長編 #5435の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ちょっと待ってよ!」と両手に2つずつの荷物をかかえながら 桜井は情けない声をはりあげた。 ここは駅前のデパートである。 今日は半期に一度の大バーゲンという事でちゃっかり者の翔子が嫌 がる桜井を無理矢理引っ張ってやってきたのである。 「ごめん。ごめん。」と言いながらも、そう答える時間も惜しいかのよ うに混雑の中をさっさと歩いていった。 「もう!!」 いい加減3時間も歩き回って疲れ果てた桜井はちょうど空いたイスに 腰掛けた。 「なんで、女ってのは一つの物を選ぶのにあんなに時間をかけるんだ? さんざん歩き回ってもどうせ選ぶのは最初に目を付けた物だろうに・・・」 とぶつくさ言っていた。 ふーっとため息をついた桜井が周りを見回してみると、混雑を避けて退屈 そうにしているのはほとんどが男連中であった。 彼らは一様に憔悴しきっているようで、視点が定まらず中をぼーっと見つ める者、ぐずる子供をあやす者、腰を曲げてうなだれる者、・・・など 様々であった。 遠目に見ている限りではまるで敗残兵のようであった。 「俺だけじゃないんだな・・・。」 と妙な所で納得した桜井だったが彼の悲鳴を上げた腰と両足の疲労はすぐに 癒えることはなかった。 「ごめーん。疲れちゃった?」 と両手に再び戦利品を抱えた翔子が向こうからやってきた。 ”あれだけ歩き回ってなんで笑顔でいられるんだ?”と桜井は思ったが、 その翔子の明るい笑顔を見ると疲れが吹き飛んでしまうような気持ちにな った。(ごちそうさま) 二人は少しゆっくりしようということで近くの喫茶店に入った。 そこも勿論混雑していたのだがそんなことはもうどうでも良いと思うくらい 疲れていた。(特に桜井は・・・) 「結構、今日は買いたいなーって思ってた物がいっぱい変えちゃった。」 と翔子はうんうんと自ら納得していた。 「よかったねー。じゃあ、今日はこれで全部?」 と桜井が聞くと、 「あとは靴と鞄かな?んっ?他に何かあったような・・・」 うーむと腕組みをして考えている翔子を横目に ”もう、好きにしてくれ!” と天を仰ぐ桜井であった。 2時間後に無事に(?)靴と鞄を買い終えた二人は「あっ!思い出した!」 と言った翔子により化粧品売り場にやってきた。 ”これで最後になりますように”と神に祈っていた桜井だが、他の日本人 と同様に普段は神のことなんかこれっぽっちも信じてはいない。 「俺にも都合ってもんがあるんだ!」と時には神様も言いたい事だろう。 化粧品売り場で熱心に店員の話を聞き始めた翔子を後目に一人残された桜井は 興味もないのにぶらぶら歩いていた。 両腕に荷物を抱えながら器用に試供品の口紅などをぐりぐり回して遊んでいると、 「あの方はお客様のガールフレンドさんですか?」 と、女性の店員さんが尋ねてきた。 以前の桜井なら女性相手にあたふたするところだが、今では翔子に鍛えられてか なり度胸がついていた。 「ええ。全く今日は振り回されてばっかりで・・・。」 と答えると、 「そうなんですか。でも、本当にお綺麗な方ですね。」 と何やら関心している風だった。 「それにすごいおしゃれだし、ああいう人にあこがれちゃうなあ。」 と言うその女性店員の言葉を聞いて、正直嬉しくもあったが自分の今の姿をちら っと鏡で確認したときに自分と言う人間がすごくちっぽけに見えた。 こういうことは勿論比べる物でもないし、翔子のおかげで着る物は少しはましに なったという事で前よりかは見られるようになったが、やはり正直複雑であった。 今覚えばこのときの翔子に対するある種の劣等感が彼にとっての最大の過ちにつ ながったのかもしれない。 「あなたもすごいお綺麗ですよ。すごいもてるんじゃないですか?」 と桜井は言った。 「うそーっ!?そんな事全然言われたことないですよ」 と彼女ははにかんだ。その姿には翔子とは全く違った魅力があった。 たとえて言うなら少女のようなキュートな感じであった。 「ボーイフレンドはいらっしゃるんですか?」 「1年前に別れたっきり、全くダメで」 「もったいないなあ」 「誰か紹介してもらえます?なかなか出会いがなくって」 「僕も立候補しようかな?」 そう答えた瞬間、桜井は”しまった!”と思った。 しかし、今まで感じたことがないような危険なドキドキ感を感じていた。 「そんなこと言っていいのかなー?彼女に言っちゃおっかなー?」 と彼女は怪しげに桜井の顔をのぞき込んだ。 「冗談。冗談。」 と言いながらも顔が少し上気していた。 ここで、この女性店員の紹介をしてえおこう。 彼女の名前は竹本まりあと言う。年は19歳である。 髪はセミロングで、全体として割と幼く見える方である。 何気ない仕草が男を惹きつけるタイプのようで、翔子ほどの美人ではなか ったがボーイフレンドの数は多かった。 ここで断っておくが、先ほど彼女が「ボーイフレンドがいない」と言った のは勿論「本命」がいないという意味であった。 その彼女は高校を卒業した後、まずはアパレル関係の会社に就職した。 ところが、勤め始めてから三ヶ月で仕事がきついのと気に入らない上司が いるという理由でさっさとやめてしまった。 実はこの職場で勤めるまでに同じような理由でいくつも転職を繰り返して きた。 この不況のなかで彼女がそのような数々の就職先に恵まれてきたのはひとえに 彼女の父親の影響力が大きかった。 その父親が働いているのはアパレル関係では国内でも屈指の大手企業と言われ るところで、すでに若くしてそこの取締役をしていた。 もっとも、彼の力量ももちろんあることにはあったのだがそれ以上にその会社 をそこまで育て上げた彼の祖父の影響力が大きかったのも事実である。 そうした環境に恵まれてまりあはすくすくと(?)育ってきた。 割と飽きっぽいまりあだが興味を抱くのは早くほしい物は何でも、そして 誰の物でもほしがった。 本来ならそんなまりあから全く見向きもされないはずの桜井だが、翔子という 眩しいほどの恒星の影響を受けてまりあにとっての強い興味の対象となった。 「こんな美人が惹かれるほどのこの男の魅力ってなんなのかな?」と・・・。 そのような危険な香りを出し始めたまりあに気付かないまま、しまりのない笑顔 をした桜井がまりあに向かって一生懸命に何ごとかを話しかけていた。 そんなこととはつゆ知らず今も翔子は店員と楽しそうに話し込んでいた・・・。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE