長編 #5070の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
おれたちは、ナミのアルファロメオに乗って高速を抜け、郊外にある某電気メー カの研究所に着いた。ナミは仕事の続きがあるといって、さっさと帰ってゆく。 おれたちはだっぴろい敷地に建つシンプルなデザインの4階建ての研究所へ向か って歩いてゆく。MAYAがぽつりと言った。 「忙しい人だな、ナミさんは」 「まあな。健康の為に1日3時間は寝ることにしてるといってたけどな。何しろあ の歳で内閣調査室の室長だからなあ」 研究所の回りはちょっとした公園のように木々が植えられている。回りに遮るも のが無いせいか夜空がやたらと広く感じられた。 「相当なエリートなわけだな、ナミさんは」 「なにせ、SASに2年間実習にいってトップクラスの成績だったそうだし、実戦 でもベテラン以上の成果をあげたというから天才というより怪物だよ、やつは」 おれたちは、おれの持っているパスカードを使って研究所の中に入る。宿直の警 備員は制服姿のMAYAを見て少し困った顔をしたが、おれのつれということで無 理矢理入り込む。 おれたちは4階に昇ると暗証番号キーつきの頑丈そうな鉄の扉を開き、マシン室 へと入ってゆく。深夜ではあるが、思ったとおり数人のエンジニアが作業している。 ひげ面でやせ細った男がおれに気がつき手を振った。 ここのチーフエンジニアの甲賀明彦だ。おれの隣の女子高生姿のMAYAを見て ちょっと困った顔になる。 「なんだ、困るな。あからさまに部外者つれこんでもらったら」 「いいじゃねえか。堅いこというなよ。明日疑似本番テストやるんだろ」 「ああ。今日も眠れそうにないな」 「ちょっと遊ばせろよ、こいつといっしょに」 「こいつって誰?」 「ファントムMAYAだ」 甲賀はほーうとため息をつく。 「彼女がMAYAだって?おまえが0勝十敗のか」 「十一敗だ」 MAYAがそっけなく訂正する。思わずおれが顔を顰めるのを見て、甲賀はくつ くつと笑った。 「面白そうだな」 「だろ」 「よろしく、MAYAさん。おれは甲賀明彦。鷹見の幼なじみでね」 MAYAは軽く会釈を返す。甲賀が先に立って歩き出した。MAYAがおれに尋 ねる。 「何があるんだよ」 「行けば判るさ」 コンピュータの収容されたラックとコンソールがいくつも並ぶマシン室を抜け、 奥のドアを開く。スパードッグファイトとよく似たコックピット風のブースが三つ 並んでいる。 その奥はガラス張りになっており、吹き抜けから階下が見下ろせるようになって いた。おれはその吹き抜けをのぞき込み、MAYAを呼んだ。下を見たMAYAは 息を飲む。 そこに並んでいるのはF4EJ、F15、FX−2の三機の戦闘機である。 「どういうこと」 MAYAの問いに甲賀が満面に笑みを浮かべ、解説する。 「おれたちの造っているのはジェット戦闘機の遠隔制御システムだ。ここに有るの はその試験マシンだよ」 「おい、はやくやろうぜ」 おれはF15のブースに入り込んで、MAYAを誘う。 「やるって」 「きまってるじゃないか。こいつを使って対戦するんだよ。スーパードックファイ トなんざ比べ物にならないリアルな対戦ができるぜ」 MAYAは問いかけるように甲賀を見る。甲賀は頷いた。 「鷹見にはアドバイザーとしてこの試験マシンを自由に使ってもらっている。君の 意見も聞くことができればいいな」 MAYAはF4EJのブースへ向かう。 「F15は嫌いじゃなかったのか」 MAYAの言葉におれは肩を竦める。 「どうせおまえは、F4にしか乗らないんだろ」 「まあ、何に乗ったところで恭平がこてんぱに負けるのは同じだけどね」 「おまえさあ」 おれはブース内のコックピットに座りながら、ため息をつく。 「ホイス・グレイシーだっておまえよりは謙虚だったぜ」 「誰それ?」 「誰でもいい。とにかく始めるぞ」 「ディスプレイが無いんだが」 「そのゴーグル型ディスプレイのついたヘッドギアを付けるんだ。ヘッドギアの動 きに応じてカメラが動くシステムになっている」 甲賀がMAYAの脇から説明を始める。だいたいはスーパードッグファイトと同 じであるが、操作の精度や緻密さはスーパードッグファイトとは比べ物にならない。 何しろむこうはゲームでこっちは本物を動かすためのシステムだからだ。 おれは、システムの起動をかけていく。ディスプレイに映像が映し出される。実 際の自衛隊の基地をモデルにした映像だ。映像もまた、ゲームとちがってリアルな ものだ。システムが作動するマシンの能力が桁外れに違う。臨場感はこちらが遙か に上だ。 「いくぞ」 隣にいるMAYAに声をかけおれは離陸する。MAYAも続いて飛び立った。高 度を充分にとる。こいつを使っての対戦で負ける気はしなかった。 「始めるぞ」 おれはMAYAに声をかけると、F15を旋回させる。その時いきなりワーニン グ表示が現れた。おれの後ろに機体がある。MAYAのF4EJとは別の機体、F X−2だった。 「馬鹿な」 FX−2のブースには誰もいなかった。おれが反応する間もなく、おれのF15 が撃墜された。ディスプレイの片隅にメッセージ表示が現れる。おれはそれを読み とった。 『やあ、シデン。私はゼロだ。久しぶりだね。ちょっと遊ばせてもらうよ』 おれはヘッドギアを外すと呟く。 「馬鹿な!ゼロだって?」 おれはブースから飛び出すと、コンソールを操作している甲賀のそばにいく。 「いったいどういうことだ。おまえがしかけたイタズラか?」 「システムのセキュリティが破られた。ありえないことだが。いま侵入者の端末を 特定しようとしているんだが」 おれは、壁につけられたスクリーンに投影されている映像を見る。MAYAの見 ているはずの映像と、FX−2のパイロットが見ているはずの映像が並んで投影さ れていた。 「やつは、ゼロといった」 「ゼロ?」 甲賀が聞き返す。 「なんだそいつは」 「スーパードッグファイトで、おれたちのようにノーランカーだがランカーに対し て負け無しのやつがもう一人だけいる。そいつがゼロを名乗っていた」 「強いのか?」 「おれとやって一勝一敗。しかし、やつが負けた対戦は、どっちかというとこっち の腕を確認するのが目的だったようだから、あまり参考にはならないだろうな」 「それにしてもいい腕だな」 「ゼロのやつか?」 「いや、ファントムMAYAだよ。始めて操作しているとはとても思えん。天才と しかいいようがないな」 二人の映像は目まぐるしく変わってゆく。凄まじい高速で旋回しながら有利なポ ジションを確保しようとしているようだ。確かにゼロのほうが押されているように 見える。 ゼロはおれたちと違い、伝説の存在だった。おれはランキングには入ってないが、 自分のサイトで素性を明らかにしている。MAYAについてもネット上に書き込み を行っていた。しかし、ゼロは対戦したものの噂だけしか、その存在を示すものは 無い。おれも自分が対戦してなければ、その存在を信じてはいなかったろう。 ゼロのFX−2はとうとう追いつめられ撃墜された。甲賀はコンソールを操作し ながらののしる。 「ちくしょう、アクセスログから起動ログ、通信記録から全部消去していきやがっ た。なんてやつだ」 「なにがあっんだよ」 MAYAが不思議そうな顔をしておれたちのそばにくる。おれたちは余程うちの めされたような顔をしていたんだろう。 「とりあえず、ナミに連絡をとろう。こいつはやつの仕事だ」 おれの言葉に甲賀が力無く頷く。 おれはふと思ったことをMAYAに聞く。 「おまえゼロとスーパードッグファイトやったことあるのか?」 「ゼロ?噂はネットで見かけたけど、実際やったことは無い。まさかさっきのFX −2がゼロだっていうんじゃないでしょうね?」 「その通りさ」 おれは携帯電話を取り出しながら、MAYAに応える。 「あのFX−2はゼロだよ。少なくともそう名乗った」 どうやらゼロは一回目は負けるらしい。二度目に勝つ自信があるということだろ う。
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