長編 #5439の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「こんばんは、ひかりでぇーす」 あたしは、部屋に入るなりそう言った。高級ホテルの最上階にあるスイートルーム である。 ソファに腰をおろしているおじさんが、手招きをした。四十代前半というところだ ろうか。前髪を長く延ばし瞳は憂鬱げな光りをやどしていて、芸術家ふうだ。 バスローブを身につけて、くつろいでいるそのおじさんは、物憂げにいった。 「本物の女子高生なの?」 「まあね」 あたしはセーラ服にミニのスカートといういでたち。首には紅いスカーフを巻いて、 両手に白いひじまである手袋をしている。見様によってはセーラ服のコスプレのよう でもあった。 「何かのむ?」 おじさんの問いに首をふって答える。思ったよりいい男なので少し胸がどきどきし た。 (大丈夫かい?) あたしの心の中でアキラくんが不安げに問い掛ける。大丈夫に決まってるじゃない。 あたしを誰だと思ってるの。 (ま、信じてるけどね) アキラくんはそういった。あたしは少し唇を嘗めて湿らすと、おじさんの隣へ無理 やり座る。 「おじさん、かっこいいね、あたし少しどきどきしちゃった」 そういっておじさんの腕にしがみつく。おじさんはクールにブランデーのグラスを 口に運んだが、まんざらでもなさそうだ。 「ねぇ、キスしていい?」 あたしは、おじさんの耳元でそう囁いた。おじさんは無言であたしの首の後ろを手 でつかむと、ぐいと唇を押し当ててくる。 舌が生き物のようにあたしの口の中に入ってきた。ブランデーの芳醇な味がついた その舌は、あたしの口の中に痺れるような感覚を撒き散らす。あたしの頭の中はサー チライトで照らされたように、かあっと明るくなった。 (感じている場合じゃないよ) アキラくんが冷静に突っ込みをいれてくる。うるさいわね、結構うまいのよ、この おじさん。やることはやるから心配すんなって。 おじさんはそろそろとあたしの太股に手を延ばす。じらすようにそうっと、あたし の股の付け根に向かって手が進む。 まるで羽毛で撫で回されるような感覚。その間も舌はあたしの口の中で動き回り、 新しい刺激を作り出していく。 おじさんの手は、スカートの中に入り込んだ。それと同時に手の動きは止まった。 「何かね、これは」 おじさんは、あたしの股間にあるものをおそるおそる触っている。あたしはその手 つきに思わず苦笑した。 「あなたの股の間にあるものと、同じものよ」 「話が違うぞ」 あたしは右手に持ったレミントンダブルデリンジャーを、おじさんのこめかみに押 し当てる。感じているように見えても、やることはちゃんとやるでしょ、アキラくん。 その手の平にすっぽりおさまる小型拳銃をおじさんは、ちらりと見て苦笑した。 「一体なんの冗談」 あたしはデリンジャーをこめかみから少しずらし、おじさんの耳元で引き金を引い た。小型とはいえ、357マグナム弾が耳元を掠めたのだ。こん棒で殴られたくらい のショックはあっただろう。 おじさんは、ソファから転げ落ちのたうち回った。耳を少し掠ってしまったらしく 血がでている。 (むちゃするなぁ、へたするとショック死するよ、マグナム弾だよ) 確かに時速八十キロの車をストップさせるパワーのある弾を耳元で発射されては、 たまったものでは無いだろう。あたしだったら死んでたかもしれない。でも、いいじ ゃん、死ななかったしぃ。 あたしはのたうち回るおじさんの顔を、ローファの靴のつま先で蹴飛ばした。おじ さんはぐえっとか言ってのけぞる。 「いつまでひぃひぃ言ってるのよ、静かにしなよ、おっさん」 あたしは理不尽なことを言うと、おじさんの前に空カートリッジを落し、ダブルデ リンジャーに357マグナム弾を装填する。おじさんは恐怖に歪んだ顔であたしとあ たしの手にあるデリンジャーを見ていた。 恐怖に歪んで血にまみれた顔もキュートだ。いいおとこは、得だね。 「一体なんのつもりだ、私に恨みでもあるのか」 かろうじて身を起こしたおじさんに、あたしはにっこりほほ笑みかける。 「ごめんねぇ、恨みがあるって訳じゃないけど」 あたしは正確にデリンジャーをおじさんの眉間にポイントしている。おじさんは不 安そうにそれを見ていた。 「あたしぃ、マダム・エドワルダに会いたいのよ。歌舞伎町の女王と呼ばれている女。 おじさんなら、会わせてくれるんじゃないかなって」 「知らないよ、そんな名前」 あたしはおじさんによく聞こえるように、デリンジャーの撃鉄をあげた。 「残念ねぇ、じゃあ死んでね」 「いや、マダム・エドワルダに直接面識がある訳じゃないけど、彼女のショウになら いったことがある。それに君をつれていくことができるよ」 「まあすてき」 あたしはおじさんに投げキッスを送る。 「じゃあ、これから一緒に行きましょう」 「これから?」 あたしはおじさんの前に、携帯電話を放った。 「連絡して手配して。今夜ショーがあるはずよ」 おじさんは、携帯電話を手にとった。おじさんは、しばらく話し込んでいたが折り 合いがついたらしく、あたしに携帯電話を投げ返してくる。 「今夜のショウに行く。開始は一時間後だ」 「おっけえ。じゃ支度してよ。一緒に出ましょう」 おじさんは、あたしの手のデリンジャーをちらちら見ながら、スーツを身につけて ゆく。おじさんは、私に問いかける。 「一体、マダム・エドワルダに会ってどうしようっていうんだ。彼女のショウはろく なものじゃないぞ」 「知ってるよ。あたしはねぇ、探してるの」 「探してる?」 あたしは、にっこりとおじさんに微笑みかける。 「無くしたものを探しているのよ」 「無くしたもの?」 あたしはふふふと笑う。 「おじさんはかっこいいから、教えてあげちゃう」 あたしは首に巻いたスカーフを外す。そこに顕わになったのは微かに残る外科手術 の縫合の後。おじさんは、少し息を呑んだ。 「キメラウィルスか。それにしても首から下を移植するとは」 キメラウィルス。あたしにはよく判らないけれど、それは人間の細胞を遺伝子レベ ルで書き換えて免疫系を特定の生体に対して、働かなくするというものらしい。 つまり、人体の移植を凄く容易にしたということ。これは人間同士の移植だけでは なく、動物と人間の移植も容易にしたらしい。 あたしの首から下は、アキラくんのものだ。むろんこの手術は違法だから闇で行っ たもの。昔、夢野久作という作家が人間の意識は身体の個々の細胞に宿っており、脳 はその意識を流通させる交換機としての役割しか持っていないといったらしい。 でもあたしの意識は脳に残っている。そして、どういうわけかアキラくんの意識も、 その身体に残っていた。夢野久作という人は半分正しくて、半分間違っていたらしい。 「あたしの本当の身体はマダム・エドワルダが持っているばす。だからマダム・エド ワルダに会わないといけないの」 おじさんは、スーツを身につけ終わった。ちゃんとした格好するとこれまた男前で ある。 「そういえばさあ、おじさんの名前聞いてなかったわね?」 「私の名は斎木だ」 あたしは斎木と名乗ったおじさんの腕に抱きつくと、そっとデリンジャーを腹部に 押しあてる。斎木さんはびくんと身体を強ばらす。うふふ、可愛い。 「じゃ、いこうか、斎木さん」
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