の水晶を中心にして2 0個程の白い玉で輪を作っている。 見知らぬ老人は左手でしっかりと直径拾数センチ程もある水晶の玉を少し持ち 上げて会釈した。玉は電灯の光りに反射し不気味なほど奇麗であった。 「私、通りすがりの者で、旅人です。喉が渇いて、それで、酒かウイスキが有り ましたら、杯に2杯程でも頂けないでしょうか。どうも何処かで財布を落して仕 舞ったらしく自動販売機で酒を買えないので途方にくれて居たのです。歳をとり ますと、身体が、アルコール気が無くなると、寒くなるようで、それに、昔のこ とが止め処も無く思い出されてきて悲しく成ってしまうのです。涙が……、ほら ……、ご覧下さい。着物が濡れて居るでしょう。だから無理を承知でお願いに上 がったのです」 なるほど、確かに、着物の胸のとこや袖とかは、一目見て解るくらいに濡れて いる。それが電灯の光で鈍く反射していた。 「暫くお待ち下さい。すぐ台所から持ってきます」 私は台所で、ジョーニ・ウオカーと小さなコップ、それに水差しを御盆に載せ た。戻る時玄関を見ると、老人は数珠のような大きな水晶玉に向かって、ぶつぶ つ話しているように見えた。 私は丁寧にウイスキを注いだ。老人は恭しくコップにウイスキを受け止めて、 ゆっくりと口に持っていき飲む。コップはすぐに空に成った。私は、もう一杯ウ イスキを注いだ。老人は嬉しそうな顔に成り、一杯飲む毎に礼をして感謝の気持 を表現した。 「こんなに美味しいウイスキ始めてや! 輸入品でしょう! うめえわああ。何 とお礼を言って良いか……、言葉が浮かばない程ですにゃ。あはははは」 このウイスキは一週間前に格安の量販店で買ったジョニー・ウオカー黒である んにゃと思い出しながら、まだ数杯しか飲んでいないこのウイスキを、この見知 らぬ老人が半分近くにまでも飲んだのを見て、呆れて仕舞った。 老人は私の気持を察したのでしょうか、ありがとうと言って丁寧に頭を下げた 後、月明りの外に出て行った。 私は、やっと帰ってくれたことに安堵して、戸に鍵をかけようとした。でも少 し気に成り、そっと、老人が去ったと思われる道路の方を見た。しかし、もう何 処にも見知らぬ老人の姿は見えなかった。 まだ、夜中の2時20分、寝ようにも目が覚めてしまっていた。ウイスキを数 滴、ほんの僅か口の中に垂らすようにして飲む。好い香りが口のなか一杯に広が り、好い気分に成って寝床に戻った。 いつものように、朝6時に目覚めた。ゆうべ見た夢の内容が妙にはっきりと覚 えていた。生まれ変わったような不思議な気分になっていた。 墓が並んでいる月明りの火葬場で、老人ら4、5人がウイスキをチビリチビリ 飲みながら、わいわいガヤガヤ騒いでいる。不思議に思って近付いて見た。 「さっき、立ち寄ったとこの人にすっかり御馳走になって、これで、大丈夫や! 安心して帰れる。近頃の人は、夜中に訪問すると気味悪がって誰も戸を開いてく れない。ほんとに苦労するぜ」 「ほんとや、これも時世やな。家の作りに隙間がないから入り難いし、入ったと しても明るすぎて酒とかウイスキを持ちだし難いからなあ」 見知らぬ老人は持っていた大きな水晶の玉からウイスキを注ぎ出して皆で飲ん でいる。私は身体が夜露で冷たくなるのを我慢して不思議な集団を見ていた。老 人達は楽しそうに飲み騒いで、しきりにお互いの無事を喜んでいた。 しかし、何かが……、すぐには確認出来ないけど、変化が起こっていた。老人 達の身体が次第に薄くなり、消えてしまった。 ***** 完 *****
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