短編 #0027の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ホテルの最上階のレストランに約束どおり、午後7時にリサは現れた。 私達はウェイ ターに案内されて窓際の席に座った。 窓ガラスの上の方には室内のシャンデリアがまるで星のように写っていた。そして外 には横浜の街の灯が無数に輝いていた。 「お誕生日、おめでとう。」 と私は静かに言って、リサとワイングラスをこつんと合わせた。リサは今日で20才に なった。私は彼女とは一回り年が離れているため他人からは恋人同士には見えるはずも なかった。 しかも彼女は若き日のオードリヘプバーンに似た美人であり素晴らしいドレスを着て いるのに対し、私はしわのよった古びたスーツを着た冴えない中年で、どうみても似合 わないカップルである。 「2年ぶりね。ずっとこの日を待っていたわ。昨日電話があったとき、本当にうれし かった。この2年間、音沙汰無しだったんだもの。心配してたのよ。」 リサはそう言いながら、大きな黒縁のサングラスをはずしハンカチで目頭を押さえた。 私はまともに彼女の顔を見ることが出来ずに、ふと窓に目をやるとキャンドルランプ で照らされたリサの横顔が写っていた。そしてそれが、今、売り出し中の大型女優、 浅香百合にそっくりであることに呆然としてしまった。しかし、そんなことがあるはず がなかった。彼女はリサ以外の何者でもないのだから。 「君が20才の誕生日には必ず2人きりでお祝いをするって約束したね。約束が果たせ てよかった。」 私には話さねばならないことがあった。しかし、まだどのように話せばいいのか迷って いた。その迷いを悟られまいと努めて笑顔を作り、この2年間の出来事には触れずに 専ら、次々に出て来る料理の話をした。 2年前、リサは高校3年生で私は担任だった。また、放課後のクラブ活動も化学部で 生徒と顧問の関係だった。彼女はいつの間にか私に対して好意を寄せるようになって いった。 ある日、実験室で2人きりになったとき、リサは私の目をじっと見て 「好きです。」 と言って、私の胸に顔を埋めて泣きだした。 私は思春期によくある事だと思い、「よしよし。」となだめた。 その日、彼女の様子が心配だったので家まで彼女を送って行った。ところが両親は 2人とも今夜は仕事で帰らないという。 「先生、今夜は泊まっていって。」 とリサは懇願した。 「それは出来ないよ。もう18なんだから、ご両親のいないときでも しっかりしなくちゃね。」 と私は玄関先で帰ろうとした。しかし、彼女はまた泣きだし、私を困らせた。 結局、彼女の心が落ち着くまで見届けようと思い、家の中に入った。 広いマンションでとりあえず食卓で彼女といろいろと学校の事を中心に話し合った。 悪い男友達にだまされたこと、両親が不仲であることなど彼女は精神的にかなり ダメージを受けていた。 だいぶ心も落ち着いてきたところを見計らって私は帰ろうとした。 「先生、ちょっと待ってて。」 とリサは言って奥の部屋に行ったかと思うとしばらくしてバスタオル1枚になって 私の前に現れた。そして、 「先生、好き。」 と言ってそのバスタオルを落とした。 私は異常なくらい冷静だった。この状況でどういう行動を取れば彼女の心を傷つけずに 済むのか、それだけを考えた。そして、彼女の行動を否定や非難せずに心の叫びを受け 入れてやることが真の教師たる者の行動だと信じた。 リサは私の胸に飛び込んできた。 私は優しく受け止めた。だが彼女の裸の体を両手で触ったとき男としての欲情が抑えき れぬ程、激しく襲ってきた。しかし私は懸命に堪えた。ところがそれからのリサの行動 は信じられないものだった。どこで覚えたのかまさに娼婦のような振舞いをしたのだ。 (あとで知ったのだが以前つきあっていた男友達から仕込まれたようだった。) 私の理性はそれに抵抗するほど強靭なものではなかった。もはや男と女の本能が命ず るままの行為に及んでいた。 そういうことがあって以来、私とリサは学校では努めて話をしないようにし、もちろん 彼女は放課後、化学部へ来ることはなかった。 しかし、週に1、2度、リサは私のマンションに来て関係を持っていた。 そのころには私もリサを深く愛するようになっていた。教師として、あるまじき事を しているのだということは充分わかっていた。しかし、私は彼女の肉体も心もすべて愛 するようになっており、それは教師としての立場を超えて、男と女の純粋な愛の形と なっていた。 しだいに私とリサの事は周囲の知れるところとなり、私は退職せざるを得ない状況 となったが、彼女は私の懸命の弁護で停学処分ですみ、退学は免れた。 私は引っ越す前日、リサに言った。 「僕は2年で生活する基盤をつくるよ。そして君が20才の誕生日に 僕は君に結婚を申し込むよ。だから君もこの2年間で君自信の生き方を 考えておいてほしい。」 リサは両手で顔を被って泣いた。 「待っているわ。20才の誕生日にあなたに会えることを・・・」 それ以上は声にならなかった。 2年後、こうやって約束通り、私はリサと会った。 しかし、この2年の間に私は事業に失敗し、5千万円もの借金をかかえてしまった。 とても結婚できる状況ではなかった。 (リサに謝り、結婚をやめるか、あと2、3年待ってもらうか、いや借金が返せるあて などないのだから、待たせるわけにはいくまい・・・。) 私の心は動揺していた。しかし、リサに対する愛情は増しこそすれ、減ってはいなかっ た。 食事が終わってもそのことを話すことなく、レストランを出た。 外は夜の帳に包まれており、4月だというのに肌寒かった。近くの公園のベンチに 2人とも腰掛けた。 しばらく、沈黙があった後、リサが少し微笑んで話し出した。 「私、高校を卒業した後、友達の紹介で芸能プロダクションに入ったの。そして浅香 百合の芸名で歌やお芝居の仕事をするようになったわ。今では、少し有名になってお金 もだいぶたまったの。」 「えっ、君が浅香百合・・。道理でよく似ていると思った。しかし、君のような有名人 が今ここにいていいのかい。」 「昨日はあなたからの電話を信じて実家にいたわ。そして今日はお休みをとってある の。あなたと過ごすためにね。」 と言ってリサはいたずらっぽい笑みを浮かべた。 私は本当の事を言わねばならないと思い、この2年間の事をすべて話した。そして、 もう別れたほうがよいと思い切って言った。リサの為にもそのほうがよいと思ったから だ。 (華やかな芸能界にいるリサにとって今の私は過去の人間かも知れない。いや、そうし なければならないのだ。リサにはこれからいくらでも素晴らしい男性との巡り会いがあ るはずだ。) 私はそう考え、リサの前に二度と現れるまいと思った。そして懸命に涙をこらえ、下 をうつむいて言った。 「さあ、ここで別れよう。僕の事はすべて忘れていい人を探すんだよ。」 するとリサは、泣きながら言った。 「あのとき、あなたがいなかったら、今の私はないわ。あなたは心も体も傷ついて いた私を救ってくれたわ。そして愛してくれた。この2年の間、私はあなたが戻って 来ることを信じて待っていたの。」 リサはハンカチを取り出し、涙を拭いながら言葉を続けた。 「映画監督や野球選手や多くの人から求婚されたわ。でもすべて断わってきたの。 あなたを愛していたからよ。風の便りにあなたが多額の借金をしているって聞いたから 仕事で稼いだお金はほとんど貯金して、今、一億円あるわ。」 リサは私の目を真顔で見つめて言った。 「もし、まだ私を愛しているならお願いだから結婚して。」 私は涙をこらえることが出来なかった。リサの肩を抱き、ありがとう、ありがとうと 大声で泣きながら言った。 この2年の間に私とリサの関係は先生と生徒という関係から、借金を抱えた失業者と 大女優という関係に大きく変わった。しかし、2人の間の愛情は変わらなかったことに 大きな喜びを感じ、またこの愛が永遠のものであることを強く確信した。 (完) ポパイ
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