短編 #0118の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
1993年8月17日、夏休みも終り、仕事に戻った。 産業界は、バブルとか言われて銭が幾らでも余っていた時代が去り、社運をか けて存続を模索し始めて居る。ヤスは、ぽつりぽつりと社員が会社を去って行く のを見て、他人事だと度外視も出来ず、憂鬱な日々が続いていた。仕事量も減っ てきた。最近は本を読むことが多くなった。 ヤスには、今日までに一所懸命に働いて作った3千万円の貯蓄が有る。この資 金を利用して何処かに店を借りて経営をしたいと考えている。妻は元気だし子供 もせびるだけが得意の脳無しだが元気に学校に通っている。おじいちゃんはゲー ト・ボールより、最近は、パチンコに通っているらしい。 これから、少ない資金を元手に家族5人が生活できるには、何の職業が適すの だろうか? サービス業か製造業か? 取り次ぎ店あるいは仲買人か。早速、経 営についての本を3冊買って帰った。 妻は、夫のヤスが熱心に経営するためにノウハウ書を読んでいるのを見て、心 配顔で話しかけた。 「景気悪くなって来たでしょ! 今から新しく経営をするのは大変よ、何処の家 でも最近財布の紐が堅くなってきたから」 ヤスは、独立するなら今がいい、不景気な時に十分準備して、大丈夫かどうか を見極めて行動を起こすには丁度良い頃だと、思っている。 何でもそうだが、商売は時流に乗っていないと、失敗してしまう。だとすると、 現在は、将来は、何の職業がし易いのだろうか? 「あなた、本なんか読んでないで……、車庫横の空き地に野菜でも植えましょう よ。最近は、野菜が高くて、倍くらいするのよ」 「今年の梅雨は長かったから、ずっと降りっぱなしだったからな。一ヶ月もすれ ば、いつもの値段に戻るよ。だけど、家の中が黴臭くっていけないや」 ヤスは、妻の生活危機には無関心で、再び経営の本を読み始めた。妻は、仕方 無く、おじいちゃんにも畑作りについて話した。 雨上がりのある日、おじいちゃんは庭に出て、花や小さな木を移植して、車庫 横に10坪程の畑作りの準備をした。ヤスは、ことの重大さに気付き、黙って見 過ごすわけにもいかず、土曜日の午後、畑の周囲に石を並べて完成させた。 妻は大喜びで、人参や大根、白菜の種を買って来た。 「キャベツが500円、ジャガ芋が430円、かぼちゃ1個450円・・・」 妻は台所に戻り、スーパーのレシート見ながら、野菜の値段を大きな声で読み 始めた。 「ねえ、農業しましょうよ。花と野菜を栽培するの。健康にも好いし」 妻は上機嫌に成り、ヤスの為にビールをコップに注ぎながら言った。 ヤスは「農業は天気の影響を受け易いからハウス栽培にしないと決った量の収 穫を出来ないのだよ。それに、畑を誰かから借りないと……、借りるのって手続 きが複雑な気がするしな」と、妻に説明した。 妻は夫の説明に聞き入りながらも「私達の食べる分くらいは自分達で栽培する のって素晴らしい生き方だと思うわ。自然と共に生活すると言うのかしら」と、 顔を紅潮させて話した。 「野菜には、俺達が食べる前に、虫達が最初に食べるのだよ。知ってるか」 「それって、無農薬栽培って言うのでしょ、きっと美味しいのよ」 ヤスはビールを飲みながら、上機嫌の妻に向かって「農業は辛いんだよ。雨降 ったらカッパ着て仕事だよ」と、言ってからかった。 「採り立ての野菜をすぐに食べられるって、素敵よ」妻は至って快活だ。 野菜もそうだが、世の中は、喰うか喰われるかで、いかなる生物も自然界の摂 理に従っている。 ヤスは妻に向かって、快い酔いにまかせて喋り始めた。 「日常生活に必要な五つの元素、即ち、水、火、金、木、土が有るとか言われて いるけどさ。水は火に勝ち、土は水に勝つ。木は土に勝ち金は木に勝つ。火は金 に勝ち水は火に勝つ。中国の昔の偉人は、うめえこと言ったものだ」 妻は、夫のへりくつを聞いていた。 「世の中は、勝ち負けでは無いでしょう。だって、土と火、金と水、木のどれが 無くても生活が成り立た無いですもの」 違うんだよなあ、意味が少し……、と思いながら、ヤスはビールをゆっくりと 口に運んだ。 「世の中は、物を食べて、不用になったものを捨てて、そして絶えず外敵から身 を護っていないと、食べられてしまうんだ」 妻は、段々と話に乗ってきた。 「だったら、食べられるものは弱くて、食べる立場の時は強いの? 水は火を消 すけど、火は水を蒸気にして仕舞うわ。火と水で料理を作れるしな。だから勝ち 負けでは、ありませんのよ」 ヤスは、妻の思わぬ反撃に、顔を真っ赤にしてビールをごくりと飲んだ。 「火は水より熱いだろ。だから火を水で静めて利用するのさ。火は物を灰にして 仕舞うけど、水はそれを防ぐだろ。だから水の方が強いよ」 妻は、夫にビールをゆっくりと注いで、畑が出来たことに感謝の気持を示した。 「野菜作りで鍬とかの金属製品が無かったらどうするんだい? 野菜栽培出来な いよ」ヤスは反撃のつもりで言ってみた。 「だったら、無意味な木を捨てて、金だけで生活してみなさいよ」 「違うんだよ。金が無くては、木を営業的に栽培出来ないのさ」 妻は、少し悲しく成りながら、ビールを注いだ。 「で、あなた! 店持つ話、どうなさるの?」 「これからが大事な時なのだ。自分の適性も大事だが、市場調査それに、儲けら れる職業に就かないといけないしな」 ヤスは、飲んだ後のビール瓶や空の皿などをテーブルに残したまま、寝室に向 かった。 ***** 完 *****
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