長編 #5089の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
フライア神の神殿の中に入り込んだエリウスたちは、旅行用の軽装に着替えを済ま せると用意された小部屋で軽く食事をとった。ここもエリウスが身を潜めていた娼館 と同様に神聖騎士団の者が入り込んでおり、全てはエリウスの望み通りに整えられて ゆく。 食事を終えたバクヤがエリウスに問いかける。 「で、これからどうするんだ」 「アルケミアに行くんだったら船だろうけどねぇ」 エリウスはヌバークを見ながら言った。 「とりあえずは、サフィアスを脱出しなくちゃあねぇ」 「海に出さえすればいい」 ヌバークは無造作にいった。 「私がここまできた船がある」 バクヤは苦笑する。 「あんたの船では、オーラの海上封鎖を抜けられんだろう」 ヌバークは奇妙な笑みを浮かべ立ち上がる。 「アルケミアの船だ。魔道の海を航海する。オーラの軍船であっても捕らえることは できない。この世の外を航海するのだからな」 「なるほどな」 バクヤは頷くと、ヌバークを見つめる。 「ところで、さっきあんたはわざと傍観してエリウスの腕を試したな」 ヌバークは薄く笑った。 「さあね」 「おれはどう思っている?おれの腕を確かめる気は無いのか」 ヌバークは笑みを浮かべたままだ。 「メタルギミックスライムを義手として操る人間がどんな実力を持っているかの見当 はつくさ」 そういい終えると軽くあくびをかみ殺しながら部屋の外へ向かう。 「私は休ませてもらう。とにかくおまえたちにまかすよ、船にたどりつくまでのこと は」 ヌバークが出ていった後、バクヤは少し肩を竦める。 「いやならいいよ」 エリウスがぽつりと言った。 「なんや」 「ヌバークが気にいらないんだろ。つき合うことは無いよ。脱出経路を教えてあげる から一人でサフィアスを脱出すれば?」 「馬鹿いえ」 バクヤはため息をつく。 「おまえなあ、エリウス。おれが判らないのは、おまえのことや」 「なあに」 「ヌバークがいうように、おまえが魔族の王を救ったら本当にアルケミアがおまえの ために軍隊を貸すと思ってるのか」 エリウスは婉然といってもいい笑みを浮かべる。 「そんなこと、ある訳ないじゃん」 「だったらなぜ」 エリウスは、少し謎めいた輝きを瞳に浮かべる。 「興味があるんだ、アルケミアに」 「興味?」 「居心地がここよりよかったらさ、帰らないって手もあるよね」 バクヤの顔がむっと怒気を孕むのを見て、エリウスは無邪気に手を振る。 「冗談にきまってるでしょ、そんなこと」 そういうと、エリウスはけらけらと笑った。 「よく笑ってられるな、おまえ」 バクヤは少し苛立ったように、ため息をつく。 「おまえさっき人を斬っただろう。ある意味では無意味な殺しだ。おまえ人をどのく らい斬ってきたんや?」 「始めてだよ」 エリウスは、美しい顔に笑みを浮かべて言った。 「殺したのは始めてだ」 バクヤは深く息を吐き出す。 「なんで、平気なんや。人を殺したんやで。憎んでもいないのに」 エリウスはすっと左手を前に出す。その中指には、金色の指輪が光っていた。妖し く魔道の力を秘めた光がバクヤの目を射る。 「指輪の王様なんだ。これは」 エリウスは夢見るような瞳で言った。 「指輪の王様は僕の心の奥深くに住んでいる。指輪の王様は僕の恐怖や不安といった 感情を緩和してくれるんだ」 バクヤは眉間に皺を寄せる。 「おまえ、それは危険なものやで。捨てたほうがいい」 「三日だね」 エリウスは笑いながら言った。バクヤは困ったような顔をして尋ねる。 「何や、三日って?」 「今の謀略の渦巻くトラウスで、指輪の王無しで僕が生き延びられる日数」 バクヤはもう一度、深く息をつく。 「そらそうやけどなあ」 エリウスは無邪気といってもいい笑みを浮かべて、バクヤに問いかける。 「じゃあさ、僕が指輪の王を捨てたとしてバクヤが僕を守っていってくれる?」 バクヤは力無く笑い返す。 「無理を承知で言うのは、暴力やで」 「そうだよね」 エリウスはバクヤの顔をのぞき込む。 「バクヤが指輪を捨てろ、て僕にいうのも暴力だよね」 バクヤは深いため息をついた。 「そりゃあそうやろうけどな」 その時、突然ドアが開きヌバークが入ってきた。バクヤが立ち上がり、ヌバークの 前に立つ。 「なんや、寝にいったんとちがうんか?」 「何かがおかしい」 ヌバークが呟くように言った。 「魔族のいる気配がある。瘴気が少し漂っている。しかし、それだけじゃない」 「なんや、はっきりいえよ」 バクヤの言葉に、ヌバークは眉をひそめて首を振った。 「判らないんだ。何がおころうとしているのか」 エリウスが立ち上がる。その手にノウトゥングを持ち、ヌバークに微笑みかけた。 「いこうか、ヌバーク」 バクヤがあっけにとられてエリウスを見る。 「いこうって、どこへ」 「何かが起こるのは間違いないんでしょ。だったら、その何かが起こるところへ行っ てみようよ」 「そうだな」 ヌバークが頷いた。 「確かめてみよう」 ヌバークとエリウスが部屋の外へと向かう。バクヤは何か口にしようとしたが、や めた。とりあえず自分もついて行くことにする。 そこは、フライア神の祭儀場であった。深紅の絨毯が敷き詰められたその部屋は、 微かな月明かりによって照らし出されている。その際奥には高く聳えるフライア神の 神像が安置されていた。その姿は巨人族のフレヤに似ているとバクヤは思う。 フライア神の祭儀場は流麗な彫刻によって飾られており、蒼い月明かりの中でそこ は異世界の宮殿のように神秘的で豪華な空間に思える。フライア神の神像の前には重 厚な祭壇がおかれ、その向こうに円形の祭儀場が広がっていた。 壁や天井は草木や動物たちのレリーフが刻まれており、バクヤは人工的に創り出さ れたエルフたちの城のようだと思う。ただ、月明かりの中のこの祭儀場はとても静か で、あの生命力と色彩に満ちた世界とは随分違うようにも思える。 ヌバークは真っ直ぐ進み、祭儀場の中央に立つ。 「ここだ。ここに力が集まってきているのが判る」 「とりあえず、隠れたほうがいいと思うよ」 寝ぼけているかのようにのんびりとした口調で、エリウスが言った。 「この神殿に魔族がきているのなら、僕らと同じようにここにくるはずだ」 「ちょっと待て」 バクヤは、ようやく頭を働かしはじめていた。 「今このサフィアスに魔族がいるとすれば、そいつは」 バクヤの言葉をエリウスが遮る。 「当然、ヴェリンダだろうね。ブラックソウルの妻の」 「ということは、ブラックソウルの野郎も」 「間違いなく、ここにくるはずだよ。ここで起こることを確かめに」 バクヤの目の光を見たエリウスは慌てて言った。 「とりあえずさあ、何が起こるのか確かめようよ。今ブラックソウルと戦ったとして もヴェリンダの魔力にかなうわけないんだしさ」 「あたりまえやろ」 バクヤはどこか不敵な笑みを見せ、エリウスを不安にさせる。 「とりあえず、祭壇の後ろにでも隠れとくか」 バクヤたちが隠れてしばらくして、祭儀場の扉が開かれる。バクヤは息を呑んだ。 先頭に立って入ってきたのはフードつきのマントを身に纏った人物である。その者が 纏う凶暴なまでの気配と瘴気は、まぎれもなくヴェリンダのものであった。 そしてその後ろには狼の笑みを浮かべた黒髪の男、ブラックソウルが続く。さらに その後には、五人の龍騎士たちとその従者である女たちがいた。 ヴェリンダが静かに言う。 「私は来たぞ、狂気に犯されしガルンよ。地上に姿を顕わすがいい」 深紅の絨毯に覆われた祭儀場の中央。そこに影が立ち上がる。その朧気に霞む闇の 固まりは次第に濃さを増していった。その不定形の暗黒に、二つの輝く光点が宿る。 それは、明白な意志を持ってヴェリンダへ向けられた。 「よお、久しいな、ヴェリンダ。家畜の妻になりさがったそうじゃあねぇか。まあ、 おれのせいもあるんだろうけどな」 「相変わらずのようだな、ガルン」 ヴェリンダは闇の語った言葉に、感情を排除した口調で応える。 「おまえにあるのは嫉妬の感情か?魔族の王にまでなった男が惨めなものだ」 闇は金色の瞳を輝かして苦笑する。 「まあそういうなって。おまえはおれが憎い。そうだろう。おまえの父親を殺し、お まえをデルファイへ幽閉し魔力を一時的に奪った。おれはこれ以上無いくらいの屈辱 をおまえに与えた。そのあげく今ではおまえは、家畜の花嫁だ」 闇は笑っていた。ヴェリンダは無言のまま、闇の言葉を聞き続ける。 「おれは今、アイオーン界からこの次元界へ戻ってきている。これはチャンスだろう ヴェリンダ。おまえの屈辱をはらす、最大のチャンスだ。おれを憎め。そしておれだ けを見つめろ。おれを殺せ。おれを切り刻め。おれだけを求め続けろ。それこそおれ の唯一の望みだ」 ヴェリンダは暫く沈黙していた。そして静かな声でガルンに語りかける。 「残念ながら、私はおまえにさして興味は無いのだよ。ただ、黄金の林檎を求めてい る。天空城にそれがあるのか?」 闇は呻き声をあげるように蠢いた。そしてヴェリンダの問いに応える。 「おまえが望むのであれば」 「ならば道を示すがいい、狂いし者ガルンよ。用はそれだけだ」 闇は急速に薄れてゆく。形を無くし渦を巻きながら上空へと消えていった。そして 二つ残った金色の光は、二筋の矢となり天空の彼方へと消えてゆく。 「今の光の筋の方角だ。ガルンは我々のために道を残した」 ヴェリンダは後ろに立つブラックソウルに声をかける。ブラックソウルは頷いた。 「ようやく天空城へ旅立てる訳だな。ただその前に、片づけることがあるようだ」
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