長編 #5422の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
およそ五年間書き続けてきた『そばにいるだけで』本編ですが、今回をもっ て、しばしの休載に入ります。 長期に渡ってご支持やご批判、そして叱咤激励など、色んな形で応援してく ださった読者の皆様。大変感謝しています。ありがとうございます。 もちろん、『そばにいるだけで』はまだ完結していません。再開(“再会” でもありますね)がいつになるか、現時点では明言できませんが、彼女達は必 ず帰ってきます。作者自身、心待ちにしているほど。(^^) そのとき、『そばにいるだけで』が多くの人に読まれる物語でいられるよう に、研鑽を積んでおきます。乞うご期待、と言い切ってしまいましょう。 この小文を締めくくる前に、休載に際してのボーナストラックをお届けしま す。と言っても、没にした原稿を公開するだけなのですが。 本編用に書き上げたけれども、使わなかったシーンがたくさんありますが、 以下もその一つです。あり得たかもしれない、もう一つの『そばいる』。 『そばにいるだけで』の読者なら、いったいどこに続く予定だった場面なの か、簡単に分かるでしょう。そう、あれは大きな分岐点でした。 『そばにいるだけで』の進む方向はこれではないとした作者の判断を、読者 の皆様がどのように感じるのか、少なからず関心がありますので、この機会に UPします。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 相羽が転校して行ってから、三日が経っていた。 「ほんと、急に行っちゃったよねえ」 両肘をつき、手のひらの上に顎を乗せた富井が、上目遣いで、思い起こす風 に言った。 「もっと早く、転校のことを言ってくれてたら、きちんとお別れ会、できたの に」 「それに……思い切って、告白もできたかも」 気心の知れた内輪だけだからか、井口と富井は開けっぴろげ。 純子の胸の内には、言おうかどうしようか、迷っていることがあった。 (逆に告白されたって、言った方がいいのかな……) 指先でつまんだスナック菓子一つをかじって、ゆっくりと飲み込む。全然、 味を感じない。 「相羽君、誰が好きだったのかなあ」 「そうだよね、分かんない。みんなに優しかったもん」 「誰かが告白して、成功したっていう話も聞かなかったし」 友人のそんなやり取りを耳にして、心を決めた純子。 「あのね、みんな」 「何、純ちゃん?」 「言っておくべきだと思うから、言うけど……相羽君さ、告白してたの」 「え? 誰に?」 目を丸くして、声を揃える富井達。 「私に……」 純子の答に対する反応は、二通り。 一つは、「えー?」と素直に驚く。もう一つは、「やっぱり」という納得。 「ほんとに?」 「うん。本当」 「相羽君、やっぱり、あなたのことが……好きだったのね」 町田が、うなずきながらつぶやくように言った。 「それで、返事は?」 「決まってるじゃない、芙美。もちろん、OKでしょ?」 興味津々。そんな表現がぴたりとはまる顔になって、富井や井口が身を乗り 出してくる。 純子は首を横に振った。 再び起こる騒ぎ声。 「もったいなーいっ。何でよー!」 「どこが不満?」 「転校するって知ってて、それで……とか?」 比較的冷静な町田の問いかけに、再度、首を振る。 「転校するなんて、告白されたときは知らなかった」 「だったら、どうしてよ。相羽君、あなたにも優しくしてた。それどころか、 一番気にしてた。傍目からでも明らかだったわ」 「……そうかな」 「そうよぉ」 町田に同調する富井。 「悔しかったけど、相羽君、ずっと純ちゃんのことを気にしてたわ」 「純子には、特に親切だったよ」 井口にも言われた。 「なのに、断るなんて、もったいない」 「……いい人だけど、そんな、好きっていう気持ちにはなれなくてさ。あはは」 笑う。 だけど、他の三人は笑っていない。互いに互いの顔を見、うなずき合ってか ら、町田が代表するように口を開いた。 「純、ひょっとして……遠慮したんじゃない?」 「え? 何、それ?」 「私達に。ま、私は相羽君一直線じゃなかったけど、郁江や久仁香の気持ち知 ってたから、あなた、遠慮して相羽君の気持ち、受けなかった……」 「や、やだなあ。遠慮なんかしてないよ。正直に返事しただけ」 ことさらに声を立てて、笑った。 「あー、おかしいっ。変なこと言うんだもん、みんな。私が遠慮なんかするタ イプに見える?」 空気が変わった。 「純子」「純ちゃん」という声が、三人の口からこぼれる。 「何よ、みんな――」 言いかけて、自分でも気付いた。 いつ、溢れ出たんだろう。こぼれた涙が頬を伝わり、机の白に滴の痕を作っ ている。 「や、やあねえ、何で涙なんか……。寝不足かな、あは」 「純ちゃん!」 富井が強く、純子の両手を取った。 「何で、遠慮なんかしたのよぉ! ばかだよっ」 「遠慮なんてしてないって……言ってるじゃない。さっきから」 「じゃあ、どうして泣いてるのよ……」 「これは……」 答えられない。 「好きなんだ?」 「……」 言葉にせず、小さくうなずいた。涙は、まだ止まらない。 「みんな、ごめんね……。何とも思ってないって言ってたけど……いつの間に か好きになってた……」 「謝らないでよ」 「だって、嘘、ついたことになって」 「ばかなこと、言うもんじゃないっ」 町田が口を挟む。眉を寄せた表情が険しい。 「いいかい? 人の気持ちなんて、変わるもの。あとから好きになった方が我 慢しなきゃならないなんて、それじゃあ、恋は、宣言が早い者の勝ちになっち ゃう。そんなはずないでしょうがっ」 がんがん、耳に響く。目を閉じた。 (それぐらい、分かってた。分かってたつもりだったけど……) 目尻を拭うと、指先が濡れる。 「私……みんなを応援してるつもりだったの。だから……今さら」 「ごめん、純子」 井口が前に身を乗り出し、頭を下げた。 「純子が相羽君と仲がいいからって、頼りすぎてた。色んなこと、言付けした り、バレンタインのときだって」 下を向いたまま、頭を振った純子。 「そっかぁ……私もだ。ごめん、謝る。純ちゃん」 富井が続いて謝った。 「何でも引き受けてくれるから、甘えちゃってたね。純ちゃんの気持ち、全然、 考えてなかった」 「そんなこと、ない」 「何を言ってんのよ。自分一人が悪いなんて、考えるな、この」 町田の手が、純子の面を上げさせる。ハンカチが添えられた。 「相羽君を好きになったって、言ってくれないことの方が、よっぽど罪だわ。 久仁香や郁江が頼るのも当然」 「……」 「告白されたってことを、今、よく言ったと思う。で、どうするの?」 「どうする……って」 意味を測りかね、かすれ声で聞き返す純子。 「転校しちゃった相手に、気持ちを伝えるのかどうかってこと」 「それは……」 富井と井口に目を移す。 「私に遠慮しなくていいよ、もう」 「私も同じ。純ちゃんと相羽君、好き同士なんだったら、今の状態、不自然だ よぉ」 「……ありがと……」 二人に後押しされて、気持ちを口にする。 「相羽君に、会いに行く」 町田達三人がうなずいた。それが正しいんだよ――目で言っている。 「会って、私の素直な気持ち、知ってもらいたい」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― いかがでしたか。 ここに出て来る純子達は、結果的に、純子達ではなくなりました。けれども、 このあとに続く物語をあれこれ想像してみてもらえたら、彼女達もまた、『そ ばいる』のキャラになる……かもしれません。 では、ひとまずのお別れです。 ――『そばにいるだけで』つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE