長編 #5482の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「なんで!?」 美咲の悲痛の叫び声が聞こえる。 「なんで逃げないの?」 なんでだろう? もうどうでもいいのかな? 「どうでもいいんだよ」 そう言葉こぼした瞬間、自然と涙がこぼれてくる。頬を伝う雫が温かい。 「何があったっての?」 美咲が近づいてくる。 額に冷たい感触。銃口が触れたらしい。 「やっぱりさ、美咲は正しかったよ」 「今さら何言ってんの……」 「世の中さ、やっぱり知らなくていいことはあるんだって。世界はウソで固められて いるんだって。ホントはそんな事、わたしだって気づいていたよ。だって、わたし自 身だっていっぱいいっぱいウソはついてたんだもん」 「茜?」 「そういえば美咲って、しきり藍の事を気にしてたよね。わたしと藍の関係も不思議 がっていたよね。でもね、わたしとあの子を繋ぐものってそんなに大したものじゃな いんだよ。……昔ね、わたしにはお姉ちゃんがいたの。わたしはお姉ちゃんの事が大 好きだったし、藍はお姉ちゃんとよく遊んでいた。ただそれだけのこと。わたしは昔、 藍の事は大嫌いだった。それだけだよ……それだけなんだよ」 わたしはもうその場で涙を流すことしかできなかった。 「大嫌いって、あんた彼女の事あんなに心配してたのに」 「そう大嫌いだったけどね。でも、わたしお姉ちゃんのマネしたかったの。憧れてた からね。だから、必死で好きになろうって、自分自身に暗示をかけたの。そうしたら、 変われた。ウソみたいに違う自分になれた。友達もいっぱいできたし、困った人の相 談にのってあげることもできるようになった。でも……でもね、ほんとは気づいてい たんだよ。わたしはウソをついているんだって。ほんとの自分は幼い時においてけぼ りにして、ウソついて生きてきたんだって」 「今のあんたも嘘をついてるの? お姉さんに憧れてた気持ちも嘘なわけ?」 美咲の言葉はなぜか、優しくわたしを叱りつけるようにも感じられる。 「わかんない。もう、わかんないよ……」 嘘をつきすぎると何が本当なのかわからなくなる。わたしがお姉ちゃんに憧れてい たのは何のため? 「茜。あんたはそのお姉ちゃんを誇りに思ってたんじゃないの? その為に強くなろ うとしてたんじゃないの?」 「……」 「もしかしたら茜はさ、嘘をついてたと思っていたことでさえ、本当は嘘なのかも知 れないよ」 「嘘?」 「裏の裏は表っていうでしょ。あんた嘘なんかつかず、ものすごく素直に生きてきた のかもしれないってこと」 わたしにはまだ何が本当のことかなんてわからない。 「茜の場合、過去への負い目が自分の気持ちを嘘だと思い込もうとしていたのかもし れないよ」 「?」 よくわからない。ホントのわたしはとうの昔に時間を止めてしまったから。 「まったく……そんなんじゃあんたを憎めないじゃない。わたしだってお姉ちゃんを 殺されて、誰かにその怒りをぶつけなきゃどうにかなりそうだってのに」 美咲は銃口をわたしの額から外すと、構えていたその両腕で今度はわたしの身体を 優しく包み込む。温かいヌクモリ。忘れかけていた感触。 自然とわたしのロから言葉がこぼれる。 「わたしね。昔、臓器移植を受けたことがあるの。それで、今までずっとそれはお姉 ちゃんが提供してくれたものだって思い続けてきたの。でも、やっぱりそれはウソだ ったの。さっき藍がそれを教えてくれたの」 さっきから涙はずっと止まらない。枯れるまでわたしは泣き続けるのかも。 「そっか。それでそんなに弱くなっちゃったわけ。酷いね。石崎さんも」 わたしは美咲に甘え始めてしまった。 そんな気持ちに気づいたのか、美咲は包み込んでくれていた身体を優しく離す。 「でも茜もバカだよ。くだらないよ。茜は一人できちんとここまで生きてこれたんで しょ?」 「え?」 わたしはずっとお姉ちゃんの幻を追っていただけ。たぶんそれは一人ぼっちで。だ から、バカだと言われてもしょうがない。 「私は茜の事、ほんとは好きじゃなかった。変に優等生ぶってて……無理してるのは 気づいてたからさ。でも、あんたは一生懸命だったんだね。生きることに」 彼女の表情が柔らかくなり微かに笑みが浮かぶ。 「美咲?」 「友達になれたらよかったね」 微笑みを浮かべながら、美咲は涙を浮かべていた。 「え?」 「バイバイ茜」 くるりと向けた背中を見て、わたしは引き留めることなんかできなかった。 だけど……わたしだって友達でいられたらどんなに良かったかって後悔してるんだ から。ホントのことなんか知らなくてもよかったから、みんなで楽しくしていられた らと思ってたんだから。ウソをつくのもつらいけど、ホントの事をさらけ出すのもつ らいんだから。 どうしてみんな、幸せにはなれないんだろう。 ◆石崎 藍 「きみに見せたい物がある」 寺脇偲はそう言って、口元を緩める。 「見せたい物?」 彼に対しあれだけ理由もわからず嫌悪感を抱いていたというのに、その一言でそれ までの感情が揺らいでしまう。 「無理に仲間になれとは言わない。でも、ボクにはキミが必要だし、キミにはボクが 必要なのかもしれない」 状況が状況でなかったら私は笑い飛ばしていただろう。今どきそんな口説き文句を 使うヤツがいるものか、と。 だけど……。 「私はあなたなんか必要とは思っていない……」 私の中で迷いが生じ始めている。 「見てから決めても構わないんだよ」 何を私に見せようというのだろう。わずかな好奇心が私のシステムに干渉している。 他人が見せびらかしたがるものなんてくだらないものしかない。でも、あの『寺脇偲』 の見せるものという条件が、私の中で好奇心を生み出したのかもしれない。 「……」 遠くの方からサイレンの音が聞こえてくる。あれは、消防車? パトカーの音も微 かに混じっている。 「時間がないよ」 その時、後ろから聞き覚えのある声がする。 「偲!」 振り返ると湊が立っていた。着ている制服はすす汚れてボロボロにはなっているが 、外傷はほとんどないようだ。 「湊か。今いいところなんだ。邪魔はしないでくれるか」 彼の口元が僅かに崩れる。少しだけ苛ついた口調でもあった。 「ごめんなさい。でも……」 「湊。おとなしく帰るんだ」 「でも、でも……ボクは偲が何をやっているか知りたいんだ。別に悪い事をやってた って構わない。ボクも偲の仲間に加えてもらいたい。だから」 「邪魔をするなと言っただろ」 同時に破裂音。 寺脇偲は懐から出した拳銃で容赦なく湊を撃った。彼は肩を抑えて膝をつく。ケガ よりも精神的ショックが強いようだ。 わたしははっとして湊に駆け寄ろうとして、再び迷いが生じる。その隙をついて寺 脇偲の言葉が私の心に絡みつく。 「石崎さん。邪魔して悪かったね。さあ、選択してくれ。ボクについてきてくれるか い? それともその玩具とともにここに残るかい」 「玩具?」 振り返って彼を見る。 「湊はただの玩具だよ。でも、もうボクには必要ないね。キミが来てくれるのなら」 彼らしい台詞なのかもしれない。それならば……。 「私は新しい玩具?」 「違うよ。言ったろ、キミはボクにとって必要な存在なんだ。ボクとキミは対等だ」 それは彼の本心だろうか? 彼は危険ではあるし、仲間になることにメリットがあ るとは思えない。 「……藍先輩」 湊の弱々しい声が聞こえてくる。 再び振り返ることは簡単だ。このままここに残って彼を慰めてやるという選択もで きる。 だけど……私は寺脇偲に何かを期待している。彼ならばこの呪縛を解き放してくれ るかもしれないというくだらない僅かな幻想。 私の壊れたプログラムは、そんなものに反応しているんだ。 「湊」 私は振り返らずに彼の名を呼ぶ。 「先輩?」 「大した怪我じゃないんだから一人で帰れるよね?」 「え?」 「湊から借りたナイフはここに置いておくよ」 屈んで足下に彼のナイフを置く。 「さよなら湊」 「そんな……先輩までボクを見捨てるなんて……」 もともと私は湊には特別な感情を持っていない。 玩具? 退屈しない時間を作るためのただの道具。私だって寺脇偲と何ら変わるはずもない。 湊とのつながりなんて所詮その程度のものだ。 「いいよ寺脇。ただし、つまらないものを見せられるのは嫌だからね」 私は精一杯の強がりを寺脇偲に向けて示した。もう、湊との関係は断ち切れた。こ の先、出会うことがあったとしても、彼は私に笑顔は向けてくれないだろう。 「きっとキミも興味を示すと思うよ」 そう言って彼は私についてくるように指示をする。 ちょうど河合美咲たちが入ってきた扉を開けてすぐ、横に地下へ続く階段があった。 暗いその階段を下りて、低くなった天井を真っ直ぐ歩き、汚水の匂いのする小部屋 に入る。 そこからは、部屋の中心のマンホールの蓋を開け、さらに下るようだ。 大男は彼の指示を受け、重そうな蓋を素手で持ち上げる。 そして、先に彼が入り、次に寺脇偲が地下へと下っていく。 「?」 ふいに何かの気配を感じて私は後ろを振り返る。 先に降りた寺脇偲は、わたしが一瞬下りるのを躊躇ったことを不思議に思ったのか 「怖いのかい?」と聞いてきた。 私は気にしないことにして、そのまま降りる。 数十分歩いただろうか、やっとはしごを上がり、再び違うマンホールの蓋を開けて 小部屋へと出た。 その部屋の扉をあけて、ちょっとした廊下を歩くと、急に天井が高くなり大きな鉄 製の扉が目の前に見えてくる。 「ついたよ」 彼は一言だけそう言うと、その扉を開けるように促す。 私は一瞬だけ躊躇すると、一気にその扉を開いた。 中にはドラム管ほどの銀色をした円筒形の物体が置かれていた。何かの本で見た覚 えのある形。 「アート作品には興味はないけどね」 私は彼の表情を伺いながら、わざとそう言ってみせる。 「ある意味芸術作品だよ、それは。でも、気づいているんじゃないか?」 私の中で、ある種の推測が成り立つ。 彼が作ったわけではない。もらったりしたわけでもないだろう。なんらかの形で横 取りしたのかもしれない。 「気づいていたらどうするの?」 「答えを聞きたいね」 彼のこれまでの言動、支配への固執、それらから導き出した答えは単純であった。 「その前にこれが本物である証拠は? だいたいどこから手に入れたっていうの?」 目の前にある物体は、大量殺戮兵器である可能性が高い。細菌兵器……いや、形状 からして核の類なのかもしれない。 「ロシアからの直輸入だよ。あの組織はこういうものにも精通しているらしい」 解体処分されなかったものが裏のルートで出回っているわけか。 「いったい何に使うっていうの? 信管は外してあるんでしょ。あと、このままじゃ 目的地まで飛ぶことすらできやしないじゃない」 「飛ぶ必要はないさ。リモートで起爆できるから」 つまりそういうことか。 「脅迫の材料?」 テロリストを気取っているつもりだろうか? 「脅迫じゃないよ。ゴミ掃除みたいなものさ」 彼はニヤリと冷たい笑みを浮かべる。 「どういうこと?」 「取引するのは政府じゃないよ。組織の奴らさ。でも、取引は成立しない。なぜなら 、取引場所で起爆させるからね」
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