長編 #5119の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ねぇ、つくし生えてるかなぁ?」 順子が言った。 「あるかもね? でもちょっと遅い気もするけど・・・あゆみちゃんも 連れてくれば良かったのにね、順子」 暖かい春の日差しが優しかった。 麗子と順子は再びめぐってきた春の中にいた・・・。 「順子・・・話したい事あるんだけど・・・」 「何?」 順子は嬉しそうな顔をして振り向いた。 麗子は順子には解っているのかも知れないなぁと思いながら・・・ 言葉を続けた。 「あのね・・・」 「うんうん、何?何?」 「あのね・・・私ね、幹夫さんと今ね、付き合ってるの」 「ふぅ〜ん」 順子はまるで悪戯っこが目をキラキラさせて次の悪戯を 楽しんでいるような顔をして笑った。 「あのねぇ! 順子・・・笑わないでよ!」 「ごめん、ごめん、笑ってないの、微笑んでるだけよん」 同じじゃ・・・と麗子は思った。 あの秋の日に幹夫の手紙を読んでから・・・麗子は幹夫に自分の気持ちを 手紙にたくして、これまで、まるで心の友のような付き合いをしてきたの だった。幹夫は仕事も頑張って正社員にもなれ、冬には成人式を迎えた。 麗子はお友達として幹夫と時々会い、互いの寂しさを時には癒し、時には 互いの人生の未来図などを語り合っては心の交流を続けてきたのだった。 麗子とて今まで男性とはお付き合いはした事はあったにはあったが・・・ それは何時もどこかで愛に変わろうとする経過の一部が前提のような気が して・・・純粋な想いを大事にしたいという・・・甘い幻想を抱いてる 子供じみた麗子には妙に窮屈な関係に思えて、何度か出会い別れたりして きたのだった。 そういう意味で幹夫とは何時も楽な気持ちでいられた。この人は今日子を 愛した人なんだ・・・私の寂しさや哀しさをも解ってくれてる。この安心感 はとても心地よいものに思えたのだった。年も離れてるし、純粋に友達関係 を築いていけていた・・・こないだまで・・・。 「 麗子〜それでどうしたってのぉ?」 「あのね・・・こないだ幹夫さんがこんな手紙をくれたのよ・・・」 麗子は順子に手紙を見せた。 承諾なしに見せるなんて悪いとは思いつつ 順子にならいいかなぁと思った。それに・・・麗子は今戸惑っているので 順子の考えを聞きたかったのである。 幹夫の手紙は次のようなものだった。 「麗子さん、僕達がこうして心を通わせてお互いの気持ちを話したり、 今日子さんの事を忍んだりして、友達付き合いをするようになってもう 半年ほどになりますね。 また、春がきますね。今日子さんが亡くなって から一年ですね。 僕は今では今日子さんは、もう花の中に生きている、人ではない天使の ような存在だと思う事にしました。忘れる事などできはしません。僕の 心の中にはずっと生きていく事でしょう。その事は麗子さんが一番解って くださっていると思ってます。麗子さんとて同じだと思うからです。 しかし、僕にも貴方にも未来があります。僕は貴方となら一緒に生きて いけるのではないかと最近ずっと考えるようになりました。麗子さん! 貴方が僕の中の思い出や苦しみを知っての上で僕と時を共に生きていける とお考えでしたら、僕の願いを聞いてくださいませんか? 今日子さんの一周忌にあたる日・・・僕は貴方と二度目に出会ったあの ホテルのラウンジで待っています。麗子さんが来てくださったなら・・・ 二人で今日子さんのお墓参りに行きましょう。午後ならきっとご法事も 終わってお墓は静かになっている筈です。 僕と貴方は心が通い合えば合うほど・・・今日子さんを思わないという事 はできない筈です。この先、辛くなる事もあると思います。僕達の出会い は普通では考えられないからです。 それでも僕は麗子さんとの未来を真剣 に考えています。どうか読まれましたなら、よく考えてください。 「ふぅ〜ん・・・麗子次第じゃないの? 答え、もう自分で出してる もんね貴方」 確かにそうかも知れない・・・順子はきっと感じていただろうし、今 こうして手紙を見せている私が幹夫との未来を考えている事くらい順子 ならすぐ解るのは当然だと麗子は思った。 「あの人・・・いい人だと思うよ。麗子の事十分すぎるくらい理解でき そうな人だと思う。 いい・・・未来ってのは自分で決めなくっちゃね。 麗子と幹夫さんが将来結婚する事になっても、私も今日子も心から祝福を 送るよ。結婚ってね・・・色々よ〜。家みたいにお笑いのような夫婦でも さ、それはそれで凄い愛がある訳。麗子と彼のように一見凄いミステリアス な関係にもね、やっぱり愛があるのよ! わかる? 麗子! 自分の気持ち・・・見極めて決めるのは麗子自身だよ。私が言えるのは これだけ」 「ありがと、順子、そうするね」 春から初夏に向かう心地よい風が麗子の身体を吹き抜けた。 「また夏がきますね、麗子さん」 幹夫はユリの花の写真を撮りながらそう言った。 「幹夫さん、私ね、季節の変化をね・・・花うつろひだと思うの」 「花うつろひ かぁ・・・貴方らしい言い方ですねぇ」 幹夫は笑みを浮かべて言った。 「麗子さんとこうして花のうつろひを見ながら、生きていけるのは僕の 幸せです。花を見れば思い出があふれますが、暖かい思い出に僕と麗子 さんならできると信じてますよ。麗子さん、僕と来年コスモスが咲いたら 結婚してくださいませんか?」 「はい、幹夫さん」 長い春がしばらく続くのかもしれない・・・初夏がきて秋がきて冬を越し て、また春がめぐって夏がきて・・・秋桜が咲き誇る頃・・・私は幹夫と 結婚する!麗子は時がまだある安堵感と時が来るのを待ち焦がれるやも しれない、いずれ来る・・・情熱を愛しく思った。 季節はめぐり・・・花はそれぞれの季節を彩る・・・時に花は人を癒し また人を涙させ、また人に生きる勇気さえ与えてくれる。 花のうつろひ・・・花うつろひ・・・麗子と幹夫と今日子と順子の想いを のせて、花はうつろっていくのであった。 ### 完 ### ******************************************************************** E-MAIL: muscat@mtd.biglobe.ne.jp 《マスカット》QKD99314
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