長編 #5118の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
麗子は今日子のお墓の前にいた・・・。黄色のコスモスが供えてあった。 「誰だろ? 今日子の好きな花だわ」誰が供えてくれたにせよ良かったねと 麗子は思うのだった。順子と夏に来てから久しぶりのお墓参りだった。 今日は一人で来たいと思って順子には内緒で来た。今日子には一杯聞いて 欲しかった事もあったなぁ・・・。寂しいよ・・・。 墓地のはずれの水道のある所で若い男性が水桶を洗っていた・・・。 まだ、お墓参りをすませてそう時間は経っていないようだった。 若者はこちらをじっと見ている・・・何? 何よ? 麗子はドキドキした。 「あのぉ、もしかしたら・・・麗子さんですか?」その人は静かに言った。 「えっ、そうですけど、どこかで御会いした事あったかしら?」 麗子は多少いぶかしげに答えた。 「順子さんに聞いたんです、貴方の事・・・」 ・・・順子に聞いた?・・・麗子は頭の中でぐるぐる考えを巡らせた。 「すみません!突然だったですね。僕、中山幹夫と言います。その・・・ 順子さんにお聞きになってないですか? その・・・今日子さんの・・・」 麗子は仰天して目を見開いた。 順子が春に言っていたあの相手かも? 「あの・・・もしかして今日子の相手だった方ですか?」 「はい、そうです・・・今日子さんには申し訳ない事をしました。 順子さんとは夏にお会いして色々話したんですが・・・」 順子め! 私に内緒で・・・麗子は驚きと困惑でおろおろしてる自分の心を 見透かされないよう冷静を装っていた。若いな、ほんと。 今日子が選んだ人か・・・。不思議な事だが悪い印象は受けなかった。 「もう半年経ったんですね。まだ嘘みたいです。今日子さんと初めて会った のはちょうど去年の今ごろでした。コスモスをとても喜んで見てましたね。 あの人は本当に花のような人でしたね」 風にそよぐ黄色のコスモスを見ながら麗子はその人の目にうっすらと涙を 見逃さなかった。今日子・・・この人いい人だね、今日子は最後は幸せだった と私も思う事にするわね・・・。 「あっ、ごめんなさい、僕ばっかり勝手に喋ってて・・・麗子さんも 今日子さんに会いにみえたんですね。本当、順子さんも麗子さんもいい お友達ですね」 初めて会ったのに屈託なくしかも礼儀をわきまえようと努力のみえる幹夫 の言葉を耳にしながら・・・麗子は不思議な感情に捕らえられそうになってい た。 「あの、幹夫さんでしたね、貴方・・・毎週みえてるって本当なの?」 「ええ、まぁ」 置いてかれた者の哀愁を分かち合っているような・・・まるで感情の同化の ような物を幹夫との間に感じて麗子は少し狼狽した。秋の風の香りと供えられ たお線香の香りが互いの寂しさをなお一層深くしていくような・・・ そんな気持ちが麗子を襲った。 「あの・・・良かったら、もう少しお話してもいいですか?」 思わず出た言葉だった・・・幹夫は笑って言った 「僕も今日子さんの事とか聞かせて貰えば嬉しいですよ」 順子と寄るあの喫茶店で話す事にした。 「今日子さんは僕によく言ってたん です。貴方の胸で死ねたら・・・って、 僕は何時もそんな時・・・今日子さんに生きている方が嬉しいよと言うてた んですが・・・」 あの今日子がこの人にそんな激しい感情をぶつけていたのか? 今日子が死に到った理由・・・その心の中の本当を私もこの人も全て知る事 なんてできないんだわと麗子は思った。だからこの人・・・今でも苦しんで いるのね・・・。 「幹夫さん! 貴方は今日子にとって一番救いになった人だと私思うわ。 あまり自分を責めたりせずにいてください。今日子そんなん望まないと 思うわよ。お会いできて良かったです。貴方も元気でいてくださいね。 私も今日やっと今日子に元気でいるよ!ってやっと言えたの。突然置いて いかれたら・・・時間かかりますよね」 幹夫と話した時間は麗子にとっても忘れられない時間となった。今日子も 旦那と別れて彼と一緒になるほうに勇気をもっていけたら今ごろ幸せ笑いを できてたのに・・・でも・・・今日子には無理だったんだよね、麗子は そんな事ができるなら今日子は死なないでいたと解っていた。 そうだ!これはこれとして・・・順子はとっちめてやらないとあかんわね。 麗子は微笑みながらそう思った。 「ごめぇ〜ん、麗子!」 「ショックだったな、順子・・・内緒事なんて・・・」 「そんなつもりやなかったのよ、ただ、麗子に言えば反対されると 思ったから〜・・・」 「解ってるわよ、怒ってないよ! けど、順子にそんな勇気あったなんて・・・ 知らなかったな」 「私も私なりに今日子の事で後悔があったから・・・どうしても知りたかった のよ、あの幹夫って人がどういう人なのかって」 「そうね、みんな同じよ・・・きっとあの幹夫さんも私達二人と話した事で 少し楽になったかもね? 思うけどさ、順子・・・所詮、残された者ってさ、 逝ってしまった人を忍んで思い出にして、祈るだけしかできんのよ。 寂しい事やけどさ、それをどこかで共有してるような人がいると思うと、 なんかほっとしない? 私、あの人と話しててそう思った」 「麗子のいうとおりだと思う! 私の内緒事も今回ばかりは良かったよね?」 無邪気に順子が言った。彼女って私の知らないところでいろんな顔してるん だわ・・・麗子はそう思うと心強いものを感じた。 幹夫は私や順子より深い心の傷を残してる。毎週お墓参りにも来てる。 その行為を他人がどう詮索しようと・・・麗子は愛を感じないでは いられなかった。順子も同じ気持ちだろう。人を愛して失った者にだけ 解る時を越えた世界に幹夫はいるのかもしれない・・・今日子が羨ましく さえ感じるなと麗子は思った。 「秋だねぇ・・・麗子・・・早いよね」「そうだねぇ・・・」 順子と私はしばらく何も言わず、喫茶店の外をぼんやりと見ていた・・・ 海がみたいな・・・麗子は突然そう思った。 秋も深まった頃・・・麗子は再び幹夫に出会った。偶然の出来事だった。 仕事の途中らしく忙しそうに誰かと話している幹夫をあるホテルのロビーで 見かけたのである。 元気にしてるのね・・・と麗子は微笑んだ。 麗子が友達との待ち合わせにラウンジでお茶を飲んでいた時・・・ 幹夫が近寄ってきた。「こんにちは、麗子さん」 「あら、こんにちは」幹夫が私にわざわざ近寄ってきた事に少し驚いた。 「今度お会いできる事があったらお渡ししようかと何時も持っている物が あるんです。これなんですけど・・・」 幹夫は何か額に入った写真のような 物を出した。「これ・・・」 麗子は一瞬息をのんだ。 コスモスを背景ににっこりと笑った今日子がいた! 「去年撮ったんです、今日子さんにあげるつもりでいたんですが・・・ 良かったら麗子さん、貰ってくださいませんか?」幹夫が言った。 麗子は今日子の今まで見た事もなかった笑顔を見て嬉しかった。 「喜んでいただくわ、ありがとう」 「良かった!今日子さんも喜んでくれると思います」 幹夫は麗子を見つめてそう言った。 自宅に戻った麗子が今日子の写真を壁に飾ろうとしたその時だった・・・ 額の裏に手紙のような物が貼り付けてあった。 破らないように丁寧に取ると・・・それは幹夫からの麗子宛ての手紙だった。 「麗子さん、こんな手紙失礼かと思ったんですが、どうしても貴方に言って おきたい事があるので書きました。今日子さんはあの日の一ヶ月ほど前に 僕にこう言いました。幹夫さんには麗子のような人が合うと思うわ、私は貴方 と長くはいてあげれないのよ、だから今度麗子を紹介するわねって。僕は 今日子さんに怒った事なかったんですが、その時は凄く怒りました。 そうしたら今日子さんはこう言ったんです。でも・・・貴方を私の行く所 には連れてはいけないもの・・・。 何を今日子さんが言うてるのか僕には最初わからなかったんです。それが 解ったのはあの日の1週間前の事です。今日子さんが突然僕に私と死んで くれる勇気ある?と言ったんです。僕は死ぬくらいならご主人と別れて 僕と一緒になればいいじゃないですかと説得しようとしたんです。 でも・・・今思えば今日子さんは僕を自分の最後の安らぎとはしてくれて ましたが、僕と共に生きていくなんて・・・図太さはもっている筈もない事 でした。 僕は今日子さんを心から愛してました。これで人生終わってもいいやと 思いました。 でも、結局今日子さんは僕を置いていってしまいました。 残された者ができる事は後悔と祈りだけでした。だけど、僕は苦しんだ後 思ったんですよ。生きる難しさと生きる楽しさと生きる哀しさを今日子さんは 僕たちに残していったんだと・・・。 麗子さん! こんな僕ですが、今日子さんを通して貴方と少し心を通い合わ せられたような気がして僕は救われました。順子さんも同じです、あの人 凄い人ですね、強い人だと僕思います。 麗子さんは僕から見れば・・・失礼な言い方かもしれませんが、少し今日子 さんと似通ったところがありますね。今日子さんの遺言だと思って・・・僕と お友達になりませんか?貴方となら・・・いつか・・・もっと明るい未来を 語り合える予感がします。こんな事読んで腹がたったら焼いてください。 麗子は読み終わって不思議なほど冷静だった。 何故なら幹夫の手紙はいわゆるラブレターにはほど遠い・・・愛ではなく もっと深い共感を込めたものだったからだ。 ふぅ〜ため息を一つついて麗子はつぶやいた・・・ 「こういう事もあるかもしれないわね・・・」 2階からでも庭の虫たちのコーラスが聞こえてきた・・・もう冬がそこまで きてる・・・虫さんが賑やかなんもあとわずかねぇ。今年の冬・・・私 どんな風に過ごしていくのかなぁ?仕事はまぁ順調、教師の仕事は好きだし、 恵まれた環境だと思っている。 愛ね・・・恋ね・・・私には浮いた言葉より心にしみるような錯覚でも いいから「貴方の事は解ってます」という人が必要なんかもしれない・・・。 順子なら理解してくれると思った。麗子は日ごろ誰からも理解されなくたって 平気だと強がるとこがあったが、それは嘘だった。友達には理解して欲しいし、 家族にもできればと思うのが普通の感情だ。 夜も更けてきてた・・・麗子は手紙をしまい、幹夫の宛名を手帳に 書き留めた。明日にでも手紙を書いてみようと・・・。 ### 【花うつろひ】再びの春 に続く・・・ ### ******************************************************************** E-MAIL: muscat@mtd.biglobe.ne.jp 《マスカット》QKD99314
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