長編 #5108の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
学校。 みんな、友達以外のことなんて、まるで無視してる。 教師も、仕事として、ただ機械的に授業を教えるだけ。 授業なんかそっちのけで、塾の参考書を広げる生徒が、あちこちにいる。 ずうっと、寝てるひともいる。 雑誌を読んだり、雑談したり、携帯電話で話してるひとたち。 髪は、緑だったり、茶色だったり。 服装だって、制服を着てるのは、クラスの半分くらいだ。 まさに、色とりどり。 でも教師は、ルールを決めないと気がすまないみたいで、毎日あれこれ、努 力している。 ちっとも面白くない授業してるくせに、誰が言うこと聞くんだろう。 「きみ、電話をしまって、授業に集中しなさい」 教師が注意するが、生徒は無視してる。 「きみ!」 「なんだ?」 足を机に投げだしていた生徒が、ギロリとにらんだ。 「文句あるのか?」 まわりの雑談に、ゲラゲラ、派手な笑い声がまじりだす。 机を離れ、あちこち歩きまわり、教室を出る生徒もいる。 「お前ら! 待たんか!」 教師はがまんできなくなって、うろつく生徒の襟首をつかんだ。 だが、生徒は全く動じなかった。 「あんた、そんなこと、よく言えるね」 生意気な口ぶりで、逆にその腕をつかみ返した。 「何を、どうするつもりだい? え、せんせー」 そう突っかかられたとたん、教師の動きがぴたりと止まった。この荒んだ空 気をどうにかしたいと、ついさっきまで正義感を燃やしてたのに、鎮火は早かっ た。 教師は、グッと怒りを飲みこんで、おどおどしていた。 「よくわかってるじゃないか。この前のニュース見たか? あの暴力教師、 刑務所に行ったんだってな」 ほかの生徒が、次々と野次を入れた。 「持ち物検査とか、個人指導とかはみんなプライバシーの侵害だってさ!」 「先生よぉ。『教育』って『自由』を教えることじゃないのかよ」 「管理と教育を履き違えてるんじゃないよ!」 「そうだそうだ!」 理想の教育をすること、それは、失業を意味する。 この不況の世の中、学校以外の社会を何も知らない彼に、仕事なんて見つか るわけがない。 すごすご引き返す教師が、席と席の間で転んだ。 足をかけて転ばせた生徒が、ゲラゲラ笑って、教室から走っていった。 「外で遊ぼうぜ」 あいつらだ。 僕を殴って、蹴って、お金を巻き上げて喜んでる奴ら。 あいつも、あいつも、あいつも、僕を何度も呼びだした。 憎い! 腹がたつ! 許せない! いままでの恨みと苦しみを全部ぶつけて、殺してやりたい! ……そう、どんなに思ったって、僕には、何もできなかった。教科書を立て、 その影に隠れてるだけの僕。 そうしているうちに、昼になる。 床のあちこちに、ぶちまけられた給食。 学校の給食を食べる人なんて、誰もいない。 ファーストフードを買いこんできた生徒。 壁や床に、油性ペンで落書きをする生徒。 朝来れば、掃除は終わっている。 失業対策の一環として、どの学校にも掃除するひとがいた。 マナーやルールを、教えることが許されなくなった学校。 教室の隅でいじけていた教師に、ちぎったパンがぶつけられる。 教師がどうなろうと、僕には関係ない。 三時半をすぎると、退屈で無意味な授業が終わり、生徒たちはカバンを手に 帰ってゆく。 下校する生徒たちの向こうに、僕は見たんだ。 悲鳴をあげながら、校舎の裏に引きずられる男子を。 その生徒も、連れてゆく生徒も、会ったことのないひとだった。 叫ぶ生徒は、蹴りあげられた。 ! 「そこにいるのは、僕じゃない」 なのに、心が締めつけられた。 ひとごとでしかないのに、鼓動がはやくなり、冷や汗が落ちる。 蹴られて殴られて、静かになった男子が、校舎のかげに消えていった。 「僕じゃないのに」 鼓動がどんどんはやくなって、足が勝手に動いて。 僕は、無意識のうちに走りだしていた。 逃げだしていた。 校門を抜け、人どおりの多い商店街を抜け、息が切れ、足がもつれて転びそ うになるまで、走り続けた。 思いだしたくない! あんな目にあいたくない! 「でも僕は、僕には、逃げ場所はどこにもないんだ」 そう気づいたとき、足はぴたりと止まっていた。 残ったのは、激しい呼吸だけ。 いままでの生活は、地獄。 これからの毎日は、もっと地獄。 やがては、死。 僕の死体を想像したとたん、僕の目に、涙があふれた。 何度ぬぐっても、あとから、あとから出てくる。 死んで、棺桶に入れられて、火葬場で燃やされて、あとは骨が残るだけ。 生きのびたい。何の楽しみもいらない。何の喜びもいらない。ただ生き残る ことだけを望んだ僕なのに、あいつらは容赦なく殺したんだ。僕がどんなに叫 んでも誰も助けてくれないから、僕は死んじゃったんだ。あいつらは僕を殺し て、のうのうと生きてるんだ。僕の死体を「かっこ悪い」ってゲラゲラ笑いな がら。 高架の上に、はしる電車を見た。 すぐそばの駅に着く列車だ。 僕は、それに乗る。 まだ、想像は終わっちゃいない。 帰りの電車は、行きのように混んでなかった。 僕は、空いてる席には座らず、つり革に手をかけ、ビルが過ぎる風景を、ぼ んやりながめていた。 乗客は背景と同じだから、ここは、未来の想像がやりやすい場所。 僕は復讐さえできないまま殺された。奪われたお金は、奴らが遊びに全部使っ た。お母さんもお父さんも、たいせつなお金がないことに気づいて、あちこち 探し回るだろう。やがて、僕の部屋から預金通帳が見つかる。それをもとに、 突き止められる事実。奴らは殺人とかで警察に逮捕されるだろう。奴らの裁判 がはじまる。きっと奴らは少年刑務所に入れられるだろう。一年? 二年? 何年か自由を奪われ、出てくるころには犯罪者のレッテルを貼られて、白い目 で見られるに違いない。奴らの親は子供の犯罪で、近所で悪評を立てられ、仕 事を失い、逃げるようにこの近所からいなくなるだろうか? それでも慰謝料 の賠償とかで、僕の親に何千万円も支払わなければいけないから、きっと貧乏 のどん底に落ちて、不幸な一生を送るだろう。 それが復讐? 僕は、そこにはいないのに。痛みや苦しみをそのままに、僕は死んでしまっ たのに。たとえ誰が、奴らを僕と同じように苦しめようとも、それで僕の恨み が晴れるわけじゃないんだ。 僕の受けた傷は、僕が返す。何百倍、何千倍にして、僕が直接あいつらを倒 すしか、僕の恨みは消えない。 たとえ骨になっても、この憎しみは絶対に忘れるもんか。 「お前には、それを使える力がある」 思いだした。 きのうの水の感触から、僕が感じたのは、ものすごい力。 僕の心に、やさしい水を注いでくれるあの力。 もう一度、触れてみたい。 そして、確かめてみたいんだ。 あの力で復讐できるかどうか。 「バカバカしい」 次の駅で、降りないと……。 ふと、現実に返る心。 塾は、学校と同じ無機質な場所だけど、静かで落ちつけるだけ、ずっとまし。 「そんなわけ、ないよね」 僕は自分自身に言い聞かせていた。 マンガや小説じゃないんだし、僕があいつらに復讐できるような力が、突然 手にはいるわけがない。 でも、でも……。 僕は、無意識のうちに胸に手をやっていた。 「蔵本」 僕は、はっとした。 ふり返ると、あの大男が、電車の天井につかえそうな頭を、僕の方に向けて いた。 太い腕で、つり革につかまって、じっと僕を見下ろしていた。 きのうとおんなじ服を着てる。 電車が強い振動をあげ、つり皮にかけた指が、条件反射で固くなる。 すっとドアが開き、降りる人と、乗る人が入れかわってゆく。 そんな中、大男は、僕の肩に手を乗せた。 太い腕から感じたのは、僕を床に沈みこませるほどの気迫だった。 「来い」 強引な態度とは裏腹に、悲しい目で、重岡さんは僕を見つめたんだ。 その目に、どうしても、手が、つり革から離れない。 どうして? こんなひと、信用しないって、僕は決めたのに。 怪しいよ。絶対、怪しいよ。 ドアが閉まり、電車が動き出す。
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