短編 #0084の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
主要登場人物 司 智行(つかさ さとゆき) 司家の第一子。 司 成智(つかさ なりとも) 智行の従兄で友人。 海威 (かい) 司家の正嫡。 「おまえはどこまでお人好しなんだ」 成智はなかば怒ったように吐き出した。 人気のない城の裏庭の日暮れどき。 なかば縁側にもたれて、僕は成智の声を聞いている。 「正嫡ってだけで、あんな子供にああまで見下されて、悔しくないのか」 僕は笑った。 「正嫡ってだけなんていうけど、正嫡っていうのは正式なお家の若君ってことだよ。僕 みたいな側室腹の人間とはわけが違うんだ。あの方の態度は当然のことさ」 いかにも尤もらしく僕は言ってみせる。 「当然だぁ?」と成智は言い返してきた。 「お前は、司の家のなかでも有数の策士。そして武将だ。お前の血筋がどうあれ、実力 主義のこの時代、あいつはもっとお前に対して礼をつくしてしかるべきなんだ。それを 廊下まで聞こえるような声でやたら『正嫡』の権威をふりかざして・・。つきあってや るお前もお前だ。あんな弟に『優しい兄』でいてやることなんてないじゃないか」 「お前、もしかして立ち聞きしてたとか?」 「待ち合わせの刻限を過ぎてもお前が来ないからさ。お前を探しながら廊下を歩いてた ら、嫌でも耳に入ってきたんだよ。俺が邪魔しにでなかったら、きっと延々と続いてい たぞ」 苦笑する僕をみて成智は憤然と踵をかえした。 「お前はよく平気でいられるな」 成智の捨て台詞が心に刺さる。 僕は成智とは正反対の、自室の方向に踵をかえした。 彼、司成智は僕の従兄にあたる。戦というと、必ずといっていいほど大手柄をたて、 司家の当主である父上の覚えもめでたい。そして僕は司智行。司家の第一子で、つい最 近まで正嫡の地位にあったのだけれど、父上の正室が男子を出生した時点で正嫡の地位 は正室腹の弟・海威に譲らされた。 成智。君は僕がこんな状況にあって、本当に平気でいると思ってるのか? 僕はあの子が生まれてから、いや、父上の正妻が懐妊したことがわかってから、もう、 平静さを失っているというのに。悔しくないのかなんて、そんなこと口にするまでもな いさ。本当の僕はとてつもなく気位が高いんだから。 あの高飛車な弟になにかを言われるたび、僕は憎悪と悔しさで気が狂いそうになる。 それを綺麗に隠してあいつの『理想の兄』を演じているのには、ちゃんとした理由があ る。 君が本当に僕のことを『お人好し』だなんて思っているとしたら、それはとんだ誤解だ よ。君だっていったじゃないか。僕は有数の策士だって。 あいつにとって『理想の兄』というのは、どんなに『正嫡』の権威をふりかざしても 決して自分を嫌ったりしない人間のこと。 僕は敵将の性格や気持ちを読むことが得意 だから、まして同じ城で暮らしている幼い弟の考えを読むことなんて実に簡単なことだ った。 海威は、僕に嫉妬と畏怖、そして思慕の念を同時に持ち合わせているようだった。 嫉妬と畏怖があるから『正嫡』の権威をふりかざす。『兄』という存在に対する思慕が あるから、僕をそばから離したがらない。だから僕はほぼ一日中海威のそばにいること になる。そして海威との身分の違いを痛い程聞かされ続ける。僕は、微笑しながら海威 の声を聞いている。醜い本性なんてみせたりしない。 部屋についた。もう明かりの必要な刻限だったけど、僕はあえてつけさせなかった。 僕は、死ぬまで『理想の兄』を演じる。 とりあえずは、海威の『思慕』を致死量まで上げるため。 そして僕は9年かけて、海威の『思慕』を致死量にまで上げた。 あの子は僕を『兄上』と呼ぶようになっていたのさ。それが気付く鍵。 そして最後に。 僕は自分を殺すことで、海威を生き人形に変える。 生きることへの執着なんて微塵もない。僕は海威によって散々に辱められた。家臣たち の面前で。父上の面前で。成智の面前で。辱められた自分を知っている人達が息をして いるこの世で、生きていたいとは思わない。 海威は死なない。死にたくても死ぬことなんてできない。あの子は『生きた人形』にな る。 もうすぐ終わる。僕のささやかな計りごとは終章にさしかかったようだ。 天奏の刺客が、城内に蠢いている。 ★ その夜は大雨だった。天も裂けんばかりに稲妻がはしる。そして轟音のような雷。 女子供の悲鳴を聞くともなしに聞きながら、僕はじっと稲妻をながめていた。 ふいにちいさな気配に気がついた。ぼくは反射的に微笑の面をつけた。 「海威さま?」 僕は襖を開けてやった。海威はうつむいたまま枕をかかえて震えている。雷が苦手なの だ。僕は障子を閉めにいきながら言った。 「どうぞ、お入りください」 うなずいて部屋に入ってくる気配を感じた。障子を閉めて、僕は海威に向きなおった。 「今日は・・」 雷の音でかき消されそうな小さな声。 「すごい雷だな」 「そうですね」 僕は簡単に答えた。 「兄上が恐がるといけないと思って来てやった」 「有難うございます」 僕は褥に海威を導きながら言った。 今にも泣きだしそうな顔。昼間とはえらい違いだ。 褥のうえにうずくまって震えている海威に着物をかけてやる。そして僕も横になった。 と、その時、ほんのわずかに空気が動いた。 −来た。 僕は反射的に気付いた。天奏の刺客だ。 同時にザッと黒い影が天井から降りた。 真っすぐに海威をねらった小刀が稲妻の光を受けて鋭くひかる。 「あっ」 海威の声を聞いた気がした。 小刀が突き降ろされる。 僕は、海威のうえにうつぶせにたおれこんだ。 凄まじい熱。 刺された場所だ・・。ひどく・・あつい。 「兄上ッ」 海威の絶叫を聞いて、小姓たちがばらばらと部屋へ入ってきた。 「若君っ」 「曲者だッ」 「捕らえろッ」 刺客は足音もたてずに、部屋を飛び出したようだ。ばたばたと小姓たちが後を追う。 部屋は僕と海威だけになった。 意識が朦朧とするなかで、僕は言葉をつむいだ。これで、最後だ。 「海・・威さま」 「兄上ッ、兄上ッ」 悲鳴のような声を、夢見ごこちで聞いた。 「海・・は・・生き・・・さ・・」 意識は闇にのまれた。最後に聞いたのは血を吐くような絶叫・・。 ★ ・・海威。君に死は許されない。僕が許さない。 もっとも君は死を選ぶことはできないだろうね。君の命を守るために僕は身を挺したの だから。この事実は君を死なせてくれはしない。君はそういう子だ。そして君は生きた 人形になる。 いつか、君は本当の僕の気持ちに気付く日がくるかもしれない。あの刺客は僕が天奏 に根回しして差し向けたものだということがわかったら、君は生き地獄のなかから、僕 の本心を悟るだろう。悟ったところで、君は救われなんかしない。愛されていたという 巨大な自信が瓦解するだけ。 そう、僕は一生君を憎んでいたんだよ。 今も思ってる。僕は君だけは許せない。 ・・なのに、この小さな痛みはなんなのだろう・・。 −終−
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